侍の言葉はなぜできたのか?

地方の武士が江戸に集まるので、地方出身の侍同士だとまったく言葉が理解できなかった。参勤交代などで、方言を自国の言葉に翻訳する通訳までいたという。そこで江戸では、武士の共通語に対する必要性が高まった。それがこの侍言葉である。一説によると、侍達が当時の共通語として唯一機能していたのは、「手紙文の形式」と、武士が好んだ芸能「能」「狂言」「謡曲」などである。これが武士の言葉(武士の共通語)に取り入れられて使われるようになった、という説がある。侍の言葉は、堅苦しくやや仰々しい言葉遣いの印象を受けるのは「能」「狂言」の話し言葉、「手紙文」の書き言葉が取り入れられているからである。ともあれ、この話し方が、武士の権威や威厳を表す為の効果に発揮されている。 

現在では「侍」と言う職業は消滅し、侍の言葉は死語となってしまった。ここに侍の言葉のサイトがあることによって、少しでも侍の文化や精神が次世代に伝わってゆくのではないかと考えた。侍と侍の言葉(文化)に興味のある方々に少しでもお役に立てれば幸甚である。


匕首・相口(あいくち)

(一)短刀の事、寸法は大体九寸五分ほどの物。

(二)鍔(つば)の無い鞘口(さやぐち)と柄口(つかぐち)がぴったりと合わさ

短刀の事。

(三)また、人に例えて、お互いに相性の合う人、話の合う人同士の事

を言う。

用例

・あの武士の娘、野伏せりの強盗に襲われて、手籠め(てごめ)れる前に、自分の匕首で喉を突いて自害して果ておったわ。

・お主と父御(ててご)は相口(あいくち)の仲と言うのは、皆存じておるわ。

 

あいや(あいや)

(一)相手を呼び止める言葉。

(二)相手の言う言葉を否定する時に使う言葉。

用例

・あいや、待たれよ。そこな御仁。

・あいや、そうでは御座らん。それはこういう事じゃ。

・あいや、暫しまたれよ。

・あいや、暫く。

 

証人(あかしびと・しょうにん)

戦国時代などで、人質の事。

用例・我が西軍の陣営に与する大名は、その証として証人(あかしびと)を大阪城に差し出すよう御願い致す。石田治部少輔三成様のご命令で御座る。この時、細川藤孝の嫡男細川忠興に嫁いだ、明智光秀の娘たま(洗礼名ガラシャ)は証人を拒否して自害して死んだ。クリスチャンであったため、自殺は出来ない。そこで部下に自分を刺殺させて果てた。

 

(あくた)

ちり・ゴミ・屑などの事。

 

芥杢田(あくたもくた)

(一)人の細部にいたる悪口の事。

(二)悪口雑言。    

(三)芥藻屑(あくたもくず)の転意

(四)つまらない事・つまらない物の事。

(五)欠点や短所の事。

用例

・なんじゃ、この手紙は!このわしの芥杢田が書いておる、誰が  何故(なにゆえ)によこしたのじゃ?

・あやつは城内でも嫌われ者じゃのう、皆、あやつの芥杢田を言いおるわ。

 

浅葱・浅葱色(あさぎ・あさぎいろ)

(一)薄い藍色・水色・薄青色の事。

(二)浅黄・浅黄色とも書く。

(三)別名、六位。(六位の袍(ほう=羽織)が浅葱色であったから)

(四)田舎侍の別称。田舎の侍はいつも田舎者らしく浅葱色の羽織を着ていたから。

(五)江戸の遊郭で、田舎侍を馬鹿にして言う言葉。遊郭に来た田舎侍の羽織の裏地は皆、浅葱木綿だったから。略して「あさぎ」「あさぎいろ」などと言って馬鹿にした。

(六)新選組も武士としての身分が低いため羽織は浅葱色となっている。

 

足軽(あしがる)

(一)足軽は中世の時代からある兵卒の意味をもつ。

(二)足軽は戦の合戦の度に農民などから集められて兵卒として雇われ

 た。その後、兵農分離が進み、それが専門に職業化した。

(三)応仁の乱・文明の乱以後には、足軽も力を持つようになり、乱暴

 狼藉の横行が流行、幕府も手に負えなくなっていた。

(四)これを統率・組織的に訓練して、職業軍人の兵卒としての地位を

与えたのが戦国武将である。

(五)江戸時代初期には、足軽同心・馬上同心などと言う呼称に変わ

り、これがその後に与力・同心と言う名称と役柄に変わった。なので、江戸時代には、同心・与力が足軽に相当する。

(六)身分としては、一応武士ではあるものの、藩主にはお目見え出来

ない下級武士である。徒士(かち)より下で、中間・小者の上とい身分であった。

(七)武士の衣装である「袴」は着用が許されなかった。着物の着流し

に上から羽織を着るスタイルが与力・同心の衣装だった。

 

悪様(あしざま)

(一)悪い様子に見える事。

(二)悪い風に見える事。

(三)悪意をもって見える様(さま)

用例

・わしを悪様に言いおって、許せぬ。

・筑前殿下(秀吉)の御前においては、悪様に申してはならぬ。よくよく心得よ。

 

遊ばす(あそばす)

(一)「遊ぶ」の尊敬語。

(二)室内にて遊ぶ事。

(三)室外にて遊ぶ事。(例:狩りを楽しむ事など)

(四)管弦楽(演奏)を楽しまれる事。

(五)広義には「なさる」「される」の尊敬語

(六)高貴な方に対して使う言葉。

用例

・上様は只今茶の湯を遊ばされて御座います。

・一条様は只今中庭にて近習と蹴鞠を遊ばされておりまする。

 

仇敵(あだかたき)

(一)憎々しい仇(かたき=相手)の事。

(二)仇敵(きゅうてき)の事。

 

徒や疎か(あだやおろそか)にしてはならぬ。

(一)かりそめにもなおざりしてはいけない。

(二)少しでもいい加減なことをしてはいけない。

(三)大雑把(おおざっぱ)にしてはならない。

(四)大雑把に取り扱ってはならない。

用例

・この御刀は上様より拝領したものじゃ。徒や疎かに扱こうてはならぬ。我が一族の家宝じゃ。

 

能わず・適わず(あたわず)

(一)~できない。

(二)合わない。

(三)適合しない。

用例

・上様に相見(あいまみ)えること能わず…。

・この狩衣は汝が着るものに能わず(サイズわない・着るべきでない・着資格がない)

 

天晴(あっぱれ)

(一)武士が褒める時に使う言葉。

(二)武士が感動した時に使う言葉。

(三)見事なさまの事。

(四)非常に優れているさまの事。

用例

・その方、天晴じゃ。

・天晴なる戦場での働きよ。

・このような剛の者も珍しや、天晴なり。

 

跡・跡目・跡目相続(あと・あとめ・あとめそうぞく)

(一)戦国時代で、武家での地位・財産・一族郎等の家来などを受け継ぐ後継者の事。

(二)家督相続・家督相続者・後継者・相続人・相続権の事。

(三)基本的には長男が相続した。

(四)跡目、相続人を主君が存命の内にあらかじめ決めておいて、家臣・家来たちを安心させておくことは戦国大名にとっては大変重要な事であった。

(五)戦国大名は後継者を選ぶ時には、家臣達から見て、公正に選び、実力が伴う後継者を選ばなければならなかった。いくら我が子が可愛くても愚鈍・臆病者・人心掌握できない者は選ばれなかった。

 

案内(あない)

(一)案内を乞う事。

(二)手引きを乞う事。

(三)問い質す事。

(四)通知・知らせの事。

(五)文書・物事の内容の事。

用例

・御面倒をお掛けするが、安藤殿の宅まで案内下され。

・此度の由利殿の知らせは、城での典礼の案内じゃ。

 

あなや

(一)驚いた時に発する言葉。

(二)驚いた時に出す声の事。

用例

・あなやっ!何をするか!

・あやつ、驚きのあまり「あなやっ!」とほざきおったわ。

 

兄上(あにうえ)

兄弟・兄妹の下の者が上の兄を尊敬して呼ぶ言葉

上級武士が使った言葉。

 

兄君(あにぎみ)

兄の尊敬語

 

兄御前(あにごぜ・あにごぜん)

兄を尊敬して言う言葉。

 

兄様(あにさま)

兄に対する尊敬語

 

兄者・兄者人(あにじゃ・あにじゃびと)

(一)兄に対する尊敬語。

(二)下級武士などが使った。

用例

・ここは何処?あんたは誰? 忘れたか、わしはお前の兄じゃ。

 

豈図らんや(あにはからんや)

(一)どうしてそのようなことを考えようか。

(二)意外な事には。

(三)思いがけずに。

用例

・そうかと思えば、豈図らんや。

・日照りが続いていたと思えば、豈図らんや大雨が降ってきたわい。

 

姉上(あねうえ)

姉弟・姉妹の下の者が上の姉を尊敬して呼ぶ言葉

 

姉君(あねぎみ)

姉の尊敬語

 

姉御前(あねごぜ・あねごぜん)

姉を尊敬して言う言葉。

 

姉様(あねさま)

姉に対する尊敬語

 

姉者・姉者人(あねじゃ・あねじゃびと)

(一)姉に対する尊敬語。

(二)下級武士などが使った。

用例

・姉者、夜の道は危ない。後ろに護衛を一人密かに付ける故、気を付けて参られい。

 

穴太衆(あのうしゅう)

(一)滋賀県の近江坂本在住の、石積・石垣建設の高度な専門技術をもつ技術集団の名称。

(二)近江八幡の信長の居城「安土城」や明智光秀の居城「坂本城」の造営が有名。

(三)戦国時代~江戸時代には、その土地の戦国武将や藩主に乞われて各地の築城に参加した。

(四)穴太衆の技術は、その後も受け継がれ、建設会社や庭師、城の石垣の修復などに生かされている。地元の石組み集団は今でも穴太衆と呼ばれている。

(五)日本全国の城郭の石垣建設の八割は穴太衆の手によるものと言われている。

 

怪かし・妖(あやかし)

(一)怪しい者(物)。

(二)妖怪変化。

(三)海上に現れるという幽霊の事。

(四)舟幽霊・海幽霊の事。

(五)阿呆・痴呆・馬鹿者の事。

(六)小判鮫(こばんざめ)の事。船底に取り付き、舟を動かなくする事。

用例

・あの怪しい光は何じゃ?漁火(いさりび)か?妖怪妖(あやか)か?

 

殺める・危める(あやめる)

(一)傷つける事。

(二)殺す事。   

用例・三人もの町人を殺めるとは、下手人は人非人(にんぴにん)ゃ、是非に及ばぬわ。

・わしは若い頃に刃傷沙汰を起こしての、二人の徒(かち)を殺めておるのじゃ。

 

荒子(あらしこ)

(一)戦国時代、武家の様々な労働に従事した武家専門の奉公人。

(二)荷物の輸送、土木工事、陣地の設置、道路補修、炊事、洗濯など様々な雑務、雑用をした。

(三)屋敷、戦場など様々な場面においても仕事に従事した。

(四)荒子は階級的には、中間・小者の下に置かれた。

(五)荒子は、農民や町人とは違い、武家のヒエラルキーに属するとして区別された。

(六)原則として、荒子は町人や農民になることは禁じられていた。

 

非ず(あらず)

(一)そうではない。

(二)違う。

(三)否(いな)

用例

・ざんばら髪の我は禿武者にあらず、落武者也(なり)

・我は謀反の逆賊に非ず、すめらみこと(天皇)の詔勅により第六天魔王の信長を誅殺した明智光秀なり!

 

有体(ありてい)

(一)ありのまま

(二)事実そのまま

(三)嘘・偽りのない事

(四)ありきたり

(五)通り一遍の事。

用例

・事の仕儀は一体如何なる事じゃ。有体に申せ。

・何故、このわしを斬ろうとしたのじゃ。嘘偽りはならんぞ。有体に申せ。 

 

荒武者(あらむしゃ)

(一)荒々しい武者の事。

(二)勇猛果敢な武者の事。

用例

・我らは関ケ原の戦場(いくさば)を生き抜いた荒武者よ。

・あの猛け狂った荒武者は、まるで鬼人の如きじゃ。

 

有間敷(あるまじき)

(一)あってはいけない。

(二)あってはならない。

(三)あるはずがない。

用例

・このような悪しき事、有間敷(あるまじき)事じゃ。

・当藩においては、有間敷(あるまじき)事じゃ。

 

安気(あんき)

(一)心が安心している事。

(二)心安らかにしている事。

(三)心配事が何もない事。

用例

・手はすべて打った故、もう心配は御座らん。直に吉報が参る故、それまで暫しの間安気に過ごされればよい。

・案ずるな(心配するな)安気にしておれ。

 

行脚(あんぎゃ)

(一)諸国を徒歩で旅する事。

(二)僧侶が諸国を巡り、修行をする事。

 

安座(あんざ)

(一)両足の膝を曲げて、足を前後に組む座り方。

(二)足の付け根から足先まで床につくので安定感があり楽な座り方。

(三)膝頭より足は出ず、膝前の一直線上の中に足を収納した座り方。

(四)自分で寛(くつろ)ぐ時、部下との楽に話し合う時などにする座り方。

 

案ずる(あんずる)

(一)心配する事。

(二)気遣う事。

(三)考える事。

(四)工夫をする事。

用例

・案ずるな、あの件は沙汰止み(さたやみ)になった。

・案ずるより産むが易しじゃ。

・案ずれば通ず、答えが出るまで考え抜く事じゃ。

 

安着(あんちゃく)

(一)無事に到着する事。

(二)無事に落ち着く事。

用例

・長い旅路で御座ったが、無事に我が在所に安着出来たわい。

・峠の山道で野伏(のぶせり)に襲われ、如何なる事になろうやと案じたが、無事に目指すこの宿(しゅく)に安着出来た。

 

行灯・行燈(あんどん)

(一)江戸時代の室内灯の事。

(二)木の枠に和紙を張って、中に燭台(油の皿)を置き、灯芯に火を付

けて灯す燭台。

(三)室内に置く物・柱に掛ける物・手に持つ物・提げて持つ物などが

ある。

 

行灯袴(あんどんばかま)

(一)行燈のようにスカート状になっている袴の事。

(二)中にはマチがなく裾をめくるだけで用の大小がたせた。

(三)袴の不便を改善した袴

如何様(いかさま)

(一)インチキなもの。

(二)詐欺・詐欺的なもの。

(三)「いかさまもの」の略。

(四)他に「どのような」の意味もある。

(五)推測から確信して、きっと・いかにも・さては・なるほど、などど言う。

用例

・貴様等、博徒の振るさいころは、細工がしてある、これは如何様であろう!

・この品物、銀にしては軽すぎる、銀に似せた如何様物であろう!

・如何様(いかさま)あやつも盗賊の一味であろう。さすがは火付盗賊改めの長谷川殿、御明察で御座る。 

 

如何にも(いかにも)

(一)まさにその通り。

(二)まったく、その通りのさまだ。

(三)どんなことがあっても。けっして。

(四)どうにかして。なんとか。

用例

・如何にも、その通りじゃ。

・拙者、如何にも嘘は申さん。

・これがデパ地下名物イカ焼きか?イカにも!

 

戦神(いくさかみ・いくさがみ)

()戦いの神、武運を守護する仏神の事。

()神道では、八幡神(はちまんしん)・経津主(ふつぬし)・武甕槌(たけみかずら)の三神。

()仏教では、摩利支天・将軍地蔵・不動明王・毘沙門天など。

()兵家では、北斗七星。

()上杉謙信の毘沙門天の念持仏は有名。また、八幡神への信仰は、千年以上の昔から武士の信仰を集めていた。

 

いかぬ

(一)いけない。

(二)よくない。

(三)出来ない。

(四)うまくゆかない。

(五)成就しない。

(六)成功しない。

(七)だめだ。

用例

・ううむ、これではいかんともし難い。

・これではいかぬ。

・いかぬ、我が方の戦法の裏をかかれている。 

 

軍奉行(いくさぶぎょう)

(一)仕える主君に戦の戦術・軍略を立案する役職(人)の事。

(二)移り変わる戦局ごとの、或は戦局全体の監視・変更・立案・助言・勧告・忠告なども行った。

(三)軍監(ぐんかん)や軍目付(いくさめつけ)などに等しい役割もあった。

(四)軍奉行は、各地の大名ごとに軍の組織での「名称」や「役目の内容」は各々異なる場合もある。

(五)江戸幕府における軍奉行は「大目付」「旗奉行」「槍奉行」が軍の三奉行と呼ばれる。

 

委細(いさい)

(一)詳しい事情

(二)詳細の事

用例

・委細承知仕った。(いさいしょうちつかまつった)

・要領がつかめぬゆえ、詳しく委細を申せ。

 

いざ

(一)さぁ

(二)人を誘って、または思い立って事をし始めようとする時に使う言

      葉。

用例

・いざ、鎌倉! 

・いざ、討ち入りじゃ! 

・いざ、参ろう!

 

意趣斬り(いしゅぎり)

(一)恨みを晴らすために人を斬る事。または斬り殺す事。

(二)仇討ち免許状もなく、恨みから相手を殺害した場合には、殺害現場から逃げる事は許されず、その場で、すぐに切腹(自害)しなければならなかった。侍の掟である。

用例

・我慢ならん、殿の面前で恥をかかせたあの男、意趣斬りで恨みを晴らす!

・お主は京之助、さては先度、お前に恥をかかせたのを恨んだ意趣斬りか!  

