侍の外出時の出立 其の壱
侍の外出時のいでたちは、羽織(五箇所に家紋の付いたもの)・袴(武士のみ着用が許された)・大小の刀・白扇・雪駄・紙入れなどである。特に刀は外出時には、必ず大小二本を差さねばならなかった。おおむね、以下の通りのいでたちだった。
1.大小の刀
大刀は、二尺三寸五分(定寸)のもの、小刀(脇差)は二尺以下のものを差す。大刀の表側には「笄(こうがい)」裏側には「小柄(こずか)」が仕込
まれている。脇差にも裏側に小柄が仕込まれている物もある。
2.羽織(はおり)
羽織は一般的に、色は黒が多く、家紋(定紋)が表の両胸に一つづつ、真後ろに一つ、両袖横に各々に一つづつ、計5箇所に御紋が入っている
ものを着る。
3.白扇(はくせん・しらおうぎ)
左に白扇を差すと刀の抜刀の邪魔になるので、邪魔にならないところの右側に扇の要を下にして差す。武器としても使用し、一番固い要の
部分で相手を突く、あるいははた
く。また、ものを指し示す時にも扇子を用いた。白扇の差し方は、脇差と同じ方向に差す。
4.短袴(たんこ)
袴の一種で袴よりやや丈が短く、外出用のもの。
5.紙入れ
懐紙を入れる布ケース、懐へ入れておくもの。着物のエリから少し出して、見えるようにしておく。
6.雪駄・草履(せった・ぞうり)
基本的には侍は外出時には足袋を履かない。旅に出る時、儀礼や城内では足袋を履くことになっている。
こういったものが、侍の外出の基本的な出立(いでたち)になる。他に、以下のような小物も加わる。
7.懐紙(かいし)
懐紙は用途が広く、①刀の血糊を拭き取る ②お金を包む ③手紙を書く ④メモを取る ⑤お菓子を包む ⑤鼻をかむ ⑥汚れを拭き取る ⑦汗を拭く、などに使用する。
紙入れに収納する。あるいは懐紙のみを胸の襟元へ入れる。その際に、胸元から少し懐紙が見えるようにして挟んでおく。
8.印籠(いんろう)
薬入れで、常備薬・飲み薬・塗り薬などを入れる。根付と止め玉と紐が一対となった形状をしている。帯の右横か後ろに取り付ける。
9.矢立(やたて)
墨壷(すみつぼ)と筆入れの細い筒が一体になった、携帯用の筆記用具。墨壷には墨を染みこませた布やワタが入れられてある。少量の水やつ
ばで湿らせて墨を液化させて使用する。
10.小柄(こづか)
紐や懐紙の紙を切断したり、穴を開けたり様々な細工などに使う。投げて武器としても使う。大刀の鞘の裏側に仕込んである。
11.笄(こうがい)
髪(かみ)や鬢(びん)を整えるために使う。頭のかゆみを掻いたり、先端には耳掻き状の突起も付いている。大刀の鞘の表側に仕込まれている。
二つに割れるものもあり、箸としても使えた。
12.火打石(ひうちいし)
必要のある時に使用するために、用心のある侍は、常時懐に火打石を入れていた。
13.針
用心のため、ほころびや破れの縫い付けなどに持参した。内出血の血抜きにも使った。
14.財布
財布は長方形のもの、巾着袋状のものなどがあり、買物・飲食・心付け・部下などへの手当などに使った。羽織や着物の袂(たもと)などに、
財布代りにお金を入れる場合もあった。
15.手拭い
手拭いは、手拭き・顔拭きなどに使い、雪駄や下駄の鼻緒が切れた時に、細く裂いて鼻緒の修理に使う。また、血止めなどにも使った。
侍は月代(さかやき)と髭(ひげ)と鬢(びん=顔の両側側面の髪)は伸ばしてはならず、毎日のように、剃ったり切ったりして、手入れをしなければならなかった。