 

意趣返し(いしゅがえし)

恨みを以て斬り殺しに来た相手を逆に斬り殺す事。

 

致置(いたしおく)

やっておいておく事。

用例

・上様のお言葉通り、そのように致置まして御座いまする。

 

痛み入る(いたみいる)

(一)(過分な好意などに)恐れ入る事。

(二)恐縮する事。

用例

・かような褒美を頂き、痛み入りましてございます。

・このような遠方の伊丹藩にまでお越し下さいますとは、我ら一同痛み入りまする。

 

一時(いっとき・ひととき)

(一)今の二時間の事。

(二)ひととき・暫時の時間・一時。

(三)同時。

用例

・ううむ、きゃつを待ち伏せて、はや一時が過ぎた。

 

一存(いちぞん)

(一)自分の考え。

(二)自分一人の考え。

用例

・拙者の一存では決めかねる。やはりご家老様のご助言が必要じゃ。

 

出立(いでたち)

(一)旅立ちの事。

(二)立っている時の姿、様子の事。

(三)装いの事。

(四)身繕いの事。

(五)世に出る事。立身出世の事。

用例

・若様、初陣を飾るその出立(いでたち)凛々しゅう御座りますぞ。

・凛々しい若武者の出立で御座る。

 

異なこと(いなこと)

(一)変わった事

(二)妙な事

(三)不思議な事

用例

・不思議じゃ、これは異な事じゃ。

・何を異な事を申される。

 

犬追物(いぬおうもの)

(一)犬を追いながら、馬上より弓を射かけて当てる競技・訓練。

(二)二十一尋(21ひろ=約38.2ⅿ)の縄を輪にした円形の馬場で、36騎の射手が3手に分かれて、そのうちの4騎づつで円の中央にいる犬を矢で射る。

(三)犬は放たれるか、或は首を長めの縄でかけ、円形中央の木に括り付けられて、円形の縄の中からは外へは出られぬようになっていた。

(四)建前は、犬を射る矢は鏃(やじり)を付けない蟇目(ひきめ=引目)という音を発する鏑矢(かぶらや)のような矢で射た。が、犬を本物の矢で射殺す武士もあった。

(五)中世武士の間では盛んに行われたが、応仁の乱以後は廃れてしまった。わずかに島津家に伝来し伝わっている。

 

帷幕(いばく)

(一)たれ衣(きぬ)と引き幕を合わせた物。

(二)陣営を取り巻く垂れ幕の事。

(三)戦場(いくさば)での陣営の事。

(四)本陣の事。

(五)帷幄(いあく)の事。

(六)軍略・戦略・機密事項の事などを詮議・会議する場所。

用例

・重要な軍略を儀することゆえ、拙者も帷幕の中に入り儀に加わった次第じゃ。

・帷幕がめくられて、具足姿の御屋形様が入って参られた。

 

(いみな)忌名

(一)武士の本名。

(二)実名(じつみょう)とも言う。元服の時に、幼名から実名(諱)となる。

(三)部下は主君・上司を本名で呼ぶことは、大変無礼なことで許され なかった。

(四)本名で呼ぶことが出来るのは、親・幼馴染み・師匠・主君などで

 ある。

(五)主君や上司を呼ぶ時は、官名・苗字・仮名(けみょう)・通名(一般的

に呼ばれていた名前・一般的に通じる呼称)で呼んでいた。 (御屋形様・上様・御(ごぜん)・お目付様・近江守様など)

(六)当時、武家においては、本名は神聖なものと考えられていた。

(七)また、日本人には「言霊」信仰があり、言葉は力をもっていて、

外部の世界に影響を与えると考えられていた。

(八)この時代は、本名を呼ばれることによって、呪いをかけられて呪

殺されるとも考えられていた。故に、主君や親以外が諱を呼ぶことは憚られていた。 

 

印地打・因地打・印陳打 (いんじうち)

(一)端午の節句の日(五月五日)に河原や海岸や広場で子供達が二手に 分かれて、小石を投げ合う遊びの事。

(二)石合戦の事。

(三)石礫(いしつぶて)の事。

(四)豊作・凶作などを占う行事でもあった。

(五)織田信長も子供の頃、この遊びを非常に好んだ。

(六)武士の中にも印地打に長けた者もいた。

(七)忍者なども、攻撃・攪乱・暗殺などに巧みに用いた。

(八)甲斐の武田軍には「印地打」という石の投擲(とうてき)を専門にする部隊があった。布に石礫をはさみ、これを振り回して遠心力をつけて遠くの敵に投擲(とうてき)する。結構な打撃・破壊力があった。

 

隠居(いんきょ)

(一)現在でいう仕事をリタイアする事。またはリタイアした人の事。

(二)江戸時代は大体45才~50才位、遅くとも65才位には隠居した。

(三)武士の宮仕えが嫌で早々に隠居する人もいた。

(四)有能な人は引き止められたり、隠居後に特別な役目を与えられたりした。

(五)隠居した後は、盆栽・釣り・俳句や狂歌などの趣味をもち、子供たちには手習いを教えたりした。

(六)お金に余裕があれば、遊郭に出入りしたり、妾(めかけ=愛人)を囲って余生を楽しんだ。

(七)なかなか隠居しない老人は、老害を迷惑がられ強制的に隠居させられた。 

 

音物・引物(いんもつ・いんぶつ・ひきもの)

(一)贈り物。

(二)贈答品。

(三)進物。

用例

・そちに音物を遣わす。持ち帰るがよいぞ。

・これは主君、康正様より賜った音物に御座います。

 

印籠(いんろう)

長方形で角が丸まった形をし、一段から五段の小箱を両脇の穴に紐を通して、緒締め玉と先端に根付を取り付けた物。初めは印肉などをいれていたが、江戸時代になってからは、薬類を入れた。帯に根付をくぐらせて帯留めにする。材質は象牙・梨地・黄楊などで、表面には蒔絵・螺鈿細工などが施してある。最初は印肉を入れたので印籠と呼ばれる。 

初奴・愛い奴(ういやつ)

(一)初々しいやつ

(二)可愛いやつ

用例

・若い女性を抱き寄せて「お殿様うっふ~ん」「愛()い奴よのう…

殿様が自分の為に働いてくれた部下、殿様の褥(しとね)同席した若い女性などに使う言葉。

 

打飼い(うちかい)

(一)金銭などを入れて腰に巻く袋。

(二)武士が旅行などに、小物や薬、道具などを入れて背中に背負い胸

元で結んだ、網目の袋の事。

(三)筒状の底のない袋の事。

(四)狩りの時に、犬に与える餌を入れた袋の事。

用例

・おい、武士たる者は両手を使えるように、路銀、小道具類は打飼いに入れておくのゃ。

・重い打飼いじゃ、この遠路じゃと背負うのも疲れるわい。

 

討捨(うちすて)

(一)斬って捨てる事。斬り捨て。

(二)戦場などで殺された足軽・雑兵などの価値のない遺体を放ってお

いて、さらに進撃する事。

(三)大将の首などは報償に値するが、足軽・雑兵の首はその価値がな い。よって討ち捨てられる。

(四)斬り捨てた遺体を始末せずにそのまま捨て置く事。放っておく事。見せしめの晒し刑でもあった。

戦国時代の言葉であるが、江戸時代にも使われた言葉。

 

討捨首(うちすてくび)

報償の手柄とならぬ、無価値の雑兵・足軽の首の事。

戦国時代の軍事用語。

 

打物(うちもの)

(一)打物師が鋼(はがね)=(鉄)で鍛えた武器一般を言う。

(二)金属を鍛えて武器・器具を造る事。

(三)刀・槍・短刀・他の金属製品などの事。

(四)打楽器の事。鐘・太鼓・鼓・鉦鼓など、打ち鳴らす楽器の事。 

 

虚・空け (うつけ)

(一)まぬけ・愚か(者)

(二)中がうつろになっていること・から・空虚(な人)

(三)気が抜けてぼんやりしていること・またそのような人

用例

・どうした?虚けのようになって・・・。

・お前のような空けがさらにボケてしまっては、もうお終いじゃ。

・お前のような虚けにはこれは無理じゃ。

 

空者・呆気者(うつけもの)

(一)うっかり者・ぼんやりしている者

(二)間抜け・愚か者

用例・噂では、織田の若君様はうつけ者と聞き及びまする。

 

討手(うって)

(一)逃げる罪人・謀反人・敵などを捕えるため、または殺害するため

に追う人の事。

(二)追手の事。

用例

・突如出奔した下士に、討手の命が下った。

・おい、この密書を奪うために、討手が迫っているそうだ!

 

汝・汝等=己・己等(うぬ・うぬら)

相手を卑しめて言う言葉。

用例

・これは、うぬらの仕業か?許せぬ! 

・うぬとて知らぬとは申せまい!

・うぬ、成敗してくれるわ!

武士が、相手を卑しめて・貶めて、言う言葉  

 

胡乱(うろん)

(一)いい加減である事。

(二)乱雑である事。

(三)不誠実な事。

(四)疑わしい事。

(五)胡乱者→怪しい者・疑わしい者。

用例

・このような胡乱な報告書があるものか、正確かつ有体に報告せよ。

・ご家老の食客の浪人者、何やら胡乱な感じが致すわい。

・あの流れ者、ただの胡乱者ではあるまい、あの身のこなしを見よ。

 謁見(えっけん)

貴人・位の高い侍・上司などに面会する事。

用例

・此の度、近江守様より謁見を賜りまして御座います。

 

江戸表(えどおもて)

(一)地方から江戸を指して言う言葉。

用例

・早急に江戸表に早馬を仕立てぃ!

・ご家老様、只今江戸表より、加地殿が戻られました。

・これより書状をもって江戸表へ向かう。 

 

江戸詰め(えどづめ)

(一)大名・家臣・家来が江戸の藩邸で勤務する事、した事。

(二)江戸の藩邸に勤める武士の事。

(三)江戸番の事。

用例

・こうも江戸詰めが長いと、故郷の国が懐かしくなるのぉ。

・やはり、良いのは江戸詰めより国詰めじゃの。

 

遠慮(えんりょ)

(一)江戸時代の刑罰のひとつ。

(二)微罪の僧侶・僧尼・武士に対して、自宅の門を閉じて籠居(謹慎)

させた。

(三)昼間は誰にも会う事を許されなかった。

(四)夜間は、くぐり門などからの出入りは許されていた。

御家流(おいえりゅう)

(一)和様書道の一派で青蓮院流の事。(と言われている)

(二)江戸時代の公文書はすべてこの字体と崩し方で書かれた。

(三)香道の流派の中の一派の事、三条西実隆が創始者である。

(四)江戸初期に活躍した能書家で僧で、画家の松花堂昭乗の書体を言う説もある。

(五)和様書道の御家流の成り立ちは学術的には未だ判明していない。

用例

・さすがは、殿の祐筆じゃ、見事な御家流の文字じゃ。

・農民も町人も武士もみなこの御家流で文字を書くのじゃ。

 

追切(おいきり・おいぎり)

(一)逃げる敵を追いかけて斬って捨てる事をいう。

(二)合戦では敵の軍勢の敗走を追って斬捨てながら追撃して行く事。

 

老武者(おいむしゃ)

(一)年老いた武者の事。

(二)戦場で多くの経験を積んだ老練の武者の事。

(三)戦や武士の生業に巧みで慣れている事。老巧の事。

 

追腹(おいばら)

(一)家来が死んだ主君の跡を追って切腹すること。

(二)殉死のこと。

(三)共腹のこと。

 

押妨(おうぼう)

(一)戦国時代において他人の領地を武力で奪うこと。

(二)文書の偽造。

(三)取引上の違法行為。

(四)不法行為一般。

 

往来物(おうらいもの)

(一)庶民の初等教育(特に寺子屋教育)に用いられた教科書の総称。

(二)鎌倉・室町から江戸・明治初期まで使われた。

(三)元々は、消息往来(手紙のやりとり)の手紙の文例集の教科書から始まった。

(四)手書き物・版本物合わせて、現在1万種類近くの往来物(教科書)

が発見されている。

用例・これ慎之介、寺子屋の先生から庭訓往来は教わったのか?

「商売往来」「農業往来」「諸職往来」「八百屋往来」・・・よくこれだけの業(なりわい)の往来物を学んでおるものよのお。

武士の教科書は「四書五経」往来物は庶民の教科書であった。それでも武士が自宅で農業などするものがいれば、「農業往来」「満作往来」などを農業の参考に使った。

 

大目付(おおめつけ)

(一)諸大名の行動・藩内の問題等の監視。

(二)幕政の監察。

(三)諸役人の監視。

(四)老中配下の組織。

(五)役高三千石。

(六)四~五名の者が任命された。

 

御駕籠(おかご)

(一)将軍の乗る駕籠の事。

(二)将軍にのみ乗る事が許された駕籠。

(三)駕籠に御(おん)が付くか付かないかで、将軍の駕籠か他の駕籠かの区別がついた。

 

御駕籠之者(おかごのもの)

(一)将軍の駕籠を専門に担ぐ人。

(二)将軍の駕籠に近侍するため、将軍に関する見聞した事の守秘義務が求められた。

(三)二十俵二人扶持。将軍家の三河出身で譜代ならば二十俵五人扶持。

(四) 跡継ぎが低身長者の場合はお雇い不可のため、長身の養子をとった。

 

岡場所(おかばしょ)

(一)江戸時代の私娼地の事。

(二)幕府の許可した遊郭「吉原」以外の深川・新宿・品川・築地など の遊郭の事を言う。

(三)男性が春を買う場所。中級・下級の侍が通った所。

用例

・よう、旦那、今日も岡場所ですかぃ?

・これ、慎之介、岡場所に通うのもいい加減にして、学問・剣術に励まんか。

 

拝み討ち(おがみうち)

(一)上段に大きく構えて一刀両断する事。

(二)両手を合わせて斬るのが、拝むように見えるため

(三)斬る相手に成仏を祈りながら斬る事。

用例

・最後の止めは拝み討ちじゃな。

・狼藉者の冥土への引導が拝み討ちであったか。

 

臆する(おくする)

(一)恐れる事。

(二)気おくれする事。

(三)おどおどとする事。

(四)怖気(おじけ)づく事。

用例

・いざ、あの軍勢めがけて突撃じゃ! どうした権之助、臆したか!

・いざ勝負じゃ! 何をしておる、早よう参れ。竜之進、臆したか!?

 

押込(おしこめ)

(一)江戸時代の刑罰のひとつ。

(二)一定期間、本人を一室に閉じ込めて、出入りを禁ずる刑。

(三)蟄居(ちっきょ)の事。

(四)禁籠(きんろう)の事。

 

押込・押込隠居(おしこめ・おしこめいんきょ)

(一)押し入れる事。

(二)強いて入らせる事。

(三)閉じ込める事。

(四)内に詰め込む事。

(五)江戸時代、殿様(または一家・一族の代表の者)を本人の意思に関わらず、強制的に隠居させる事。

(六)暗愚(あんぐ)な殿様・悪逆非道な殿様・我儘勝手な(わがままかってな)殿様など、このままでは一家が傾く、あるいは家門断絶に陥るおそれがある場合に、その殿様を親族・後見人・家来などが強制的に隠居させる事

(七)場合によっては、地下の牢屋などに押し込めた。

(八)暗殺・毒殺もあった。

 

御忍(おしのび)

(一)身分の高い人が密かに外出する事。

(二)お忍び歩きの事。

(三)御忍駕籠の略

用例

・上様がお忍びで前田藩上屋敷の殿にお会いに参られたようじゃ。

・ふふ、今宵も御忍で参るか・・・、獲物がかかれば新刀の試し斬りじゃ。

 

恐れ入る・畏れ入る(おそれいる)

(一)大変恐れる。

(二)過ちをさとって詫びる。恐縮する。

(三)かたじけなく(ありがたく)思う。

(四)勿体無い(もったいない)と思う。

(五)相手の力量、実力に圧倒され、屈する事。

(六)まったく呆れる。

用例

・殿のそのお言葉、恐れ入りまして御座いまする。

・用事を何度もお頼みして恐れ入るが。

・恐れ入りました。

・まったく恐れ入った話ではないか。        

・江戸時代からの「恐れ入る」の洒落としてよく使われる「恐れ入谷の鬼子母神」(おそれいりやのきしもじん)お主の言う事には恐れ入ったわ「恐れ入谷の鬼子母神」ってところじゃのう。

 

恐乍・乍恐(おそれながら) 恐乍➡口語 乍恐➡文語

(一)恐れ多いことでございますが、の意。

(二)恐縮では御座いますが、の意

(三)殿様など自分より身分の高い人に言う、前置きの言葉。

用例

・恐乍(おそれながら)申し上げます。此度(こたび)の件、今一度詮議をお願い申し上げまする。渡部殿は無実にて御座れば…。

 

御試御用(おためしごよう)

(一)将軍家腰物奉行の配下に属する。

(二)身分は牢人(浪人)である。直接幕府の組織には属さないが、幕府の司法の一役を担っていた。罪人の骸(むくろ)を斬って、刀の切れ味を牢屋奉行と共に検分をして、腰物奉行に報告した。

(三)また、罪人の首(武士・僧侶などを除く一般庶民の罪人)を斬る仕事も合わせて行っていた。

(四)もともと、町奉行や火付け盗賊改めに「首切り同心」というのがいて、死罪人の首を斬る事になっていた。しかし、しばしば失敗し首切り同心の面目丸つぶれの醜態をさらすので、試刀の達人の山田浅右衛門に依頼したのが始まりである。 

(五)罪人を斬るという汚い仕事で、武士にあるまじき仕事なので、幕府に直接属さぬ浪人身分のものに斬らせて、同心や腰物奉行が礼金を払うという仕組みになっていた。

(六)各大名家からの新刀の試し斬り依頼も多く、二人の罪人の胴を切り落とした場合には、二ツ胴の刀、三人の罪人の胴を斬り落とせば、三ツ胴の刀と言われ、新刀の茎・中心(なかご)に切り込みまたは象嵌で、試刀の年月日、裁断の結果(二ツ胴・三ツ胴など)、斬り手の姓名の花押が記される。将軍家お抱えの人間に試刀してもらった刀なので、その権威は絶大なものであった。各大名や有力者などがこぞって浅右衛門に新刀の試し斬りを依頼し、高額のお試料を払った。

(七)刀剣の鑑定、刀剣の売買(仲介業者)もして収入を得ていた。

(八)罪人の死体の売買、漢方薬の材料(労咳の薬=人胆丸)となる人の肝の売買で権利を独占していたので、かなり裕福な暮らしぶりだったと言われている。蔵がいくつもあったという記録も残っている。

(九)同様に罪人の骸(むくろ)から小指を切り取り、吉原の遊女に売っていた。馴染みの客に起請文とともに小指を送って愛情の証としていた。遊女にとっては、ありがたい商売道具になっていた。

(十)「首切り浅右衛門」と言われる山田浅右衛門が代々この仕事を担っていた。

(十一)その卓越した技術を慕って、弟子になる者も多く、大名家の家臣やその子弟、旗本や御家人までいた。

(十二)常人を越えた卓越した技術が必要なために、優秀な弟子を養子にとり、跡継ぎにしていた。

(十三)江戸末期最後の首切り浅右衛門は、名人とうたわれた八代山田浅右衛門吉亮。彼は罪人を斬首する前に、涅槃経の四句を心中に念じた。柄に掛けた右手の人差し指を下す時に「諸行無常」、中指を下す時には「是生滅法」、薬指を下す時には「消滅滅己」、小指を下す時には「寂滅為楽」と、唱え終えたその瞬間に罪人の首がおちたそうだ。後年、浅右衛門吉亮は人に尋ねられてそう告白している。罪人の首を斬るという業の深い生業(なりわい)、そして死にゆく罪人のために成仏・滅罪を祈ったのだろう。

(十四)山田浅右衛門を活写した漫画が「首斬り朝」(原作:小池一夫 画:小島剛夕)である。2009年の段階でアメリカでは75万部を超えるベストセラーとなっている。描かれた作品には、侍たる浅右衛門の信念や思想(サムライ・スピリッツ)が溢れている。

 

御為者(おためもの)

(一)主人の利益を最優先にして、下の者には厳しく当たる、成り上がりの家臣。

(二)表面は相手の為になるように言うが、実は自分の利益や有利になるように取り計らう事。

(三)ゴマすり。

(四)主人にへつらって自分の利益を計る人。

用例

・あやつ、ご家老に媚びへつらいおって、とんだ御為者よ。

 

押っ取り刀(おっとりがたな)

一大事や危急の呼び出しがあった時に、自分の太刀を腰に差す間もなく、慌てて太刀を掴んで早急に駆け付ける事。

 

落武者(おちむしゃ)

戦場で敵方に敗けて敗走する武士の事。

 

落武者狩(おちむしゃがり)

(一)戦場で負けて敗走する武者を待ち構えて殺戮する事。

(二)どちらかが敗けたと伝わると、雑兵だけでなく、農民・庶民・僧兵なども落武者狩りに加わった。落武者の首に賞金などがかかっているからである。

(三)特に農民などは田畑を荒らされ、家族には乱暴狼藉をされ、家も破壊・放火をされて、その恨みは骨髄に達している。自分達も竹槍・鎌などの武器をもってハンパない復讐をした。

(四)農民達は殺害した落武者の持ち物をすべて奪った。鎧・兜・甲冑・刀・槍などを奪い、着衣も褌(ふんどし)まで奪った。奪った物は、自分たちの物にし、あるいは売却した。

(五)落武者狩りで有名なのは、大阪夏の陣での10年に及ぶ落武者残党狩りが有名である。他にも天王山で行われた山崎の合戦で敗れた落武者明智光秀の話が特に有名。落武者となった光秀は、京都伏見の小栗栖で土民(土着の農民)に発見され襲われた。絶命直前光秀の首は部下によって介錯され、一旦は土中に埋められていたが、後に掘り起こされ、首と胴体を杭で繋がれて、本能寺で裸でさらされた。後には、部下の斎藤利三と一緒に京都の粟田口に再度さらされている。光秀の遺骸の一部は京都市内の祠に祀られており(伝承)、大津坂本の明智家菩提寺西教寺には、一族の墓と共に光秀の供養塔が建立されている。部下の斎藤利三は親友の画家、海北友松によって京都東山の真正極楽寺に葬られている。

 

落差(おとしざし)

(一)刀を下に落とすように、垂直に近い形で差す差し方。

(二)一本差しの浪人者がよくした差し方。

(三)刀の鞘を下に落とすだけで、素早く抜刀ができた。

 

御留流・お止流(おとめりゅう)

(一)幕府・各藩が門外不出とした剣術流派の事。

(二)藩外への公開・伝授は禁止とされた。

(三)殿様と上級藩士のみしか伝授されなかった。

(四)御留流となった剣法の名前の名乗りも許されなかった。

(五)他流試合も禁止・私闘も禁止であった。

(六)公開されないが故に、技や太刀筋を読まれず、いざ戦いの時には

有利であった。

 

御成(おなり)

(一)将軍・皇族・摂関家・幕府要職者など身分の高い人々の外出の尊 敬語。

(二)将軍・皇族・摂関家・幕府要職者など身分の高い人々の到着の尊

敬語。

用例

・上様の(将軍)御成ぁり~。(将軍のお出ましを告げる口上・言葉)

・酒井雅樂守(さかいうたのかみ)様の御成じゃ、平伏してお迎えよ。

 

各々方(おのおのがた)

(一)皆様方

(二)各自の皆様

用例

・各々方、油断召されるなよ、腕の立つ曲者ですぞ。

・どのようにお考えか、各々方に聞いてみようと存ずる。

 

(おのれ)

(一)二人称、目下の者に、または、人を罵る時に使う言葉。貴様、こいつ。

(二)一人称、自分自身

用例

・おのれ、許せん!尋常に勝負じゃ! 

・おのれ、あやつ裏切りおって、すぐさま刺客を差し向けよ!

・これは、おのれが(自分の)仕業よ。

武士が、相手を卑しめて貶めて言う言葉

 

御主(おぬし)

お前・そなた(江戸時代の侍の二人称)

用例

・妖怪夜泣き爺いを御主、見たことがあるか? 

・御主、出来るな!

侍階級の同輩とそれ以下の者に用いる。

 

覚えたか!(おぼえたか)

(一)分ったか。

(二)思い知ったか。

(三)体感して分ったか。

用例

・覚えたか!これぞ圓明流二刀の太刀よ!

・覚馬、これぞ我が流派、奥義の業(わざ)、覚えたか!

 

思召す・思し召す(おぼしめす)

(一)お思いあそばす。

(二)お考えあそばす。

(三)女性をご寵愛なさる事。

(四) そういう顔つきを形容する言葉。

用例

・すめろぎ(天皇)、朝敵を討ち退けし武家に斯様(かよう)に思召さ

朝廷より宝剣を下賜なされ候。

・侍従の意見を聞き、御前暫く思し召し候。

 

(おもて)

(一)顔・顔面・おもわ。

(二)能面・仮面・表型。

(三)面目・体面。

(四)書いたものに表されている趣。文面。

用例

・苦しゅうない、皆の者面を上げい。

・武士の面を汚されては、最早黙ってはいまいぞ!

・この消息の文(ふみ)の面には、早く国元の判断が欲しいとの切迫感が見える。

 

折紙(おりがみ)

(一)刀剣・書画・骨董・器物・技倆などの鑑定書、または保証書。

(二)折った紙の事。奉書・鳥の子・檀紙などを横一つに折った紙の事。

(三)消息(手紙)・進物の目録・鑑定書などに用いる。

(四)保証書・鑑定書・極書(きわめがき)の事。

用例

・おお、本阿弥殿の「折紙」付きか、ならば本物で間違いはないであろう。

・本阿弥光悦殿の、極書(きわめがき)の折紙が付いておる天下の名刀じゃ。

 

折紙太刀(おりがみたち)

折紙付き(鑑定書・保証書付き)の名刀の事。

用例

・この大典太光代(おおでんたみつよ)の名刀は、先祖より代々伝わる折紙太刀よ。

・これが代々刀剣の鑑定を行う、本阿弥家の極書(きわめがき)が付いた折紙太刀よ。

 

折紙付き(おりがみつき)

(一)鑑定の保証の折紙がついた物。またはその物。

(二)保証書が付いた確かな物。

用例

・これが備前長船景光、折紙付きか。

・道光殿の折紙付きですぞ。

・それなら確かじゃ、わしの折紙付きじゃ。

 

隠剣(おんけん)

(一)自分の護身のため、用心のために、懐に忍ばす刀の事。

(二)懐剣(かいけん・ふところがたな)とも言う。

(三)一尺未満、九分九寸以下の長さの短剣。

 

温石(おんじゃく)

(一)長方形の形をした石で、端に熱くなった石を棒で通して取り出すための穴が空いている。

(二)この石を竈(かまど)や火鉢(ひばち)などで温めて、布で包んで着物の懐内側に入れて身体を温めるために使った。

(三)現代の懐炉(カイロ)のような物。

 

女之介(おんなのすけ)

(一)男装をした女性の事。

(二)男性の衣装を着た女性を男に見立てて言った名前・言葉。

 

隠密(おんみつ)

(一)正体を隠して秘密裏に事を行い、目的を達する事・人の事。

(二)隠し目付・お庭番・忍び目付・忍者・草などの事。

(三)一応武士ではあるが、低い下層の身分であった。

用例

・これは隠密が隠れて食う甘い食い物、あんみつじゃ.

 

隠密廻り(おんみつまわり)

(一)奉行配下直属の同心二名が任命された。

(二)隠密に事件・事案の裏取り捜査・証拠収集・情報収集を行った。

(三)時には変装して捜査に当たった。

改易(かいえき)

(一)武士の刑罰のひとつ。

(二)官職をやめさせて、他の人に代わらせる事。罷免の事。

(三)所領・家禄・屋敷を没収する事。江戸時代の刑では蟄居より重

く、切腹よりも軽い。

用例

・評定所より、申しつくる。栃野家は改易と致す。

・二百年続いた当家が改易とは、ご先祖に申し訳が立たぬ。

 

懐紙(かいし)

(一)畳んで懐の中に入れる檀紙・奉書紙・半紙の事。

(二)和歌・連歌・詩を詠ずるための用紙の事。

用例

・懐紙で刀の血糊を拭った。

・懐紙で鼻をかむ。

・すめらみこと(天皇)の、和歌懐紙の詠ずるは、御見事な和歌でござった。

 

(かいしゃく)

(一)切腹する人の側に付き添って、首を切り落とす事。

(二)怪我人や病人を介抱したり、世話をしたりする事。

(三)年少者や病人・老人などの人の後ろについて、補佐したり面倒を

みたりする事。後見。

(四)現在の古流居合の業(わざ)の中で「介錯」という業と作法が、今も伝わって残っている。

(五)藩命により、介錯人が選らばれる。介錯人は一刀のもとに切り落

とさねばならず、かなりのプレッシャーを負ったはずである。

(六)罪人の斬首とは違い、武士として介錯するわけなので、斬首とは違うことを示すため、首の皮一枚を残して斬るのが介錯の作法だった。が、それは滅多に実現できたためしはなかった。

用例

・「切腹の前に介錯人の御尊名を伺いたい」

 「拙者、当藩上士、物集監物(もずめ・けんもつ)に御座る。藩命により介錯仕る」

 

介錯人(かいしゃくにん)

切腹する人の側で、首を切り落とす役目の人。または罪人の首を切り落とす役目の人。

介錯人は、斬首される人の首の皮一枚を残して斬るのが名人だったらしい。床に首が落ちる前に左手で受け取ったと言い伝えられている。また、その藩に見事に首を刎ねることが出来る介錯人がいない場合には他から腕の立つ介錯人を借りたそうだ。

 

介者剣法・剣術(かいしゃけんぽう・けんじゅつ)

介者剣法(介者剣術)は、戦国時代の剣術で、鎧を纏(まと)った敵を想定して編み出された剣法である。防御は纏った鎧(よろい)に任せて、ひたすら攻撃に徹する剣術である。相手に体ごと突進して相手を倒して、突き・斬り伏せたり、組み伏せたりして戦う実戦一点張りの剣術である。狙うところは、鎧がカバーしきれない、目・首・脇下・内腿・手首・腕の内側・金的などを重点的に狙った。鎧が邪魔で動きにくいので独特の構えになる。構えとしては、刀を肘上に置いたり、斜め上に伸ばしたり(八相の構えの大仰なもの)、霞の構え、または肩に刀を担いだりする。霞(かすみ)の構えの場合には、腰は低くして、切っ先は上段に向けられていた。今も一部の流派に伝わっている。

用例

・あの御仁の構えは介者剣法ではござらぬか?

・この江戸の泰平の世にはもはや途絶えたはずじゃがまだ生き残っていたか。

・どうじゃ!これが戦国より伝わる介者剣術よ!見たか! 

 

快然(かいぜん)

(一)心地良い事。

(二)気分の良い事。

(三)病気が快癒(かいゆ)する事。

用例

・此度(こたび)の差答(さしいらへ=返答)の儀、まことに快然なり。

・長く臥所(ふしど)におる処、此度(こたび)病気平癒となり、今は然の心(こころもち)じゃ。

 

(かいな)

(一)肩から肘までの間。

(二)舞いの手を数える言葉。

用例

・あやつの同田貫の刀では、わしの腕の力では受けることができぬ。

・これが同田貫の切先でやられた腕(かいな)の傷じゃ。それ、ほんまかいな?

 

開門(かいもん)

(一)城の扉を開けるように、大声で頼む時の言葉。

(二)大きな館などの大きい扉を開けるように頼む時の言葉。

用例

・開門(かいも~ん)開門(かいも~ん)早馬にて江戸表より危急の用件で参った。門を開けられぃ開門(かいも~ん)

・いざ出立じゃ、開門致せ、開門(かいも~ん)

 

花押・華押(かおう)

(一)武将・侍が手紙の署名の下に書く判の事。現在でいうサインの

 事。

(二)最初は楷書で書かれ、次に草書体で書かれるようになる。その

後、さらに様式化したものが花押である。

(三)書判(かきはん)・判形(はんぎょう)とも言う。

(四)デザインの形は武将により様々で、一例としては名前の偏(へん)

と旁(つくり)を草書体でバラバラにして再構成したものもある。 これを一字体と言う。

(五)苗字や名前とは別に関係のないものをデザインしたものもある。 これを別用体と言う。

(六)身分の低い侍などは、とか簡略な形を書いて花押とした。を略押(りゃくおう)と言った。

(七)禅僧などは平べったい形の花押のデザインが多い。平押と言う。

(八)町人などは、自分の爪の印=爪印を署名の下に捺印した。三下り

半(離縁状)などの末尾の署名の下に爪印を押した。

(九)現在でも社会的地位のある人などは、重要書類に花押を記す。ま

た、代々の内閣総理大臣や閣僚なども、自分の花押を持ってる。様々な重要書類に花押を使う。一例としては内閣の閣議書どは閣僚全員の名前の下に各人の花押が記される。

 

かか・かか様(かかさま)

下級武士の子供(幼児)などが母親を呼ぶ尊敬語。お母様という意。

 

覚悟(かくご)

(一)あきらめる事。

(二)観念する事。

(三)迷いを去り、道理を悟る事。

(四)記憶すること。

(五)心に待ち設ける事。

(六)心構え。

用例

・その卑怯な振る舞い、士道不覚悟ゆえ、おぬしを斬る。

・追って切腹の沙汰が下るゆえ、お覚悟めされい。

・父の敵、山形玄蕃(やまがたげんば)!ここで会うたは殺された父上のお導きじゃ、覚悟致せ! 

 

霍乱(かくらん)

(一)暑気あたりの病の事。

(二)日射病・熱中症の事。

(三)吐瀉(としゃ)病の事。

用例

・恐ろしく強い、師範代がご病気とは、これも「鬼の霍乱」かのう?

 

陰間(かげま)

(一)宴席に侍(はべ)って売春を行った少年の事。

(二)まだ舞台に出ない少年俳優の事。

(三)男娼の事。

(四)陰間茶屋。男娼を売る茶店の事。客の求めに応じて、歌舞音曲を

奏して舞い、宴席に侍(はべ)した、男色子供宿、子供屋の事。

(五) 男性と女性の双方に売春をした。

(六)14歳から18歳くらいがよく、20歳過ぎると年増(としま)と言われ

た。

用例

・へへっ、あやつ剣の腕はたつが、年増の陰間だそうじゃ。お笑いじゃ。

 

笠懸(かさがけ)

(一)綾藺笠(あやいがさ)を吊るして遠方から馬を疾駆させて馬上から的(まと)の笠を狙う訓練・競技の事。

(二)垜・安土(あずち)と言う土の山の手前に、鳥居の形状の木の門を建て、真ん中に笠を吊るし的とした。後には、笠の代わりに革の輪の中に藁束を詰めて的(まと)とした。

(三)平安時代末期から江戸時代にかけて行われた、馬を疾駆させながら行う、武士の馬上弓の訓練・競技。

(四)通常は的(まと)との距離は弦を外した弓の10張伏せた程度の距離。

(五)笠懸の種類には「小笠懸」「遠笠懸」「神事笠懸」などがある。

 

重仇(かさねがたき)

(一)仇討ちをされた遺族が、討った相手をまた敵討ちする事。

(二)敵討ちの無限の連鎖を生むため、江戸幕府は重仇を厳重に禁じて

いる。

(三)重仇にまた重ねて敵討ちをする事を「又候仇討ち」(またぞろかたきうち)と言ったが、これも幕法により禁止。

 

傅く(かしずく)

(一)人に仕えて世話をすること。

(二)人の後見人となること。

用例

ひたすらの敬慕からか、近侍の壮介殿は、毎日のように若様に傅いておる。

 

過怠(かたい)

(一)仕事を怠ける事。真面目に仕事をしない事。

(二)定められた命令・仕事・役割を果たさない事。

(三)定められた毎日の勤務を果たさない事。

(四)家臣の勤めや業務を果たさない事。

(五)戦場で軍規に従わない事。

(六)仕事の過失・手抜かり・過ち・不注意などの罪。

(七)過怠料・過料→仕事上の失敗・過失などの罪科に課される罰金の事。

(八)過怠手錠→江戸時代には、過怠料を支払えない者は、その換刑として手錠を嵌めた。

用例

此度の上様の命令は絶対じゃ。よいか者共、戦術通りに戦場では過怠なく勤めよ!

 

片腹痛い(かたはらいたい)

(一)片方の腹・脇腹がおかしくて痛い

(二)可笑しくて堪らない。

(三)笑止である。

(四)あまりに阿呆らしくて可笑しい事。

用例

・身の程知らずで片腹痛いわ。

・お主のそのお粗末な剣術、片腹痛いわ。

 

忝ない・辱い(かたじけない)

(一)過分の恩恵や報酬や好意を受けて、身に滲みて有難い。

(二)勿体無い、恐れ多い。

(三)恥ずかしい、面目ない。

用例

・まことに忝のうございます。

・なんともはや、忝なく存ずる次じゃ。

 

徒立・歩行立(かちだち)

(一)歩兵の事。

(二)徒歩である事。

(三)歩兵の合戦の事。

(四)徒戦(かちいくさ)の事。

用例

・弓矢隊の次は槍隊、そのあとは徒立をもって攻めたてよ。

合戦用語

 

勝鬨(かちどき)

(一)戦(いくさ)に勝った時に、軍勢が一斉に挙げる鬨の声の事。

(二)勝った事を喜ぶ軍勢の雄叫び。

(三)勝利の凱歌。 

用例

・遂に今川義元の首を討取ったぞ~!者共、勝鬨の声を挙げよ!「えいえい、おおぉ~!えいえい、おおお~!」

 

家中・御家中(かちゅう・ごかちゅう)

(一)家の一族郎党全員の事。

(二)屋敷の中の事。

(三)藩の家臣達の別名。

(四)藩士の総称。

(五)藩に在するすべての武士達の呼称。

用例

・我らは赤穂藩家中の者で御座る。

・薩摩藩家中の者とは剣を交えてはならぬ、やれば示現流の袈裟斬りで即絶命じゃ!

 

合点(がてん・がってん)

(一)承知した事。

(二)納得した事。

(三)得心した事。

(四)回状・回旋状・斡旋状などに、承知した証に、自分の名前の肩に

点を入れる事。

(五)合点ずく=お互いに承知・納得した事。

用例

・合点承知!

・あの話はおかしい…わしはどうも合点(がてん)がゆかぬ。

・へぃ、手前ども皆、合点致しました。

・合点承知之介!(がってんしょうちのすけ)

 

家譜(かふ)

(一)一家の先祖代々の系譜。

(二)侍の家は家の系図でもって一家を記録した。町人・百姓などは人

別帳に記録さた。

用例

・我が侍の家は代々このように家譜に記録されたのじゃ。

・我が先祖は、家譜によると、誇り高き清和源氏を祖とする家柄じゃ。

 

奸・奸物見(かまり・かまりものみ)

(一)あらかじめ長期にわたって、敵地に潜伏させた忍びの事。

(二)変装したり、敵に紛れ込んで偵察を行う。

(三)また何代にもわたってその敵地に住み着いたスパイの事。「草」(くさ)とも言う。

(四)忍びの斥候(せっこう)の事。

(五)戦国時代には、情報が勝敗を分ける。よって身体能力・知力・判断力・洞察力・胆力などに長けた者を当てた。 

 

我利我利亡者(がりがりもうじゃ)

(一)自分の利益しか考えない欲深い人。

(二)欲望・欲情に雁字搦め(がんじがらめ)になっている人。

(三)理不尽なことをする、えげつない人を罵って言う言葉。

用例・あやつは城勤めの同輩や貧乏な御家人に高い利息で金貸しをやっているそうじゃ。皆、あやつの事を我利我利亡者と言うておる。

 

家禄(かろく)

(一)主君から家臣に代々世襲的に与えられてきた俸禄の事。

(二)江戸時代の幕府では、旗本・御家人に、大名では(さむらい)に付いていた禄事。

用例

・よもや先祖より賜っている家禄を当前とは思ってはいまいな。

・今こそ殿に御恩をお返しする時じゃ。無駄に家禄を頂いているわけではないわ。

 

(かわや)

(一)便所・大小便をするところ。

(二)川の上にかけて作った小屋の意とも言う。

用例

・どれ、厠に行って参る。

・失礼仕る、厠はどちらでござるか? 厠?そりゃあそこの川や 

 

諫言(かんげん)

(一)相手や上司を諫(いさ)める事。

(二)諫(いさ)める言葉の事。

 

諌止(かんし)

(一)諫(いさ)めて、止める事。

(二)藩主や大名などに対して、やってはいけない事を思いとどまらせ

る事。

用例

・御前、朝廷に対してそのような事をなさっては、幕府も共に敵まわしておしまいになりますぞ、何卒思い留めてお止め下させ。

・拙者命がけで御前に諌止致した次第で御座る。

 

間者(かんじゃ)

(一)回し者

(二)スパイ

(三)間諜

用例

・あやつ、幕府の間者ではないのか?

・この中に徳川方の間者が潜んでおるぞ。

・敵方の間者がここにいては、あかんじゃろう。

 

感状(かんじょう)

(一)戦場での武功などに対して主君や上司から与えられる文書。

(二)戦場での武勲を表彰し感謝する主君からの文書。

用例

・これがお屋形様より賜った我が武勲に対する感状じゃ。

・この度の戦場での働きは群を抜いておる、よって余より感状をつかわす。

戦国時代によく用いられた手紙(文書=もんじょ)

 

巻子本(かんすぼん・けんすぼん)

(一)書物の装丁の一形式。

(二)紙本・絹本などを長くつないで、軸を付け、表紙を付けて巻いた

      物。

(三)巻物(まきもの)の事。

(四)巻本(まきほん)の事。

(五)絵や文章などを書き写し、または印刷したものを巻物にした。

用例

・技の目録は、師匠からいただいた、あの巻子本に書いてある。

・これぞ新陰流目録の巻子本じゃ、すなわち免許皆伝の書じゃ。

 

奸智・姦智(かんち)

(一)邪(よこしま)な智恵の事。

(二)悪知恵の事。

用例

・あやつは奸智に長(た)けた奴よ。

・殿、奸智に長けた目付の言葉に騙(だま)されてはなりませぬ。

 

龕灯(がんとう)

(一)強盗提灯(がんとうちょうちん)の事。

(二)仏壇の灯・燈明(とうみょう)の事。

(三)現在の懐中電灯のような物。

(四)造りは、銅線やブリキで釣鐘のような形を作り、内部には輪が2

つあり、その一つの輪に蝋燭(ろうそく)が設置されている。地面に置いても、180度でも360度でもどのように持っても、先を明かりで照らすことができるようになっている。

(五)武士の夜間の道中の明かり、捕り物、または忍者などが使った。

(六)別名「忍び提灯」とも言い、相手のみを照らし、自分の顔は照ら

さないようになっている。

 

閂差し(かんぬきざし)

(一)刀を水平に差す、刀の差し方の呼称。

(二)抜刀術や居合術に向いた、刀の差し方。

(三)幕末に流行した刀の差し方。

(四)抜刀の予備動作と間違えられて「やる気か!?」と喧嘩沙汰になる事もあった。

用例

・貴様、閂差しで、このわしに抜刀する気か!?

剣術使い、剣客らが使った言葉。

 

関八州(かんはっしゅう)

安房・相模・武蔵・上総・下総・常陸・上野・下野の八か国の事。

用例

・我は室町幕府より続く、関八州を統べ治める関東管領、上杉謙信なるぞ。

 

奸物(かんぶつ)

(一)悪智恵の働く悪い奴。

(二)悪心のある悪い人。

(三)悪い企みをする人。

用例

・藩に仇名す奸物め、すぐに追手を差し向けよ。えぇ構わぬ、斬って捨てい!

・このわしを陥れおって、許せぬ、あの奸物め!

聞し召す(きこしめす)

(一)聞くの尊敬語。→お聞きになられる。

(二)飲む・食べるの尊敬語。→お召し上がりになられる。

(三)許す事の尊敬語。→お許しになる・なられる。

(四)治める・行うの尊敬語。→御治めになる・なられる。

(五)酒をなどを飲む時などに戯れて言う言葉。

用例・神君家康公、従者茶屋四郎次郎より信長公、明智光秀の謀反により本能寺に於いて誅殺なされ候事聞き及び、これら御家来衆の言葉を聞し召され、供の者と共に伊賀越えを思立(おぼしたち)なされ候。

 

跪坐(きざ)

(一)正座の状態から足はつま先立ちになり、尻を踵(かかと・きびす)

の上に乗せた状態の座り方。

(二)襖の開け閉めの時などに行う座り方。

(三)上司から命令を待つ間の従者などが、待機姿勢として行う座り 方。すぐに立つことができる。

(四)足が痺れた時などに一時的にこの跪坐の姿勢をとって痺れの治ま  

のを待つ。

(五)跪坐の跪(き)はひざまずくという意味。

 

帰参(きさん)

(一)一度、主家を去った・辞めた武士がふたたび帰って主家に仕える 事。

(二)長期間、よそへ行っていた人が帰ってくる事。

(三)勘当された息子・娘が許されて親のもとへ帰る事。

用例

・殿のこれほどの怒りをかってしまった以上は帰参も叶わぬもの

と知れ。

・長らく江戸詰めの志方殿が、国許(くにもと)へ帰参致したそうではないか。

 

起請文(きしょうもん)

(一)神や諸仏に誓いを立てた文書(もんじょ)の事。

(二)自分の言葉や行いに嘘・偽りの無い事を固く誓った証文の事。、

(三)自分の企てや行いを主君に願い出て、それを文書にした物。

(四)固い誓いを神社・仏閣の本尊に奉納した文書の事。

(五)起請文は「牛王宝印(ごおうほういん)」と呼ばれる用紙(独特の文 様(烏や八咫烏など)が印刷されている)の上に書かれた。

(六)起請文の用紙は、京都八坂神社・熊野神社・教王護国寺(東寺)・手向山八幡宮・高野山・東大寺・法隆寺などから発行されて た。また日常的に使われていたので、牛王売りなどがこの起請文を売り歩いていた。

(七)今も各地の神社仏閣には、昔の有名武将などが奉納した起請文が

残っている。 

(八)神仏に誓って、交互に交わす誓い(約束)の文書の事。親・兄弟・

夫婦・男女で交わす起請文の事。

 

義絶(ぎぜつ)

(一)親子・親族の縁・関係を断つ事。

(二)夫婦の縁・関係を断つ事。

(三)夫が妻を強制的に縁・関係を断つ事。

(四)同門者・関係者・家中での縁・関係を断つ事。

(五)家族にまで、類が及ぶ刑罰(連座)から逃れるために、親族としての関係を断つ事。

(六)相続者として、息子や孫が不適格な場合にはこれを廃嫡した。この場合にもこれを義絶と言った。

用例・我が初代藩主が定めし家中御法度を妄(みだ)りに破る者は、上役と言えども我ら義絶致す所存で御座る。

 

煙管(きせる)

(一)煙管筒の事。

(二)火皿・雁首・羅宇・吸口で構成された煙草を吸う道具。

(三)刻みたばこを火皿に詰め、そこに火をつけて煙を吸う管の事。

 

煙管焼(きせるやき)

(一)煙管の煙草の火を太股などに当てて黒いほくろのように肌を焼き

付る事。

(二)男女がお互いに、太ももなどに焼き付けて心中した。元禄時代に

流行った。

 

煙管張(きせるはり)

(一)煙管を作る事。

(二)煙管を作る人。これを職業としている人

 

急度・屹度(きっと)

(一)行為の確実に行われる様子。

(二)きっぱりと・しっかりと・厳重に・厳しく。

(三)たしかに・必ず・相違なく。

(四)急に・はっとして。

(五)急に・とっさに・素早く。

用例

・この度の約定は急度(きっと)約束日までに支払い申し候。

・声のする方へ屹度(きっと)振り返れば味方の足軽であった。

・身の危ういことを感じて、屹度(きっと)刀の柄を掴んだ次第じゃ。

武士・庶民が一般に使った言葉。

 

貴殿(きでん)

(一)尊敬の二人称、あなた・貴下

(二)他人の殿舎への尊敬語

用例

・貴殿の御尊名(ごそんめい)を伺いたい。

・貴殿にもご理解賜りたい。

・後ほど東山の貴殿(相手の邸宅)に参じましょう。

 

彼奴・彼奴等・彼奴原(きゃつ・きゃつら・きゃつばら)

(一)あいつ・あいつら。

(二)第三者を卑しめて言う言葉。

(三)彼奴原(きゃつばら)彼奴の複数形の言葉。

用例

・彼奴等を許すわけには参らぬ。必ず斬って捨てい!

・彼奴等を待ち伏せて、はや半時じゃ。

 

羈絆(きはん)

(一)牛馬を繋ぎとめておくための綱の事。

(二)行動を規制・束縛する事。またはそのもの。

(三)足手まといになるもの。

(四)羈(き)は牛馬を繋ぐたずなの事。

(五)絆(はん)は絆(きずな)の事。

用例・何!右府様(織田信長)が本能寺にて斃れたと?…これで右府様の羈絆から脱して我らは戦国大名として独立できようぞ!次に目指すは天下取りじゃ! いざこれより天王山に向かいて右府様の弔い合戦じゃ!

 

脚絆・脚半(きゃはん)

(一)旅道中などで歩きやすく、或(あるい)は泥や砂除けの為に、足の脛などにまとう・巻く布の事。

(二)脛巾(はばき)とも言う。

(三)巻脚絆(まききゃはん)とも言う。布を脛に巻いて取り付ける。

(四)戦(いくさ)の時には鋼(はがね)のものを用いた。

 

ギヤマン(ぎやまん)

(一)ガラス製品の事。

(二)ダイヤモンド(阿蘭陀語)・金剛石の事。

(三)ガラスの切削にダイヤモンドを使ったことから、切って細工した

ものをギヤマン 細工と言い、後にガラスそのものをギヤマンと言った。

用例

・これが南蛮渡来のギヤマンか、光にかざすと美しく輝きおるわ。

・これがギヤマンの器か?

 

御意(ぎょい)

(一)思し召し・お考え・お心の事。

(二)お指図・仰せ・ご命令の事

(三)目上の人への返事に使う言葉

(四)御意を得る(にかかる

(五)仰せのままに。

用例

・御意のままに。

・御意を得たく存じ奉る。

・(殿様の言葉に対して) ➡ 御意!

目上の位の高い殿様に対して、下の武士が使う言葉  

 

恐悦(きょうえつ)

(一)謹んで喜ぶこと。

(二)他人に喜びを伝える時に言う言葉

用例・殿のご尊顔を拝し、恐悦至極(きょうえつしごく)にございます! 

目上の位の高い殿様に対して、下の武士が使う言葉

 

恐懼(きょうく)

(一)恐れ畏(かしこ)まる事。

(二)朝廷から咎めを受けて、出仕を止められ、籠居・謹慎する事。

(三)手紙の末尾に用いて、敬意を表す事。

用例

・高貴なお方の前で、拙者は恐懼致した次第じゃ。

・まったく恐懼感激のひとときであった。

 

恐惶謹言(きょうこうきんげん)

(一)武将や侍が手紙の末尾に書く挨拶の言葉。

(二)「恐れかしこみ、謹んで申し上げます」の意。

(三)手紙の「書止」(かきどめ)

(四)恐惶敬白(きょうこうけいはく)と同じ意味。

(五)候文(そうろうぶん)の消息(手紙)の最後につける言葉。

 

梟首(きょうしゅ)

(一)斬首された人の首を木に掛けてつるす事。

(二)打ち首になった人の首を、木の杭や棒に掛けて、或は頭部をひも

で結んで晒(さら)す事。

(三)さらし首の事。

用例・新選組に命を狙われたあやつ、とうとう仕留められて三条河原

で梟首されおったわ。

 

挙措(きょそ)

(一)立ち居振る舞いの事。

(二)挙止の事。

用例

・先日雇い入れたあの下女、挙措が身についておらぬの。

・嫁入りした正室が、先度姑に挙措を咎められおったわ。

武家が使った言葉。 

 

脇息(きょうそく)

(一)殿様などが、座る座布の横に置いている肘掛(ひじかけ)の事。

(二)体を楽にして支えるひじかけの事。

(三)挟軾(きょうしょく)の事。

(四)おしまずきの事。

(五)木製のみの物、または肘当ての所に柔らかいクッションが付いた

 物もある。

(六)脇息が使用できるのは上級武士や公家など。

 

怯懦(きょうだ)

(一)臆病な事。

(二)意思が弱い事。

(三)弱気な事。弱気な様子の事。

用例

・いまだ小早川秀秋殿は動かぬか、関ケ原の決戦のこの期に及ん

で怯懦な事よ。

・ふん、腰抜けが。お前も怯懦な男よ。

 

驍名(ぎょうめい)

(一)勇敢な武者としての評判。

(二)強者としての評判。

用例

・かくして信長様は、絶体絶命と言われた桶狭間での戦(いくさ)で、今川義元の首を討取り、その驍名は日の本の津々浦々にまで轟き渡ったので御座る。

 

切紙免許・切紙目録(きりかみめんきょ・きりかみもくろく)

(一)奉書紙を横一文字半分に切った紙のこと。

(二)一定の業(わざ)を習得した弟子に、師が最初に与える目録、免許の事。

(三)奥伝ではなく、初伝の最も格が低い免許状の事。

 

切餅(きりもち)

(一)四角に切った餅の事。

(二)1分銀百枚(25両分)で包んだ紙包の事。四角に包んだ形状が切餅

 に似ているから。

(三)小判25両分の紙包の事。

用例

・用心棒代切餅ひとつか、よし引受ようではないか。

・切餅四つ、しめて百両か・・・悪くないな。しかし越後屋、お主も悪よのぉ。いえいえ、お代官様ほどでは御座いませんよ…へっへっへ

庶民・武士ともに使った言葉。

 

切者(きりもの・きれもの)

主君や上司の寵愛・信用を一身に受け、権力・権勢を欲しいままにする家来の事。

用例

・あのお側用人の高橋殿は殿の切者じゃ。

 

切米(きりまい)

(一)武士に分割支給される扶持米(ふちまい)の事。

(二)分割支給される最底の単位が、三両一人扶持。

(三)下級武士いわゆるサンピン侍に支給される最低の扶持米を言う。

 

金子(きんす)

(一)金銭の事。

(二)金貨・大判・小判の事。

(三)貨幣の事。

 

銀子(ぎんす)

(一)金銭の事。

(二)丁銀(ちょうぎん)の事。

(三)白銀(しろがね)の事。

(四)銀貨の事。

(五)貨幣の事。 

 

近習(きんじゅ・きんじゅう)

(一)将軍や主君の側ちかくで仕える者。

(二)将軍に近侍して、小姓組番頭・若年寄を兼務し、下からの情報の 耳目となる者。

(三)主君に近侍して、下からの情報の耳目となる者。

 

金打(きんちょう)

(一)江戸時代に、武士が約束を破らぬと言う証拠に、刀の鍔を打ち合

わせる事。

(二)両刀の刀を打ち合わせる事。

(三)刀を小柄の刃で叩く事。

(四)女性は鏡を打ち合わせた。

(五)僧は鉦(かね)を打ち合わせた。

(六)固い約束をする事。固い誓(ちかい)をする事。

(七)侍は刀の鍔と鞘の鯉口を合わせて、ぱちんと音を鳴らして金打を

する。その時に、約束した武士同士が金打と同時に「承知!」と言う。

用例

・このような恐ろしい約束をすることになるとは、金打するのにも緊張するわい。

 

勤番(きんばん)

(一)国元から、短期間の江戸(または大阪藩邸)勤めのため、単身赴任で働いている藩士の事を言う。

(二)藩士の選定は必要に応じて藩内で選定される。下級武士の場合もあった。

(二)勤務の年限は通常1~2年。短い場合だと数か月の勤番もあった。

(三)長い勤番だと数年滞在する例外もあった。

(四)独身や単身赴任の男所帯なので、大名屋敷の狭い長屋に住んでいた。将棋、盆栽、囲碁、酒盛りなど金のかからないささやかな遊びをして無聊を慰めていた。

(五)交代して勤務する事を言う。

(六)大名の家臣が、江戸または大阪の藩邸に勤める事。

(七)勤番侍=江戸または大阪の藩邸に勤務する侍の事。

 

吟味(ぎんみ)

(一)物事を詳しく調べる事。

(二)罪状を調べただす事。

(三)監督する事。監視する事。

(四)花かるたで一番勝った者を言う。銀見。

(五)詩歌を吟じ、その趣を味わう事。

用例

・この度の一件につき吟味致す、一同面を上げい!

・この犯科帳にはいまだ不明な点がある、よって再吟味と致す。

 

吟味方・吟味役・吟味掛(ぎんみかた・ぎんみやく・ぎんみがかり)

(一)容疑者の犯罪を事実に照らして詳しく調べ自供させる役目の人。

(二)与力十騎と同心二十人で容疑者の取り調べ(吟味)を行った。

(三)容疑者が自白をしない場合には、奉行に拷問を申請し、奉行は老中の許可を得てから拷問を行った。

(四)拷問を行う場所は牢屋敷の中の拷問蔵であった。

公家侍(くげさむらい)

(一)公家に仕える武士の事。

(二)公家の事務をとり仕切り、渉外の担当もした。

(三)装束は武家の侍と同様のもの。

(四)公家の警護、屋敷の警備もした。

 

公事(くじ)

(一)江戸時代の訴訟の事。

(二)公(おおやけ)の事務。

(三)朝廷で行われた政務や儀式の事。

(四)租・庸・調・課役などの税の総称。

 

具申(ぐしん)

上司や組織・機関に対して自分の意見を詳細に述べる事、伝える事。

用例

・此度の新田開発で御座るが、百姓どもの意見も伝えねばならぬと考え、御老中に具申致した次第で御座る。

 

(くずれ)

(一)崩れ→前の職業や地位から落ちぶれた者の事。なれの果て。

忍者崩れ・職人崩れ・侍崩れ・野盗崩れ等々。

 

崩色(くずれいろ)

(一)戦場での陣立てが崩れる事・その様。

(二)負け戦に見える事・その様。

 

曲事(くせごと/きょくじ)

(一)正しくない事柄・道理に背いた事柄

(二)けしからぬ事・苦々しい事柄

(三)禍事・凶事

(四)法に背く事柄・違法

(五)違法の処分・処罰

用例

・この度のその方の曲事、甚だしき事許しがたき、よって追って沙汰するがゆえ、それまで、謹慎蟄居を申し付ける。

・これは紛れも無き曲事でござる。

・あやつらの禍々しき曲事、許しがたき。

 

曲者くせもの)

(一)怪しい者・不審な者・泥棒・暗殺者

(二)化物・怪物・妖怪変化

(三)得体の知れない者・用心すべき者

(四)変わり者・変人・一癖ありそうな人物

(五)異常な能力を備えた人間

用例

・あやつ、曲者じゃ!出会え!出会え!

 

具足(ぐそく)

(一)甲冑の事。当世具足の略。

(二)携帯品・道具・所持品の事。

(三)引き連れる家来の事。伴う事。同行する事。

(四)備わっている事。揃っている事。

用例

・明日は合戦じゃ。具足を出して揃えておけ。

・明日から上方へご家老のお供じゃ。旅の具足は怠りなく準備致せ。

 

具足金(ぐそくがね)

(一)武士が大事に備えて、蓄えておくお金の事。

用例

・藩の一大事じゃ!この時にこそ、あの具足金を役立てる時じゃ!

・具足を入れた櫃から蓄えて置いた金が見当たらぬ。これはどうしたことじゃ。

 

国侍(くにざむらい)

(一)国元で勤める侍の事。

(二)地方の武士の事。

(三)田舎侍の事。

(四)田舎侍を少々馬鹿にした言い方。

用例

・お主のような国侍には、江戸は別世界であろうのう。

・拙者、長く国侍を勤めし者なれば、京の雅やかな様子は、平安の趣を感じさせまする。

 

公人朝夕人(くにんちょうじゃくにん)

(一)平安時代から足利時代を経て江戸時代まであった武家の役職。

(二)将軍の小便を尿筒(しとづつ)で受けて貴人の小便の始末をする仕

事の人。

(三)朝も夕べも臭い公務を執り行う人と言う意味。

(四)尿筒は銅製と竹製のものがあった。銅製は冬などには冷たいた め、入り口を鹿革で囲ったものもあった。これは位の高い貴人の

尿筒。

(五)宮中・武家の式典には必ずなくてはならない人(朝夕人)と物(尿筒)

であった。

(六)徳川幕府が終わるまで続いた役職で、内田孫左衛門の家が代々こ

の役を引き継いでいた。

(七)貴人の女性などは丸い桶状のおまるを使った。婦人用なので、漆

塗り・螺鈿細工・紫檀地など美しい装飾があった。部屋の隅、凡帳、屏風の裏などに隠れてそそくさと済ませた。

 

国元・国許(くにもと)

(一)自分が生まれた土地・郷里の事。

(二)領地あるいは本国の事。

 

首証文(くびしょうもん)

約束を違(たが)えたら自分の首を差し出すという証文の事。

用例

・この武士の固い約束を違えるような事があれば、これこのように首証文を書いてもよいぞ!

 

首印(くびじるし)

(一)合戦などで、討取った敵の将の首に付けた木札・紙切れの事。

(二)その名札に、誰それの将の首・誰それが討取ったと記してある。

(三)その将の証として、兜や刀剣・指物・母衣(ほろ)・その将を特徴付ける物を証明書代わりに、首と一緒に添えて出した。

(四)血まみれで汚れた首、損傷が激しい首などは洗って、髪を整え化粧を施して出した。その仕事は足軽や女性たちが担った。 

 

首塚(くびづか)

(一)勝利した戦(いくさ)で、大量の敵の首を獲った場合に、首実検(諸

将の首の確認)を済ませた後に、まとめて塚(墓)を築いて、そこに首多数を葬り、僧を招いて弔った。これを首塚と言う。

(二)斬首・獄門・さらし首になった、罪人や敵の諸将の首を、土に埋

めて弔った塚の事。

(三)時間があり、金のあるときには丁寧に供養した。石造りの供養塔

を造って建てたり、卒塔婆の板を建てたりして供養した。

(四)時間の無い時は、矢を一本立てただけで済ませた。これを矢塔婆と言った。こういった簡略な形でも僧を招いて丁寧に弔った。

 

公方(くぼう)

(一)征夷大将軍(幕府の将軍)の事。(室町時代以後)

(二)鎌倉・室町時代の幕府の名称。

(三)公の事。公事。表向き。

(四)天皇・朝廷の事。

用例

・生類憐れみの令の犬公方様がまたお触れを出したそうじゃ。

・公方様の御意に召すように致さねばならぬ。

将軍以下の武士が使った言葉。

 

組討(くみうち)

(一)戦国時代の合戦の中で発達した無手(素手)の戦闘技術。

(二)戦国時代の武器は鉄砲術・弓術・投石術・槍術・刀剣術などがあったが、接近戦や敵味方が入り乱れる乱戦においてはこの組討が多用された。

(三)相手の骨格そのものを掴んで倒したり(骨法)、重い兜を装着している頭の顎を掴んでひねったり、相手の重心を崩して倒したり、関節技、投げ技、打突、締め技など多彩な技を使って相手を倒す。指は鉤状にして相手の具足(鎧や兜)に引っ掛けて倒した。

(四)最後は切先が錐のように尖った、鎧通(よろいどおし)と呼ばれる肉厚の分厚い短刀で、相手の首の頸動脈を掻き、急所の股・脇口などを差してとどめをさした。鎧通は斬るよりも鎧の間隙を突いて仕留めることに特化した武器である。

(五)組討でもって討取った敵将の首は恩賞の評価が最も高かった。

(六)現在でも古武術の流派には「俵(たわら)落とし」「冠(かんむり)返し」「頤(おとがい)回し」など多数の業が今も伝えられている。

(七)戦国時代に生まれた組討が後の時代に発展し「柔術」「骨法」「柔道」「合気道」などの武術・マーシャルアーツとなった。

(八)米軍の海兵隊や特殊部隊には、ナイフとマーシャルアーツを組み合わせた戦闘技術があるが、400年以上前の日本の戦国時代に、このような短刀と武術が混然一体となった高度な戦闘技術を生み出していたのには驚きである。

 

雲助・蜘蛛助(くもすけ)

(一)往来などに立ち、通りの人にしつこく勧誘して、自分の籠に無理

やり乗せる輩(やから)の事。

(二)しつこい勧誘・脅迫まがい・人を囲い込んで逃げられぬようにし

て無理やり籠に乗せた。

(三)駕籠かきのめっちゃ悪い奴。

(四)獲物の来そうなところに網を張り、虫を捕らえて食べる蜘蛛に似 ているところから名付けられた言葉。

(五)江戸時代の中頃に、籠かきに付き従った住所不定の人足(にんそく)の事。

(六)宿場町・渡し場・街道などに多くいた。

 

蔵屋敷(くらやしき)

(一)各地の大名が領内の米・穀物・その他の物産を貯蔵・流通・販売 するために設けた屋敷(倉庫)の事。

(二)倉庫と販売所と事務所と屋敷を兼ねていた。

(三)大阪・江戸・大津などに設けられた。

 

蔵屋敷衆(くらやしきしゅう)

蔵屋敷に勤務する役人の事。

 

栗形(くりかた・くりがた)

(一)刀の鞘(さや)の表側の鯉口(こいくち)近くにある穴を開けた栗の形状をした物。

(二)この穴に下緒の紐を通す。下緒通しの事。

 

苦しゅうない(くるしゅうない)

(一)苦しくない

(二)遠慮はいらぬ

(三)気を遣うな

用例

・苦しゅうない、面を上げい。

・彦左衛門、苦しゅうないぞ、褒美をとらす。

・苦しゅうない、近う寄れ。

殿様や上位の武士が下位の侍や町人などに使う言葉。

 

(くるわ)

(一)遊郭の事。

(二)遊里の事。

(三)遊女屋が寄り集まっている処・地域の事。

(四)廓通=くるわかよい

(五)悪所の事。

用例

・ここの廓は粒ぞろいの遊女が揃っておるのぉ、気に入った、また来るわ~♡ 

 

愚弄(ぐろう)

(一)人をあなどる事。

(二)人をからかう事。

(三)人を馬鹿にする事。

用例

・拙者を愚弄致すとは許せぬ。

・武士を愚弄致すとは、手討ちにしてくれるわ!

武士一般が使った言葉。

 

黒鍬・黒鍬者(くろくわ・くろくわもの)

(一)戦国時代には、軍の陣地の設営や行軍の道の補修・架橋等の土木工事の普請の役を担った者の事。

(二)江戸時代には、江戸城内の土木工事・荷物運び・伝令・防火活動などを担った。

(三)将軍の移動の時にも荷物を運んだ。

(四)一般的には工事人夫の事。工事に従事する者の事。

(五)江戸末期には、江戸城内に三組あり、頭が三人、その下の各組に組頭六人、その下に黒鍬者多数で組織されていた。総数は四百七十人ほど。

 

桑原(くわばら)

(一)蚕の食べる桑の木を植え付けた畑の事。

(二)死んで雷神となったと考えられていた菅原道真公。京都では道真

公の祟(たたり)で、落雷が激しく、死んだ人間(菅公の政敵など)も多数いたが、菅公の領地の桑原にだけは雷が落なかった。なので雷が近づくと言う言葉。

(三)雷除けの呪文として「くわばら、くわばら・・・」と唱える言葉・呪

文。

(四)恐ろしいもの、忌み嫌うものから逃れるための言葉・呪文。

用例・また落雷じゃ、道真公の祟(たたり)じゃ!「くわばら・くわば

ら・・・」

・また、あのゆすりたかりの無頼者がきおった、避けるのが一番  じゃ!「くわばら・くわばら・・・」

武士も一般庶民も使った言葉。

 

軍陣(ぐんじん)

(一)軍隊の陣立ての事。

(二)軍隊の陣立てを行う場所の事。

(三)軍営の事。

 

軍配(ぐんばい)

(一)合戦時の部隊の配置の事。

(二)作戦に伴って、或は戦場の勝敗の状況に伴って、部隊の配置を臨機応変に変化させる事。

(三)その指揮をとる道具が「軍配」である。武田信玄が手に持っている団扇がそれである。

 

軍門(ぐんもん)

(一)軍陣の事。

(二)軍陣の兵の出入り口の事。

(三)軍門に下る→敵に敗れて降参する事。

鯨波(げいは)

(一)戦場での軍勢の鬨(とき)の声を表す言葉。

(二)大波を表す言葉。

(三)「太平記」や「明智光秀家中軍法」など多数の戦国文書にある言葉。 

 

下知(げじ・げち)

(一)指図すること

(二)命令

用例

・謀反の疑いあり、捕縛致せと下知申された。

・評定所より申しつくる、下知致すがゆえ、よっくたまわれい!

・おのれら百姓に下知致す。

 

下手人(げしゅにん)

(一)自ら手を下し、人を殺した者。

(二)事件の張本人。

用例

・この殺しの下手人は誰じゃ。

・同心殿、下手人はすでに挙がっているのであろうな?

 

下城(げじょう)

(一)城から退出する事。退城。

(二)城を立ち退き、敵に城を明け渡す事。

用例

・城より下城して、只今戻りました。

・この長期の篭城戦では、最早、下城して敵に明け渡すがよかろう

 

解せぬ(げせぬ)

(一)解らない。

(二)理解できない。

用例

・なぜこのような事に!ううむ、解せぬ。 

(逆に)解せた、解せた。

 

懸想(けそう)

(一)異性におもいを懸ける事。

(二)恋い慕う事

(三)求愛する事

用例

何?あの堅物が大黒屋の娘に懸想したと?

・あの御徒の娘が御徒目付の息子に懸想したそうじゃ。

 

懈怠(けたい)

(一)怠け・怠る事。

(二)怠慢

(三)仏教で精進的でないこと。

(四)全力を出さない事。

用例

・懈怠なくして、精進に励めよ。

・朝毎に懈怠なく死して置くべし。

 

決定(けつじょう)

(一)決定した事。

(二)決まった事。

(三)疑いがない事。

(四)必ずそうである事。

用例

・お主は此度(こたび)殿の近習としてのお役目が決定いたしたぞ。

・殿が御高覧の、試合の対戦相手が、欠場する事が決定致した。

 

血判・血判状(けっぱん・けっぱんじょう)

(一)指先を刀で切って血を出し、署名の下に押印したもの。

(二)約束や誓い・命令に背かない決意・意思を示すために行った。

(三)仲間の違反・裏切り・寝返り・スパイをさせないために行った。

(四)神文(神に誓約する書=誓約書)誓紙・起請文などに書かれた。

    

下道(げどう)

(一)他人を罵って言う言葉。

(二)難をもたらすもの。

(三)仏教以外の教え。それを奉ずる者。

(四)邪悪な相をあらわした仮面。

(五)釣りで目的の魚とは違う魚が釣れた時に使う言葉

用例

・これは下道の所業じゃ。

・下道の振る舞いはすまじ。

・この外道が!

 

気取る(けどる)

(一)気づくこと

(二)感ずくこと。

(三)覚(さと)ること。

用例

・あやつの跡をつけるのじゃ。よいか、くれぐれも気取られるなよ。

 

実に(げに)

(一)まことに・いかにもそのように。

(二)現実に・実際に。

用例

・げに恐ろしきは女の執念・・・。

・げに凄まじき剣気なり。

 

家人(けにん)

(一)家来・奉公人の事。

(二)御家人の事。

(三)律令制下の五賤のひとつ。

(四)私奴婢よりも待遇がよく、相続の対象にはなっても売買はなされず、家族を維持・生活することを許されていた。

用例

・おのれらは、家人じゃ。よって主人に口答えはできぬ。よく心得よ。

・あれは、我が家の家人じゃ。よく働く利発者での、助かっておるわ。

 

下人(げにん)

(一)身分の低い者。

(二)下男・下僕(しもべ・げぼく)

用例

・賤しい下人が、申すことではないわ!

・下がりおれ、そこな下人!

 

家来・家礼・家来衆(けらい・けらいしゅう)

(一)武家に仕える人・人々。家臣など。

(二)武家で召し使う人・人々。従臣・家人(けにん)など。

 

下郎(げろう)

人に使われる身分の賤しい男の事。

用例

・下郎!下がりおれっ! 

・覚悟致せ、下郎!

・もはや、ネタはあがっているのじゃ、いい加減にゲロを吐け、この下郎! 

 

剣突(けんつく)

(一)荒々しく叱りつける事。

(二)荒々しい小言。

用例

・剣突を食らわす。

・そんな事をすると、剣突を食らわされるぞ!

同輩や下の武士に対して使う言葉  

 

剣客(けんかく)

(一)剣術使い・剣士

(二)剣術・剣道を学ぶ人。

(三)剣術・剣道に巧みな人。

用例

・一端(いっぱし)の剣客ともなれば、人から命を狙われるのは宿命じゃ。

・あやつ、出来る。おそらく名の知れた剣客であろう。

 

喧嘩両成敗(けんかりょうせいばい)

(一)喧嘩をした者、争いごとを起こした者は、その理由に関わらず、双方ともに処罰する事。

(二)室町幕府の「故戦防戦の法」が始まりとされている。

(三)戦国時代には「分国法」の中で法制化された。

(四)江戸時代にもこれを踏襲していた。

 

堅固(けんご)

(一)健やかな事。

(二)達者な事。

(三)物の固い事。

(四)心がしっかりと定まって動かない事。

(五)確かな事。

(六)疑いがない事。

用例

・兄上、お達者で・・・。弟よ、お主も堅固でな。

・ご同輩は相変わらず堅固でござるな。

・そちの心の堅固な事、江戸に来ても変わらぬのぉ。

 

譴責(けんせき)

(一)過失・失敗などを、厳しく咎め責める事。

(二)年貢の納付を厳しく催促する事。

(三)官吏に対する一番軽い懲戒処分の事。

(四)職務上の義務違反を咎め、戒める事。

用例

・此度(こたび)のお主の失態は、後ほど厳しい譴責が待っておるゆえ、心して待つがよい。

 

謙徳(けんとく)

(一)へりくだって高ぶらない徳の事。

(二)謙譲の美徳の事。

用例

・あのお方は謙徳をお持ちの優れた武士である。

・武士はいかに戦に勝利しても、敗れた敵将に対しては謙譲の美徳をもたねならぬ。

 

捲土重来(けんどちょうらい・けんどじゅうらい)

(一)一度敗北した者が、再度勢いを増して盛り返す事。

(二)取られた領土を再び取り返す事。

用例

・殿、ここは一旦退却するが善きと存じまする。捲土重来、次の機が熟すのを待つのです。

 

剣呑・険難(けんのん)

(一)危うい事・危ぶむ事。

(二)物事をむやみに不安に感ずる性質の事。

用例

・剣呑、剣呑、君子危うきに近寄らず。

・何とも剣呑な話じゃのう。

武士一般に使われる言葉

 

元服(げんぷく)

(一)侍の男子が成人になった証(あかし)として、髪を結い成人としての服を着用して頭には冠(=かんむり・烏帽子=えぼしなど)をいただく事

(二)またはその儀式の事。

(三)侍の成人式。11歳から16歳の年頃に行うのが普通。

(四)名前も幼名から大人としての名前に替わる。位の高い武士の場合

には、叙位も兼ねる場合もあった。

 

権柄(けんぺい)

(一)威張る様、またはその人。

(二)高慢な様、またはその人。

(三)無遠慮な様、またはその人。

用例・あの者は、もの言いが権柄じゃ。何様じゃ。 

公儀(こうぎ)

(一)幕府・朝廷・将軍家・天皇家・公家など

(二)おおやけのこと・おもてむき

(三)役所

(四)世間・世間の作法

用例

・表沙汰になれば、もはや公儀も黙ってはいまい。

・このお達しは公儀からのもの、従わないけにはゆくまいて。

・なんじゃ公儀のこのお達しは!公儀に抗議致すぞ!

 

高家(こうけ)

(一)幕府の職名のひとつ

(二)足利氏以来の名家が代々引き継いできた、世襲制の役職。

(三)武田・畠山・大沢・大友・織田・六角・吉良などの名家が司った 役職。吉良家は赤穂浪士討ち入りで有名であるが、赤穂事件でお

家断絶

(四)幕府の儀式・典礼を司(つかさど)った。

(五)武家から朝廷への使節とその儀礼。

(六)伊勢神宮や東照宮などへの代参。

(七)天皇からの勅使(ちょくし)の接待、朝廷への諸礼の実務。

(八)朝廷への伝奏など。

(九)奥高家➡官位をもった由緒ある役職。

      表高家➡官位を持たない役職。

 

向後・後后(こうご)

(一)このあと

(二)今後

用例

・向後、このような事のなきよう取り計らえ。

・向後の事はそちに任せるゆえ、宜しく頼んだぞ

 

高札(こうさつ・たかふだ)

(一)幕府・または藩の法度(はっと=法律)や掟書きを書いた板札(いたふ

だ)の事。

(二)人目の引く場所に高く掲げた。

(三)さらし首や重罪人の罪状を書いた立札の事。

(四)入札の札の中で最も高い値の事。

(五)他人の手紙の尊敬語。お手紙の事。御札(ぎょさつ)

(六)高札を立てる場所は、人通りの多い橋のたもと、宿場町、広場な

ど。

(七)高札場(こうさつば)=高札を立てている場所の事。

 

郷士(ごうし)

(一)江戸時代の武士の呼称のひとつ。

(二)武士であるのに、仕える藩主がいるにも関わらず、敢えて城の側  

 (城下町)に住まわず、郊外の農村に住み、農業をしながら生活している武士の事。

(三)武士としての権利・特権は有していたものの、城付きの武士ほど  

 はなかった。

(四)各藩によって、呼称や武士としての権利に多少の違いがあった。

(五)別に、地士(じざむらい)・山侍(やまざむらい)・郷侍(さとさむらい)などと

いった呼称もあった。

 

行蔵(こうぞう)

(一)出処進退の事。

(二)隠遁して世に出ない事、世に出て道を行う事。

用例・「行蔵は我に存す、毀誉(きよ)は他人の主張、我に与(あずか)らず我に関せずと存じ候」勝海舟が福沢諭吉の「痩我慢の説」の本で、江戸城を開城した勝海舟には忠君愛国の情がないと批判した。それに対する勝海舟が福沢諭吉に送った返信の言葉。大意→「行いは己のもの、批判は他人のもの、我にかかわらない事で関係のない事だ」

用例  

・我が行蔵は、他の者より命じられてするものに非ず、我(われ)が我(わ)が意思に基づいて致すものじゃ。

 

功名(こうみょう)

戦場や主君への仕事の中で、手柄を立てて自分の名前や名誉を上げる事。

 

乞胸(ごうむね)

(一)江戸に来た喰い詰めた浪人達が始めた武士の大道芸人・乞食の事

(二)江戸時代初期、徳川三代で大名の沢山の改易・取り潰しが行われ

た。その時に大量の浪人達が全国にあふれ、仕官を求めて江戸に 集まっていた。

(三)江戸に一年居て仕官できなければ江戸を出てゆかねばならないの

が浪人であった。

(四)人が沢山集まる江戸で乞食・大道芸・軽業・お伽噺・論語や四書

五経の講釈などをして日銭を稼いでいた。それを最初に始めたのが長嶋礒右衛門であった。彼は乞胸の頭領となり代々世襲が続き、幕末まで十数代を数えた。

(五)身分は町人と言う建前ではあるが、実質上は非人という身分であ

り、非人の総元締め浅草弾左衛門の支配下にあった。刀を差すことは許されなかった。

 

合力(こうりょく・ごうりき・ごうりょく)

(一)助勢する事。

(二)助ける事。

(三)力を合わせる事。

(四)金品を施す事。与える事。

 

合力米(こうりょくまい・ごうりきまい・ごうりょくまい)

(一)施して与える米の事。

(二)大阪勤番・二条城番などに加俸した米の事。

(三)大阪・京都・駿府の奉行に加俸した米の事。

 

合力金(こうりょくきん・ごうりききん・ごうりょくきん)

(一)人に与え施す金銭の事。

(二)江戸城大奥の女中の給金の事。

 

五行の構え(ごぎょうのかまえ)

(一)剣術の基本とする五つの構え方の事。

(二)上段の構え・正眼(中段)の構え・下段の構え・八相の構え・脇構え、この五つをもって「五行の構え」と言う。

 

獄門(ごくもん)

(一)さらし首の事。

(二)斬首・打ち首にされた頭部を、高さ1.8mの獄門台に3日間晒(さ

ら)される事。

(三)横に捨札(すてふだ)と呼ばれる罪状を記した木札(きふだ)が立てられ

 た。

(四)首を晒す場所は、江戸郊外の街道沿いにあった。江戸市中に入る

者達へのみせしめでもあった。

(五)胴体の方は試し斬りに使用された。内臓・肝は漢方薬の材料など

として売買された。

(六)獄門は明治12年まで続けられた。この獄門刑は明治政府の太政官  布告をもって終わった。

 

御家人(ごけにん)

(一)将軍にはお目見え出来ない下級武士。

(二)徒(かち)と言われる徒歩で戦う歩兵。

(三)給料は蔵米取りで、米の現物支給であった。年に三回に分けて50

俵以下を支給された。

(四)与力や同心の下級官吏の役につく者もいたが、ほとんど無役。

(五)乗り物の使用を禁じられていた。籠にも馬にも乗れない身分であ

った。

(六)家に門を造ることも禁止されていた。

用例

・上意討ちの加勢に、手練れの御家人五名を遣わせ。

・あやつは無役な御家人よ、気楽な稼業じゃのう。

 

小侍(こざむらい)

(一)年若い侍。

(二)身分の賤しい侍。

(三)武家に雇われている少年。

(四)見習いの若い侍。

(五)形は侍でも、実質上は雑役をする奉公人。働きにより士分に取り立てられる場合もあった。

用例

・ふん、小侍如きが何を言うか。

・お主は小侍じゃ、身分をわきまえよ。 

 

御座る(ござる)

(一)「ある」の尊敬語。おありになる。

(二)「居る」の尊敬語。おいでになる。

(三)「来る」の尊敬語。来られる。

(四)「行く」の尊敬語。~へござれ

用例

・上意討ちを拝命した我ら、すでに用意は整ってござる。

・其れがしは藤堂藩老中を拝命しておる稲葉でござる。

・お猿のお尻は真っ赤でござる。

同輩や位の高い武士に対して使う言葉。

 

腰元(こしもと)

(一)江戸時代の殿様や身分の高い人に仕え、雑用をする侍女の事。

(二)殿様の好みの女性が選ばれる。もち若い女性である。

(三)または身の回りの事。身辺。腰の回りの事。

(四)吉原の遊女屋で居間や帳場でこき使われる下働きの女性の事。

(五)「志村けんのバカ殿様」で下手に仕えている女性達の事。

 

腰物(こしもの・こしのもの)

(一)腰に差した大刀・脇差の事。

(二)大小の刀の事。

 

小癪(こしゃく)

(一)こざかしい事。

(二)生意気な事。

用例

・小癪な奴じゃ、ええ、腹が立つわい。

・何を小癪な、小侍ごときが・・・。

 

(こしょう)

(一)武家の職名のひとつ。

(二)主君の側近くに仕え、雑用を司る少年武士。

(三)子供・少冠者の事。

(四)近習小姓・側小姓とも言う。

(五)表小姓・奥小姓の役に分かれている。

(六)子供の意味もあるが、子供とは限らない。

(七)近習小姓とも側小姓とも云われる。

(八)戦国時代の信長の小姓に有名な森蘭丸・坊丸・力丸などは主君の身辺の世話や雑用をこなしていたが、戦国武将との折衝や上奏など受け持ち、こと戦になれば、主君の側にいて命をかけて戦っていた。三人とも本能寺の変で、主君信長と共に討ち死にした。

(九)若くて美男の小姓は、主君の男色の相手もさせられた。

用例

・小姓上がりの其処元が何を申す、言葉を控えられよ。

 

拵え(こしらえ)

(一)刀の装具一式の事。(柄・鞘・鍔・はばき・切羽・目貫・目釘・下

 緒等々)

(二)用意・準備の事。

(三)身支度・身なりの事。

(四)俳優の化粧・扮装の事。

(五)あれこれと謀を巡らす事。

用例

・なるほど、見事な拵えじゃ。わしの名刀国光に相応しい拵えじゃ

・長い間、白鞘に収めておいた刀じゃが、この度拵えを致そうと思うておる所じゃ。

 

拵事(こしらえごと)

(一)事実ではないことを、本当らしく作り出す事。

(二)つくり事。

用例

・ふん、これはあやつの拵事よ、分かっておるわ。

・見事に、あやつの拵事に謀(たばか)られたわ。

 

拵文(こしらえぶみ)

(一)偽造した手紙。

(二)にせ手紙。

用例

・これは公儀の手紙と見せかけた拵文よ。見よ、よく見れば、上様の花押ではないわ。

・この御消息は、筆跡が織部守様の祐筆でも織部守様のものでもないわ、誰かの手によ拵文じゃ。 

 

御所様・大御所様(ごしょさま・おおごしょさま)

(一)公家の当主の敬称。

(二)由緒正しき武家の当主の敬称。

(三)御所を引退すると、大御所様と呼ばれた。

(四)大御所=親王・摂家・清華・大臣・将軍家の隠居所、またはその

人の尊称。

(五)大御所=引退はしているが、いまだ隠然たる勢力・権力を有する

者。

(六)その道の第一人者として、大きな勢力・権力を有する者。 

(七)幕府の場合には、特に徳川家康と徳川家斉が大御所として実権を

掌握していた。

用例

・これは大御所様、ご尊顔を拝し、恐悦至極にございます。

 

御諚(ごじょう)

(一)位の高い人からの仰せ。

(二)位の高い人からの命令。

(三)位の高い人からのお言葉。

用例

・これも信長様からの御諚じゃ。我らにも異見あれど、従わない訳にはゆくまいて。

 

(こじり)

(一)刀の鞘尻のこと。

(二)刀の鞘尻の飾りの事。

(三)垂木の端。またはその飾りの事。

用例

・お主の刀の拵えは見事じゃのう。その鐺の金具も見事じゃ。

 

鐺返し(こじりかえし)

相手の後ろから、刀の鞘の端、鐺を掴んで、相手の前に押し出したり、引き上げたりして、刀が抜刀できないようにすること。

用例

・何を致すか!その鐺返しをやめんか!抜刀できぬではないか!

武士一般が使う言葉。

 

鐺咎め(こじりとがめ)

(一)道の往来で、侍同士の鐺(こじり)や鞘(さや)が当たったと咎めだて

する事。

(二)わざと鐺(こじり)を当てて、因縁をつけ喧嘩をふっかける輩(やか

 ら)もいた。

(三)上記のことから、些細なことで咎めだてする事を言う。

(四)転じて、ちょっとした意地の張り合いで起こる喧嘩の事を言う。

用例

・おい、武士の魂たる刀に鐺を当ておって、ただで済むと思うておるのか!

・喧嘩の原因は、お侍ぇの鐺咎めのようなつまらねぇ事さ、馬鹿馬鹿しいったらありゃしねえ。

 

御仁(ごじん)

(一)おかた・おひと

(二)他人への尊敬語

用例

・あの方は優れた御仁じゃ。

・そこな御仁、あなた様のご尊名を伺いたい。

 

御前(ごぜん)

(一)江戸時代は大名の事を「殿・殿様」と言わず「御前」と言った。

(二)御前様はその御前(大名)の奥様の事を言う。

 

御前様(ごぜんさま)

(一)御前の奥様の事を御前様と言った。

(二)御前様は十万石以上の大名の奥様にしか言われなかった。

 

小納戸衆(こなんどしゅう)

(一)江戸幕府の職名のひとつ、将軍に近侍する職。

(二)将軍の身の回りの世話役。

(三)将軍の洗顔・着替・理髪・膳番(食事の毒見・配膳・世話)・庭方などの細かい用事を司った。

(四)若年寄に属する配下組織。

 

小荷駄(こにだ)

(一)戦国時代に軍隊の輸送・運搬を担った部隊の事。

(二)軍勢の部隊の移動に合わせて、食糧・調理炊事用具・什器・武器・弾薬・工事用具・戦場での陣地建設材料など様々な物を大量に運んだ。

(三)戦場に赴く部隊の約1/3が小荷駄隊であったと言われる。

(四)小荷駄奉行の下に動いた。

(五)運搬用には牛馬(戦場で使い物にならない駄馬や農耕用の牛)を使ったが、ほとんどが人夫をもって運び移動した。

(六)小荷駄隊は非戦闘要員なので、合戦中は合戦場から離れた後方の安全地帯で待機して合戦の推移を見守っていた。

(七)日本軍で言うところの輜重兵(しちょうへい)の事。兵站(へいたん)を担当した。

 

御念(ごねん)

(一)上位の相手がする配慮の事。

(二)上位の相手が念頭にかける事の尊敬語。

(三)念入りの尊敬語。

(四)ねんごろ

(五)からかい気味に云う言葉。

用例

・父上、それには御念に及びませぬ。

・某(それがし)にまで、御念に及び、そのご配慮、有難く存じまする。

・ほう、それはまた御念の入った事でございますな。

 

小早(こはや)

(一)戦国時代の小型の軍船のひとつ。戦場の海上で使われた。

(二)細長く櫓の数は八挺(はっちょう)から三十挺。

(三)偵察・情報や伝令の伝達・武将の護送などに使用された。

(四)安土時代にも光秀の坂本城の、湖面に突き出た石垣の舟入場と、対岸の信長の安土城との間でもこの小早で頻繁に行き来していた。

 

小半時(こはんとき)

一時(いっとき=2時間)の1/4、今の30分の事。

 

御免(ごめん)

(一)幕府からの免許・免許状の尊敬語。

(二)免官・免職の尊敬語。

(三)容赦・赦免(ようしゃ・しゃめん=許しを請う事)の尊敬語。

(四)謝罪の時の言葉。

(五)他家を訪問した時の挨拶語。

(六)その場所を去る時の挨拶語。

(七)断る時の丁寧語。

用例

・控えい!これぞ幕府御方(ばくふおんかた)より賜(たまわ)った天下御免の許可状じゃ。

・御免!新座殿の居宅か?拙者は柳生兵庫之介と申す。御免、どなたか御座らぬか。hello anybody home?

・では、拙者はこれにて失礼致す、御免!

・では御免下され。

 

御免蒙る(ごめんこうむる)

(一)お断り致す。

(二)いやで御座る。

(三)まっぴら御免で御座る。

(四)相手・周囲に許しを得る事。

(五)相手の許可をもらって退出する事。

(六)「蒙御免」(ごめんこうむる)の言葉は、現在も相撲の番付表のタ  

イトルにも使われている。

用例

・ではこの辺で、拙者御免蒙る。(退出)

・拙者とあのめっぽう強い剣客との試合は御免蒙る。

 

御免駕籠(ごめんかご)

(一)奉行の許可をもらって乗ることができた駕籠の事。

(二)医者・一部の町人が乗れた自家用の駕籠の事。

 

小者(こもの)

(一)侍の最下層の役職。中間の下で働く者。

(二)こびと・おこびととの呼称もある。

(三)武家の雑役にこき使われる者。

(四)藩が直接雇っている小者のことを「定小者」と言った。

(五)主に荷物の運搬や走り遣いなどをやらされた。

 

御用(ごよう)

(一)捕り手が、犯罪を犯した人間を捕らえる時に言う言葉。

(二)御用提灯を掲げて、「御用だ!御用だ」などと言う。

(三)幕府の用事・要件の事。

(四)朝廷・宮中の用事・要件の事。

(五)御用聞きの略語。

(六)体制側におもねって、権力に追随して権力側の利益を図る学者な

どを軽蔑して言う言葉。→御用学者など。

用例

・御用だ、御用だ! 盗賊狐火の甚五郎、もはや逃げられぬぞ、神妙に縛につけぃ!

・あれが幕府御用の豪商、紀伊国屋文左衛門様よぉ。あの上野寛永寺をお建てになったお方じゃ。 

 

御用金(ごようきん)

(一)江戸時代に幕府や諸藩が、財政窮乏の時に、財政を補うために、

御用商人などに部課した金銭の事。

(二)主君の使用する金銭の事。

用例

・藩の御用金が横流しされておると言う噂はまことか!?

・御用金を運搬する者共への用心じゃ、手練の徒衆四・五名を護衛につけよ。

 

虎列刺(コレラ)  = ころり

(一)虎列刺(コレラ)の異称

(二)これに罹ると、ころりとあっけなく死んだ事から言う。

(三)銭百文の事。

(四)吉原の遊廓などで、初見世の女郎が百文を見せただけでころりと

寝た事から言う。

(五)百ころり、または転じて百文の別称。

(六)江戸末期、文政五年(1822年)に朝鮮半島から対馬を経て日本に伝わったと言われている。爆発的に広がったのは幕末の安政五年のアメリカ船ミシシッピー号から流行したと伝わっている。

用例

・町中で流行っているころりに罹って、後藤殿の御子息も亡くなれたそうな。

 

小童(こわっぱ)

(一)子供の事。

(二)コワハラの転じた言葉。

(三)年少者の事。

(四)年少者を罵(ののし)って言う言葉。

用例

・ふふん、小賢しい小童め、かかってこい。

・いい加減にしろ、この小童、たたっ斬るぞ!

 

言上(ごんじょう)

(一)位の高い人に申し上げる事。

(二)殿様などへ申し上げる事。

(三)公家などの貴人へ申し上げる事。

用例

・近衛三藐院様(このえさんみゃくいんさま)が拙者に意見をお求めになられ、その旨を言上仕った次第で御座る。

・殿に急ぎお耳にお入れ致さねばならぬ重要な事でござったゆえ、言上致したのじゃ。

細作(さいさく)

(一)忍びの者。

(二)間者

(三)スパイ

(四)諜報活動を行う者

用例

・案ずるな、敵地には細作を放ってある。直に諜報の報告が参るはずじゃ。

・この密書は幕府の細作が持っておったものじゃ。襟の奥中に縫い付けておったわ。

 

在所(ざいしょ)

(一)生まれ故郷の事。

(二)郷里・田舎の事。

(三)村里・在郷の事。

用例

・お手前の在所は何処(いずこ・どこ)で御座るか?  

・拙者の在所は加賀の金沢(藩)で御座る。代々郡奉行を司っておりまする。

 

逆茂木・逆虎落(さかもぎ・さかもがり)

(一)陣地内への敵の侵入を防ぐための防護柵。

(二)茨の木などの棘の部分を逆立てて、網のように編んだ防護柵。

(三)鹿の角を編み込んだように見えることから、鹿砦(ろくさい)・鹿角砦(ろっかくさい)とも言う。

 

月代・月額(さかやき)

(一)男性の頭髪を額から頭頂部にかけて髪を半月形に剃り落としたも

の。

(二)冠の下にあたるところを剃ったもの。

(三)応仁の乱後、侍の気の逆上を防ぐために剃ったと言われている。

(四)兜で頭髪が蒸れるので頭髪を剃った。

(五)つきしろ・ひたいつき

(六)江戸時代には庶民にも広まり、成人のしるしとして月代を行っ た。

用例

・おぬしの月代もそろそろ、髪結いに剃ってもらえばどうじゃ。

・月代は武士を形作るもののひとつ、手入れを怠るまじき候。

 

逆寄(さかよせ)

(一)逆襲の事。

(二)攻め寄せる敵勢に対して、逆に攻撃をする事。

 

作事(さくじ)

(一)建物・家屋などを造営したり、修繕・修理する事。

(二)建物の普請・建築の事。

 

作事方(さくじかた)

(一)幕府の普請の為の組織の事。

(二)幕府の下部組織に属する。

 

作事料(さくじりょう)

(一)普請の費用。

(二)建設費用。

(三)造営費用。

 

作事場(さくじば)

(一)工事現場。

(二)建設現場。

(三)普請場。

(四)作業・工作をする場所。

 

作事奉行(さくじぶぎょう)

(一)幕府の職名。

(二)幕府公営の建物の建設や修理・修繕を司り、統括した。

 

提刀(さげがたな・ていとう)

(一)刀を手に提げ持つ事。

(二)手に提げ持った刀の事。

(三)提太刀(さげだち)の事。

(四)今の居合道で言う、提刀姿勢の事。

用例

・その提刀は、鍔が小さいように見えるが、もしや薩の示現流ではござらぬか?

・提刀に付いておるその下緒、亀甲の模様で長命に通ずる。吉なる下緒じゃ。

 

差応・差答 (さしいらえ)

(一)返事。

(二)返答。

(三)受け答え。

(四)傍から口を出す事。

(五)口出しをする事。

(六)相手をする事。

用例

・此度の柴田殿の書状には、我が軍団に加勢致し候との差(さしいらえ)じゃ。何とも心強きことじゃ。鬼に金棒、火に油じゃ!

・上様より御下問有りて差応候へ共、難儀が事にて何共申兼候。

(うえさまよりごかもんありて、さしいらえそうらえども、なんぎがことにてな んとももうしかねそうろう)

 

差遣(さしつかわす)

差し向けて人を派遣する事。

用例

・お代官様のお指図(さしず)に従い、すでに黒鍬者(くろくわもの)十名ほど差遣わして御座いまする。

 

差控(さしひかえ)

(一)江戸時代の刑罰のひとつで、停職処分の事。

(二)武士・公家が職務上の過失・ミス・間違いがあった時、出仕を控えさせた事。

(三)出仕を禁じ、自宅で引きこもらせ謹慎させた。

用例

・室伏殿が昨夜、殿の御前で、うろんな報告書をしたが故に、ご家老様より差控を命じられて、今はご自宅にて謹慎されておる。

 

然為れば(さすれば)

(一)そうであるから。

(二)そうであるならば。

(三)そうであるとするならば。

用例

・さすれば、その様に致せばよいではないか。

・我等は代々この藩に務める藩士である、さすれば藩のために身命を尽くすのが我等の使命と云うものじゃ。

 

沙汰(さた)

(一)主君または官府の指令・指図

(二)政務を裁断・処理する事

(三)便り・知らせ・報知・音信

(四)評定・裁断・訴訟

(五)評判・噂

(六)行い・仕業・事件

用例

・表沙汰(おもてざた)

・これは狂気の沙汰じゃ! 

・刃傷沙汰。

・地獄の沙汰も金次第。 

・追って沙汰をする。

・評定所より沙汰を申しつくる! 

・あやつは世間ではどういう沙汰でいわれておるか?

・あとはお沙汰を待つばかりじゃ。

・あの件は沙汰止み(さたやみ)になった。

 

扨も(さても)

(一)いやどうも

(二)まったく

用例

・扨てもお主の言う通りじゃ。

 

侍走り・犬走り(さむらいはしり・さむらいばしり・いぬはしり・いぬばしり)

(一)城郭の石垣の上下の中ほどにある、道幅の狭い道・通路の事。

(二)土塁の頂点、あるいは中ほどにある狭い道・通路の事。

(三)人が通れるほどの幅の道を「侍走り」と言った。

(四)「侍走り」より狭い道は「犬走り」と言った。

(五)「犬走り」は別名「犬行」(いぬゆき)とも言った。

(六)戦国時代には「武者走り」という名称だった。

 

然もありなん(さもありなん)

(一)そうであろう

(二)もっともである

用例

・そうであったか、さもありなん。

・成程、左様であったか、さもありなん。

 

差配(さはい)

(一)仕事・工事・作業などの業務をさばく事。さばく人。

(二)指図する事。指図する人。

(三)処置する事。処置する人。

(四)土地・貸家などの所有者に代わって代理人として管理する事。またはその人。

(五)工事や普請などを指図・監督・管理する事。またはその人。

 

然りとて・然りとても(さりとて・さりとても)

(一)そうではあるが。

(二)そうだとはいえ。

(三)そうだといって。

用例

・藩の為ならばそれは如何にも正しい、然りとて幕法に照らせば、これは最悪お家断絶になろうかと存ずる。

 

戯言(ざれごと)

(一)たわむれて言う言葉。

(二)ふざけた言葉。

(三)冗談。

用例

・戯言はよせ、いざ尋常に勝負じゃ。

・お主の戯言はそこまでにせい。

・お主の戯言は面白うないわ、すべってばかりじゃ。ドン引きゃ。

 

然れば(されば)

(一)それゆえ・それゆえに

(二)そうであるから

用例

・さればこそ、こうでなければならぬ。

・さればよ。☞(思った通りよ)

・美味いものを食したいとのこと。さればあの評判の飯屋で夕餉でも如何で御座る。

 

左様(さよう)

(一)そのとおり

(二)そのよう

(三)そう 肯定の意味

用例

・左様、お主の言う通りじゃ。

・これ、左様な事を申すでない。

 

山窩・山家(さんか・さんが)  

(一)古代よりいたという山の民。縄文人の末裔とも言われる。

(二)飢饉や災害、過酷な苛斂誅求(かれんちゅうきゅう)で逃散した人々

 が山に逃れたとの説もあり。

(三)1950年まで日本に存在していた事が確認されている。

(四)定住せず各地の山々・河川・山奥などを転々と漂白して暮らして

た。獣を狩り、山の幸から得られる食べ物で生活し、独特の文化と掟を持っていた。

(五)平地の人々とは、竹細工・箕などを米や物と交換して、生活必需

品を手に入れていた。

(六)神代より伝わるサンカ文字と言う独特の絵文字をもち、その歴史

と文化は未だ謎に包まれている。

(七)忍者や一部の戦国武将達もこの山窩の出身と言われている。

(八)サンカと言う言葉は、昔から被差別民を呼ぶ差別用語となっている。現在は公(おおやけ)にはこの呼称は使われない。

(九)現在では豊かになった日本の社会と人々の中に溶け込んで、サン

カという人々はいなくなった。

 

算勘(さんかん)

(一)算数

(二)計算する事。

(三)占いを考える事。

(四)算勘者(さんかんじゃ)=計算が得意な人。

(五)侍は基本的には計算はしない、商人などがやるものとして蔑んで

いた。 

 

斬奸状(ざんかんじょう)

(一)悪人を斬るについて、その理由を書いた文書(もんじょ)の事。

(二)斬られる側から見れば、一方的で独善的な理由と行為である場合多い。

(三)暗殺する刺客(=テロリスト)は、政治的イデオロギーや偏執狂的な考えにとらわれている輩(やから)が多い。

(四)佐幕派や攘夷派などが入り乱れての暗殺劇が流行った幕末維新の時代によく作られた。

用例・この梟首された首の横に斬奸状が置いてある。むっ、こ奴は新選組が追っていたあの男ではないか! 

 

讒言(ざんげん)

(一)人を陥(おとしい)れるために、事実を捻じ曲げ、偽り、嘘を言って、権力者・上司・目上の人間にその人の悪口を言う事。またその言葉。

(二)嘘・偽りの言葉をもって、人を陥れる事。

(三)讒口の事。

(四)讒説の事。

用例

・拙者を殿への讒言で陥れおって、許せぬ!

・讒言はよせ、あの者の事は儂(わし)がよく知っておる。

 

参上(さんじょう)

(一)目上の人のところへ行く事。

(二)伺う事。

(三)自分の名乗り(登場)を告げる時に言う言葉。

用例

・かくなりましては、急ぎご家老様のところへ参上仕りまする。

・赤影参上! 

・登城の為、只今より参上仕る。

 

参着(さんちゃく)

(一)参り着く事。

(二)到着する事。

用例

・江戸表より志方殿一行がただいま参着致しまして御座います。

・江戸表より参着の所に、ご家老様より相尋ね事、是れあり候。

・尾張柳生一門、只今ここに参着致しまして御座いまする。

・諸川四郎兵衛(もろかわしろうひょうえ)備前より参着致しまして御座います。

 

三一・三一侍(さんぴん・さんぴんざむらい)

(一)身分の低い侍・若党を卑しめて言う言葉。

(二)一年に三両一分しか扶持を受けられなかった貧乏侍の事。

(三)双六の二つの賽の目が、三と一の目が出る事。

用例

・おい、この三一野郎! 

・この痩せ侍!三一がぁ! 

・けっ、三一侍が何をぬかすか!

ヤクザや町人が、身分の低い侍を卑しめ馬鹿にする為に使う言葉。

自害(じがい)

(一)自ら傷つけて、自分の生命を断つ事。

(二)自殺・自刃・自尽

用例

・あやつは、この度の事を、藩のためにと思い、自害して果てたのじゃ。

・あの男、追い詰められて自害して果申した。無念じゃ!

 

刺客(しかく)

(一)暗殺を行う人。

(二)せっかくとも言う。

用例

・あやつが、藩が放った刺客じゃな?

・襲って来た刺客の顔は四角だった。

 

確と・聢と(しかと)

(一)しっかりと。

(二)はっきりと。

(三)確かに。

(四)ちゃんと。

用例

・よいか、その方に聢と申し付けたぞ。

・お主には、確と頑張ってもらわねばならぬ。

同輩・目下の者に念を押すときに使う言葉。

 

然らば(しからば)

(一)そうであるならば。

(二)さらば・されば

用例

・そうであったか、然らばそのように致そう。

 

然り(しかり)

(一)そうだ

(二)その通りだ

用例

・お主の申す事、然りじゃ。

・然り、その通りじゃ。

 

然れども(しかれども)

(一)そうではあるけれども。

(二)しかしながら。

(三)されども。

(四)しかりといえども。

用例

・然れども、それは藩の掟に背くものじゃ。

・お主の言うことは相分かった。然れども、それをお決めになるのはご家老様じゃ。

 

仕官(しかん)

(一)武士が主君に仕える事。

(二)官に仕え、役人になる事。

用例

・この度、士官の念願が叶って、土門藩に取り立てられてのぉ。これで浪人とはおさらばじゃ。

 

仕儀(しぎ)

(一)事の次第。

(二)事の成り行き

用例

・このような仕儀に相成ったわけよ。

・この仕儀に至った経緯を有体に申せ。

 

私曲(しきょく)

(一)邪(よこしま)で、不正である事。

(二)物事を自分勝手に解釈して、曲がった考え方をする事。

用例・「此(この)空は天地にありては天地の主(あるじ)、人の身にありては人の主、舞を舞えば舞の主、鉄砲を撃てば鉄砲の主、弓を射れば弓の主、馬に乗れば馬の主なり。此主に私曲あれば、馬にも乗られず、弓も当たらず、鉄砲もはずるべし」

柳生宗矩「兵法家伝書 活人剣 下」の一文。禅の教え「随処に主となる」の箴言を剣の道で教えたもの。

 

地下浪人(じげろうにん)

生活苦で、武士の身分を売り渡した侍の事。一度、武士の身分を失うと、再就職は不可能となる。そうなると、あとは寺子の先生か、町人・やくざの用心棒、傘貼り、虫籠作りの内職などで糊口をしのぐしかなかった。

用例

・明日から、地下浪人か・・・、情けないのう。

・地下浪人ごときが何を吐(ぬ)かすか。片腹痛いわ。

 

自今・爾今・而今(じこん)

(一)今より後

(二)以後。

(三)この後。

(四)而後(じご)の事。

用例

・自今、当屋敷へ矢作殿が参られるゆえ、玄関横の控えの間にお通し申せ。

・爾今、ぬかりなきように取り計らえ。

 

地侍・地士(じざむらい)

地方在住の土着の武士の事。

用例

・あやつは、我が藩主が、昔この藩を上様より賜った時より以前からこの地に住もうておった地侍よ。

 

寺社奉行(じしゃぶぎょう)

(一)江戸時代に全国の寺院・神社、僧侶・神職を支配・管理していた。

(二)寺社奉行は上記に関する訴訟・人事・雑務も司っていた。

(三)江戸幕府では三奉行の第一であった。

(四)連歌師・楽人・陰陽師・検校なども支配していた。

(五)関八州・畿内周辺以外の諸国私領の訴訟も扱った。

(六)大名職で、三~五名の者が任命された。

 

四書五経(ししょごきょう)

四書= 「大学」「中庸」「論語」「孟子」

五経= 「易経」「書経」「詩経」「春秋」「礼記」

いずれも、江戸時代の武士の必読書であり、幼年期・少年期・青年期において、素読させられ、学ばされる。九冊ともに儒教の重要教典である。庶民を支配する、武家の帝王学であり支配するあり方、道徳の教科書でもあった。

 

死戦(しせん)

(一)死に物狂いで戦う事。

(二)死力を尽くして戦う事。

(三)必死の戦い。

(四)決死の戦い。

用例

・突如襲いかかってきた、数名の刺客に一人で死戦した。

・我ら軍団が、戦場(いくさば)で、敵方と入り乱れて死戦し、勝利に導いた。

 

為たり(したり)

(一)うまく事が運んだ時に言う言葉

(二)事が失敗した時に言う言葉

(三)うまくやった!

(四)しまったやりそこねた! 

用例

・これはしたり!うまくいったわい。

・お主のそのしたり顔には、呆れたわい。

 

実語経(じつごきょう)実語教本文

(一)子供に道徳・修身・処世・倫理を教えるための教科書として作ら

れた。

(二)明治維新まで、寺子屋で子供の書写・素読・修身に使われた。

(三)日本で千年以上も延々と何十世代にもわたって使われてきた修身 の教科書。

(四)儒教と仏教の思想が色濃く反映されている。

(五)仏教関係者が作ったと考えられている。作者は不明。

(六)千年にわたり、日本人の精神を形作ったもの。

 

昵懇(じっこん)

(一)親しい事。

(二)こころやすい事。

(三)親しんでいる事。

用例

・あやつとわしとは幼き頃より昵懇の間柄じゃ。

・惟任様と光春様は昵懇の仲と聞き及んでおりまする。

 

入魂(じっこん・じゅこん・じゅっこん)

(一)口添えをしてもらう事。

(二)頼み込む事。

(三)親しい事。

(四)親密な事。

用例

・どうじゃ此度の事、お屋形様へお主からも入魂してもらえまいか

・筑前がことあの禿げネズミ(秀吉)が、この信長に四国長宗我部討伐の事計を入魂してきおったわ。

 

執奏(しっそう)

(一)位の高い人に取り次いで奏上する事。

(二) 位の高い人に取り次いで奏上する人。

(三)伝奏する事。伝奏する人の事。

用例

・信長の執奏により、暦の変更を迫られた朝廷では、天子の権威をも蔑(ないがし)ろにする信長に怒り心頭であった。

 

して

(一)そうして

(二)それで

(三)では

用例

・して、あの件はどう相成った?

・して、その手立ては如何致すのじゃ。

 

士道(しどう)

(一)士(サムライ)たる者が行うべき道義。

(二)士(サムライ)たる者の行動理念。

(三)士(サムライ)たる者の行動規範。

用例

・お主に侍の資格はない、士道不覚悟!死ねいっ!

・我が士道に、後悔の二文字はない。

・我が士道は大義の為に、いつでも死ねる事である。

 

尿筒・御尿筒(しとづつ・おしとづつ)

(一)小便筒の事。

(二)他に「便竹」「装束筒」とも呼ばれた。

(三)将軍が外出の時、衣冠束帯である場合、衣装が邪魔で小便ができ

ない。そこで公人朝夕人(くにんちょうじゃくにん)という従者が将軍の袴の下から御尿筒(おしとづつ)を差し入れて将軍の小便を受けた。付配下に属する者

(四)尿筒は銅製の物。他に竹製のものもあった。

(五)尿を溜める筒ではなく外の庭下に流れ落ちる形式の物もあった。

(六)内田孫左衛門の家が代々この役を引き継いでいた。

 

褥・茵(しとね)

(一)寝る時に床に敷く敷物(しきもの)の事。

(二)敷物(しきもの)の事。

(三)座布団の事。

(四)敷板の床、筵(むしろ)の上に敷く、綿入りの敷物の事。

 

指南(しなん)

(一)教え導く事。またはその人。

(二)教え示す事。またはその人。

(三)南を指す事。

(四)指南車(人形を象ったコンパスを搭載した古代中国の乗り物)が方 向を示す事。

用例

・では、拙者が直新陰流の太刀技を指南致そう。

・拙者は、当藩指南役の辻月丹と申す。 

 

指南役(しなんやく)

(一)大名に仕えて、武芸を教える者。

(二)指南番も同じ意味

用例

・この方は、当藩のご指南役、伊予清之介殿で御座る。

・当藩きっての指南役、伊予清之介殿が敗れるとは・・・。

 

死花(しにばな)

(一)死に際の名誉。

(二)死後の名誉・誉(ほまれ)

(三)死んだために、名誉が生前よりも勝る事。

(四)立派に死んで、死後に誉れを残す事。

用例

・殿を守って、いくつもの槍を受けて死んだあの者は、立派にその死花を咲かせおった。

・十人は地獄へ道連れにして、死花をさかせてやるぞ。

・我らの罪を一身に背負って切腹しおった。満足そうに笑みを浮かべて、最後に我らに死花を見せおった。

 

(しばし)

(一)少しの間の事。

(二)ちょっとの間の事。

(三)暫時の事。

用例

・暫し待たれよ。

・碁の後に暫しありて下僕が文を持って参った。

 

士分(しぶん)

侍の身分である事。武士の身分である事。

 

仕法(しほう)

(一)仕方(しかた)

(二)やり方

(三)方法

(四)手段

(五)仕法をつける→なんとかやってみること。やり方を考えること。

用例

これは何としたことじゃ。仕法のやりようがあったであろうに。

 

赦免・御赦免(しゃめん・ごしゃめん)

(一)無罪放免の事。

(二)罪を赦す事。

(三)過失を赦す事。

用例

・新左衛門が御赦免となって、遠島の島から帰ってくるそうじゃ。あなめでたやな

・お取り調べにより、義衛門殿の無罪が明白となり、此の度、御赦免と相成った。

 

借問(しゃもん)

(一)ちょっと質問する事。

(二)仮に質問する事。

(三)しゃくもんと言う読み方は誤読。

用例・ではそちに借問致すが、この桶狭間を縫って今川の本陣への追撃、そちならば如何なる手立てを講ずるや?

 

洒落臭い(しゃらくさい)

生意気な事

用例

・町人ごときが洒落臭いぞ!

(ヤクザなどが)野郎、洒落臭せぃ!死ねっ!

下級武士などが町人や下の階級の者に言う言葉。またはヤクザ言葉

 

祝言(しゅうげん)

(一)婚礼の事。

(二)祝い・祝いの言葉。

(三)祝言能の略

用例

・今日は目出度い祝言の日じゃ。

・あの二人はこの春に祝言を挙げるそうじゃ。

 

宗門人別帳(しゅうもんにんべつちょう)

(一)宗門改めの結果を記して、寺社奉行に上申・提出した名簿の事。

(二)別名「宗門改帳」(しゅうもんあらためちょう)とも言う。

(三)別名「宗旨人別帳」(しゅうしにんべつちょう)とも言う。

(四)別名「宗門帳」(しゅうもんちょう)とも言う。

(五)切支丹(きりしたんクリスチャンキリスト教徒) 禁圧の為のものでも あった。

 

首級(しるし・しゅきゅう)御首級(みしるし)

(一)討ち取った首の事。

(二)しるし(首の事)

(三)中国の秦の時代、法律でひとつの首をとれば階級がひとつ上がった事から言う

用例

・侍の誉れは戦場(いくさば)で首級を挙げることよ!

・首級著しいあの者に手厚く褒美を取らせい!

 

宿将(しゅくしょう)

(一)戦功を重ねた老将の事。

(二)名声と力量のある老将の事。

用例・あれにおわすは筑前羽柴殿(秀吉)の宿将、蜂須賀小六殿と黒田官兵衛殿じゃ。

 

宿老(しゅくろう)

(一)年老いて社会・物事の経験を積んだ人の事。

(二)老巧な人の事。

(三)幕府の高い位の人(例は以下)

①鎌倉幕府の引付衆。

②室町幕府の評定衆。

③江戸幕府の老中。

④各諸藩の家老 。

⑤昔の鯨漁で勢子舟に乗って指揮をした年長者の事。

これらを宿老という。

⑥大名家によっては呼称が違う。宿老を家老と言ったり、年寄と言ったりしたところもあった。

⑦いずれにせよ、その大名家においてはトップクラスの重臣で、家格が高く、優秀な人材が登用された。戦時には部隊の陣頭指揮をとり、藩の経営や外交にも辣腕を振るった。

用例・駿河の国衆に対し、同盟と結束のため、宿老の江藤新左衛門を差し遣わせた。

 

殊勝(しゅしょう)

(一)けなげなさま。感心な事。神妙。

(二)心打たれる事。敬虔な気持ちになる事。

(三)ことに優れている事。最勝。

用例

・町奴風情が、殊勝なことよのう。

・お主自ら縛につくのか、殊勝な事よ。

・拙者、貴殿の言葉に、殊勝なことと感じ入った次第で御座る

・その方、誠に殊勝な心掛けじゃ。

 

主君(しゅくん)

(一)自分が仕える武将・藩主・殿様の事。

 

主家(しゅけ・しゅか)

(一)主君の家。

(二)主人の家。

用例・この主家に仕えて、このわしで五代目じゃ。

 

出来(しゅったい・しゅつらい)

(一)事件が勃発する事。

(二)物事が成就する事。

(三)物事が出来上がってゆく事。

(四)しゅつらいの転語。

用例・今朝方、都で出来(しゅったい)致し事にて候。夥しき軍勢本能寺に押掛かり、焼き討ちに攻め、ついには信長公を誅殺致し候由。事後信長公の御遺骸なかりしに雑兵ども市中にて落ち武者狩りを致し候。町中の家々を探索、町衆ども大いに騒ぎ立ち候。

 

出立(しゅったつ)

(一)出発する事。

(二)旅に出る事。

(三)門出の事。

用例

・江戸表を目指していざ出立じゃ。

 

衆道(しゅどう)

(一)男色の道の事。

(二)陰間(かげま)

(三)友達ならぬホモ達。

用例

・あやつは武道を辞めて、今や衆道に血道をあげておる輩(やから)

・あたしゃ、衆道に命をかける陰間ざんすよ。

一般に使われた言葉。幕末まで武士の間では男色は文化であった。

 

出駕(しゅつが)

身分の高い人が駕籠で出かける事。

用例

・近衛前久様(このえさきひささま)が今しがた御屋敷より御出駕あそばされまして御座いまする。

 

出奔(しゅっぽん)

(一)逃げて行方をくらます事。

(二)逐電する事。

(三)江戸時代に徒士以上の位の者が逃亡して行方をくらます事。

用例

・おい、聞いたか?徒士の鹿沼京介が突然出奔したそうじゃ。

・出奔して行方知れずになっていた者が、妻籠の宿に潜んでおるそうじゃぞ。

 

出奔届(しゅっぽんとどけ)

(一)藩に出奔した者があった場合に、それを届ける事。

(二)またはその書面の事。

用例

・また、出奔した者がでたか・・・、届けを出さずばなるまいて。

・この出奔届にある者は、勤王党の者じゃな。

 

上意(じょうい)

(一)主君の命令

(二)主君の思し召し

(三)江戸時代の将軍の命令

用例

・上意であるぞ!控えい!

・皆の者、上意なるぞ。

上意討ち=主君の命令を受けて、罪人を討つ事。

 

床几・牀机・將几(しょうぎ)

(一)野外で使う腰掛・椅子の類(たぐい)

(二)四角の木の枠を二つに重ね、真ん中を違え違いにはめ込み、一方 に布を張り、腰かけるようにした折り畳みの椅子の事。

(三)折り畳みゆえに持ち運びに便利。

 

消息(しょうそく)

(一)手紙の事

(二)動静。

(三)安否。

(四)様子。

(五)事情。

(六)訪れる事。

(七)文通する事。またはその手紙の事。

用例

・懐かしい友の消息が判り、一安心じゃ。

・おぉ、左馬之介の消息が届いたか。

 

尚武(しょうぶ)

(一)武事を重んずる事。その気風を重んずる事。

(二)軍事を重んずる事。その気風を重んずる事。

用例

・我が藩は源頼朝公より、鎌倉武士の流れを汲んでおる、故にその尚武を重んずるのじゃ。・今こそ我が藩の尚武の気風を見せる時じゃ。

 

定法(じょうほう)

(一)決まった法則。

(二)決まったやり方。

(三)いつも通りに行う、決まった方法。

用例

・拙者の示現流の修練の定法は、立木を三千回打ち込む事で御座る。

・この剣術の技は、このやり方が定法じゃて。

・剣術で有利なのは「後の先」じゃ。これが剣術の定法じゃ。

 

諸行(しょぎょう)

(一)現世のあらゆる物。

(二)現世の世界。

(三)移り変わりゆく諸々の事。

用例

・所詮(しょせん)この世は諸行無常の世界じゃ。

・この世は移り変わり行く諸行の世界じゃ。いずれ今の幕府も程なく滅びるじゃろうて。

 

所業(しょぎょう)

(一)仕業(しわざ)

(二)行い・ふるまい

用例

・犬畜生にも劣る所業じゃ。

・どこのだれの所業じゃ。

・侍にあるまじき所業。

 

如才・如在ない(じょさいない)

(一)手抜かり、手落ち、手抜け、失策がない事。

(二)人に対して愛想がよく印象よく対応ができる事

(三)気がきく事。

用例

・あやつは使える奴じゃ、何をさせても如才ない奴よ。

・気難しいご家老を機嫌よく出来るとは、さすがに如才のない奴じゃ。

 

書札(しょさつ)

(一)文書・書付。

(二)手紙・書状。

(三)書紙

 

笑止(しょうし)

(一)たいそう笑うべき事。

(二)おかしくて笑ってしまう事。

(三)はなはだ気の毒なこと。

用例

・馬鹿なことをやりおった、笑止じゃ。

・何と、さても不慮なる事、笑止千万なり。

・我ら仏僧に神罰を問うなど笑止!

・腹も切れずに侍を気取りおって、笑止じゃ。

 

祝着(しゅうちゃく)

(一)喜び祝う事。祝う事。慶事。

(二)満足に思う事。

用例

・これは目出度い。祝着至極(しゅうちゃくしごく)じゃ!

・わしも祝着じゃ。

 

城代(じょうだい)

(一)主君の代わりに城を預かる者。

(二)戦国時代には出陣した主君の代わりに城兵を指揮し守備をした。

(三)江戸時代には参勤交代で江戸に赴いた主君に代わり城を預かった。

(四)城代は主君がいない間の最高責任者である。

(五)城代家老の略称。

(六)城の管理や部下への指揮、城の守備に当たる。

(七)江戸幕府の職名のひとつ。駿府城や大阪城を護る任にあたった者、ここには城主を置かずに譜代大名が代わりに勤めた。(大坂城代・駿府城代)

 

定府(じょうふ)

(一)旗本や大名の家臣などが、参勤交代などをせずに、江戸に常駐・

定住する事。

(二)江戸の屋敷に常駐して藩の実務・執務・雑務などの仕事を担った。

(三)勤務が長期間に及ぶため、定府を命じられた藩士は、妻子家族と住んでいた。

用例

・江戸家老、曾田監物(そだけんもつ)様からのご用命で、定府となってはや十年じゃ。

・あの藩士は定府での、江戸表屋敷の事ならあの藩士に聞くがよい

 

擾乱(じょうらん)

(一)入り乱れる事。

(二)乱れて騒ぐ事。

(三)群衆・集団がパニックになる事。

(四)みだれさせて騒がせる事。

用例

・背後から突然の武者の群れが襲い掛かり、味方の兵は皆、擾乱した。

・背後から今川軍を追撃し、前後の軍を分断し、擾乱させよ。

 

所存(しょぞん)

(一)心中に思うところ・思惑。

(二)考え。

用例

・この上は、拙者、腹を斬る所存でござる。

・お主の所存は如何に?申してみよ。

 

食客(しょっかく)

(一)他人の家で衣食住の世話を受けて生活する人の事。

(二)居候(いそうろう)の事。

(三)自分の家に客分として抱えておく人。

用例

・こちらのお侍れぃさんは、親分(やくざの)の食客でな、ついでに用心棒をしていただいてるんだ。

・近頃、ご家老の屋敷に滞在しておる食客は、なんでも無双心眼流の達人で、剣術ではご家老とは馬が合うらしく、もう三月(みつき)も滞在しておる。

 

所望(しょもう)

(一)望み願う事。

(二)注文。

用例

・これ越後屋、切餅5つを殿が所望しておる。なんとか致さぬか。

・次回の茶会では唐伝来(からでんらい)の、そちが自慢の窯変天目茶碗(ようへんてんもくちゃわん)を所望致すぞ。

 

痴者(しれもの)

(一)愚か者・馬鹿者

(二)乱暴者・狼藉者

(三)その道に打ち込んでいる者

(四)その道のしたたか者

用例

・この痴者!成敗致してくれるわ!

・言わずと知れた、あの痴者よ!

殿の御前で無礼であるぞ、この痴れ者が!

 

白鞘(しらさや・しろさや)

(一)真剣の保管用に作られた、白木製の鞘の事。鍔はない。

(二)別名「休め鞘」とも言う。

(三)刀剣の鞘と柄を外し、代わりに刀身そのものを、白木の鞘と柄に入れ替える。最後に目釘で、刀剣を止める。

(四)白鞘は江戸時代後期からあったが、もともと一部の上級侍だけがしていたものである。明治の廃刀令の時に刀をもつことを禁止された。それで仕方なく、刀の保管の為に、この白鞘がおおいに利用されたそうだ。

(五)白鞘は植物の木で出来ているので、長く保管していると水分で錆が発生してしまう。硝酸イオン、リン酸イオン、カリウムイオンなどが白鞘に含まれる成分である。と言う事は硝酸カリウムは塩化ナトリウム(食塩)と同じ塩だと言う事だ。だからこの白鞘で保管していたとしても、毎月の手入れは普通の刀剣同様に必要となる。

 

城割(しろわり)

(一)城攻めで攻略・占領しつくした敵城を破壊・破却すること。

(二)抵抗の激しい敵城は、残った残党が、またその城を拠点に、反乱を起こす恐れがあるので、徹底的に破壊しつくした。

(三)戦国時代には織田軍、豊臣軍をはじめ、積極的に城割を行った。

 

尋常(じんじょう)

(一)普通・通常・世の常・なみ・当たり前。

(二)素直なこと・殊勝なこと。

(三)目立たないで品格の良いこと・大人しいこと。

(四)立派なこと・すぐれたこと。

用例

・いざ、尋常に勝負じゃ! 

・これは尋常なことではない! 

・尋常なればよしと致す

武士が一般的に使う言葉 

 

新造(しんぞう)

(一)二十歳前後の嫁入り前の娘のこと。

(二)若妻のこと。

(三)下級武士や上流階級の町人の妻女の敬称。

(四)嫁入りに伴い建築される新居のこと。

(五)婿入り婚の場合には新居は妻屋とよばれる。

(六)江戸時代には新入りの遊女のことを新造と呼んだ。

用例

これはご新造様、旦那様には、いつもお世話になっておりますだ。

 

陣僧(じんそう)

(一)戦国時代に合戦の後、戦地で死んだ兵士を回向する役目の僧の事。

(二)軍使として、敵方へ派遣された。(調略の任務も持っていた)

(三)敵方への連絡や文書の作成なども担っていた。

用例

・陣僧をよべ、戦場にて散っていった仲間への回向を命ぜよ。

・あの陣僧に、敵将の城へ差し遣わせて調略させよ。

戦国時代に使われた言葉。

 

新造・御新造・御新造様(しんぞう・ごしんぞう・ごしんぞうさま)

(一)新妻。

(二)若妻。

(三)下級武士の妻女の敬称。

(四)上級の・富裕の町人の若妻の事を言う。

(五)新しく店に出た若い遊女の事。

(六)勤めに出たての若い遊女の事。

用例

・これは御新造様、旦那様には、いつもわしら中間どもがお世話になっております。

 

神妙(しんみょう)

(一)けなげ・殊勝・奇特。

(二)素直・大人しい事。

(三)人の知力を超越した現象・不可思議な事。

用例

・火付盗賊改である、神妙に致せ!

・お主のその神妙なこと殊勝である。

・げに不思議なこともあるものじゃ、神妙な事じゃのう。 

 

陣屋(じんや)

(一)侍の兵が集合している場所・建物・屋敷の事。

(二)地頭の役所の事。

(三)城郭の無い小藩大名のいる場所・屋敷の事。

(四)代官・郡代のいる場所・建物・屋敷の事。

(五)兵の詰所の事。

誰何(すいか)

(一)誰か?と声をかけて、名前を問いただす事。

(二)呼び咎めること。

用例

・闇夜に歩くものがいたので、そやつに向かって誰何致した。そやつに誰何したところ、我が藩の家人(けにん)の権三郎であった。

武士一般が使った言葉。

 

推参(すいさん)

(一)さしでがましい事。

(二)無礼な振る舞いの事。

(三)自分から押しかけて人の家を訪問する事。

(四)押しかけて他家を訪問することを謙遜して言う言葉。

用例

・明日、拙者が推参致しまする。お主の推参は迷惑じゃ。

 

推参者(すいさんもの)

(一)無礼者。

(二)出過ぎ者。

用例

・あやつは御家人の間では、推参者と言われておる。

・あやつはご審議中でもすぐ推参致しおって誠に迷惑な輩じゃ。

武士一般が使う言葉。

 

素寒貧(すかんぴん)

(一)甚だしく貧乏な事。

(二)滅茶苦茶に貧しい事。またはその人。

(三)無一文の事。またはその人。

用例

・何ぃ?酒と肴をよこせだとぉ?襤褸服(ぼろふく)着てるお侍の旦那、素寒貧じゃお話になりませんぜ。

 

数寄者・数奇者・好者(すきしゃ・すきもの)

(一)風流を好む人の事。

(二)特に茶道を好む人の事。茶人の事。

(三)文化・芸術に入れ込む人の事。

(四)色事を好む人の事➡好者(すきもの)

用例

・あの御仁は剣術も達者なれど、実は数奇者での、大茶人武野紹(たけのじょうおう)の直弟子でござる。あの休とは兄弟弟子にたる御仁じゃ。

 

鈴ヶ森(すずがもり)

(一)江戸時代に江戸の東海道筋にあった刑場の名前。

(二)別名「一本松獄門場」とも言った。

(三)現在の品川区の南、東京都品川区南大井二丁目付近にあった。

(四)罪人の磔の準備、槍鉾での槍刺し、遺骸の首の処置、遺体の残骸の処分などは非人の仕事で、頭の松衛門が一切を取り仕切っていた。

 

素破・透波(すっぱ)

(一)戦国大名が野武士・強盗・身体能力にたけた足軽等の家来から選び出し、敵地への先導・索敵・諜報・攪乱・暗殺・城の乗っ取りなどの活動に従事させた。これを素破・透波と言う。

(二)戦国時代の忍者の事。

(三)盗賊・すり・詐欺師の事。

(四)乱波(らっぱ)・突破(とっぱ)事。

(五)男たらし・女たらし・浮気性の人の事。

 

素破抜き(すっぱぬき)

(一)目にも止まらぬ早業で刀を抜いて斬る音を言う言葉。

(二)居合抜きの事。

(三)突然に刀を抜く事。

(四)突然に刀を抜く人の事。

(五)人の秘密を暴く事。

用例

・あやつの素破抜きには驚いたものだ。あっという間に二人を斬り殺しおった。

・居合の遣い手なので、あやつの素破抜きには気を付けろ。

・瓦版屋が藩の勘定方が金を横領している事を素破抜きおった。

 

捨札(すてふだ)

(一)罪人を処刑する時に、街頭に立てる立札・高札の事。

(二)札には、罪人の名前・年齢・罪状などが記してある。

(三)処刑執行後も三十日間は街頭に立てられ、一般庶民に罪人の悪事と罪の応報を示した。

(四)見せしめと、犯罪の抑止の意味もあった。 

 

素肌武者(すはだむしゃ)

(一)戦場などで自分の体を動きやすくするため、または相手を欺き油 断させるために甲冑を脱いだ武者の事。

(二)甲冑を身に着けずに戦場に出る武士の事。貧しくて具足(甲冑)を持てない武士の事。

(三)または、平和な江戸時代の甲冑を身にまとわない、着物を着た武者の事。

用例

・昨夜、戦場の陣中に侍大将が、床机に座っていたところ、陣幕をめくりあげて、十名ほどの素肌武者が襲いかかってきおった。即座に供の者六名で返り討ちにしたわ!

 

図星(ずぼし)

(一)想像の通りである事。

(二)予想の通りである事。

(三)急所・思ったところ・思うところ。

(四)弓術では的の真ん中の黒丸●を星とよぶ。この星を射抜いた事を

 図星と言う。

用例

・この企みの張本人はお主であろう。ふふ…どうじゃ図星であろう。ず…図星で御座る。

・我は日置弾正正次(へきだんじょうまさつぐ)(なり)、敵の大将を射抜く図星は百発百中也(なり)。これぞ我が日置流弓術の業の面(なり)

 

素浪人(すろうにん)

(一)無一文の浪人の事。

(二)財産も家も道具も持たない素寒貧(すかんぴん)の浪人の事。

(三)浪人を馬鹿にした言葉。

用例

・ふん、何だ、素浪人か。

・素浪人ごときが何をほざく。

成敗(せいばい)

(一)こらしめる事・処罰・斬罪に処する事。

(二)さばく事・裁断。

(三)取り計らう事・処置。

(四)政治を行う事・執政。

用例

・この許し難き、佞奸(ねいかん)成敗致してくれるわ!

・この裏切り者めが、成敗してくれるわ!

 

清和源氏(せいわげんじ)

(一)清和天皇(850-881年)の皇子から出て源氏の姓を賜った武士を生業とする氏族の事。

(二)代表的な家紋は笹竜胆(ささりんどう)で他は各源氏の氏族によって 違う。

(三)武士が自分の家系を由緒正しき正統の支配者(武家)として、家の正統性・権威づけのために始祖は清和源氏であったと偽る武士が 多かった。

(四)平家の一族は桓武天皇から出た桓武平氏、文徳天皇から出た文徳平氏、仁明天皇から出た仁明平氏、光孝天皇より出た光孝平氏の四流が有名。

(五)征夷大将軍になるのは、伝統的に清和源氏の系統の武士がなるの

が通例。

 

女衒(ぜげん)

(一)江戸時代、女性を吉原・遊郭・岡場所・売春宿に売る事を職業にした人。

(二)人買いの事。

(三)女衒の衒は、売ると言う意味。

用例

・下人の田中が、貧しさ故にとうとう娘を女衒に売り渡しおったそうだ。

・わしらは、泣く子も黙る女衒様よ。お前ももはやこの苦界からは出られぬものと思え。

 

拙者(せっしゃ)

(一)江戸時代の武士が自分をへりくだって言う言葉。私の事。

用例

・拙者、丸目蔵人(まるめくらんど)と申す浪人者でござる。

 

雪隠(せっちん)

便所・厠・せんち

用例

・催してきた、雪隠へ参る。

・雪隠詰めで、追い詰めて斬れ!

・今宵の雪隠は冷えるのう。

 

是非もない(ぜひもない)

(一)仕方がない・やむおえない

(二)言うまでもない・当然だ

(三)良し悪しにかかわらない・程度が甚だしい

用例

・殿、謀反は明智殿です。左様か…もはや是非に及ばず

・是非もない、当然の事じゃ。

 

詮議(せんぎ)

(一)評議して結論を出す事。

(二)評議して問題を明らかにする事。

(三)犯罪の調査・取調べ。

(四)罪人の捜索・調査。

用例

・その一件は幕法に照らして詮議せねばならぬ。

 

扇子腹(せんすばら・おうぎばら)

江戸時代の太平の時代には、切腹の作法も知らず、実際に腹を斬れるほどの度胸・肝の据わった武士が少なくなった。そこで、扇子を取って腹に当てると同時に介錯(首をはねる)をするようになった。これを扇子腹と言った。

 

先度(せんど)

(一)この間。

(二)先だって。

(三)先頃

用例

・先度はお世話になり申した。

・先度はご病気だったと聞き及んでおります。

奏者・奏者人(そうしゃ・そうじゃ・そうしゃびと・そうじゃびと)

(一)上位の人に取次をする役の人。

(二)奏者人=取次人

(三)天皇に事を奏上する事。

(四)関白・公方へ取次をする役。

(五)奏者番の略。

(六)演奏する人、人々の事。

用例・貴方様が、此度幕府御方より奏者番を拝命された御方で御座りますか。

如何にも、そうじゃ。吾(われ)、奏者人にて候らえ。

 

奏者番(そうしゃばん・そうじゃばん)=奏者役(そうしゃやく・そうじゃやく)

(一)江戸幕府の職名のひとつ

(二)仕事の内容は、年始・五節句・朔望(さくぼう)などの時に、大名や高僧などが将軍に謁見する時、献上する太刀や目録を披露したり、将軍の下賜品を伝達する事など。

(三)大名から選ばれて任ぜられた。

 

奏者所(そうしゃどころ・そうじゃどころ)

(一)奏者人が詰めている所

 

相伝譜代(そうでんふだい)

(一)代々その主家に仕える事。

(二)代々その主家に仕える家来の事。

用例・我が家は代々ここの藩主に仕える相伝譜代での、関ケ原の戦よりも前から仕えて、わしで五代目じゃ。

 

瘡毒(そうどく)

(一)梅毒の事。

(二)当時の話し言葉では「かさ」と言う事が多い。

(三)瘡(かさ)かき=梅毒患者の事。

(四)鼻っ欠け=梅毒の症状が進むと、鼻孔が欠ける。話し言葉の吐く息が鼻に抜けて聞き取りづらくなる。この状態を言う。こうなると梅毒の末期症状である。

(五)遊女に多い病気。症状が進んで店に出られぬ遊女は、奥の粗末な小部屋に移される。死ねば近所の投込寺の墓穴に放り込まれて捨てられていた。 

(六)コロンブスが新大陸を発見し、原住民からうつされた梅毒は、ヨーロッパに渡り、わずか20年で戦国時代に南蛮人から日本に伝わった。

 

惣領・総領(そうりょ・そうりょう)

(一)家督を継ぐべき子の事。

(二) 転じて長男・長女の称。

(三)統(す)べ治める事。

(四)惣領地頭の略。

用例

・はれて胤家(たねいえ)は、父が治めたこの地の惣領となった。

・お前は、将来この家を継ぐ惣領なのだぞ、しっかりとせぬか!

 

(そうろう)

(一)ます。ございます。

(二)居ります。仕える。侍る。

(三)中世の時代には話し言葉で使われていたが、後には手紙文にのみ使われるようなった言葉。

用例

・祝着至極に候(しゅうちゃくしごくにそうろう)

・是れ有間敷候(これあるまじくそうろう)

・奉行所にお伝え可申す仕候。 (奉行所にお伝え申すべくつかまつりそうろう)

武士階級で一般的に使われる言葉・手紙文に使われる言葉。

古文書にみる「候」の慣用句

(一) 御座候(ござそうろう)

(二) 御座候様(ござそうろうよう)

(三) 御座候間(ござそうろうあいだ)

(四) 御座候處(ござそうろうところ)

(五) 御座候得共(ござそうらえども)

(六) 御座候而(ござそうろうて)

(七) 無御座候(ござなくそうろう)

(八) 御座候故(ござそうろうゆえ)

(九) 如此御座候(かくのごとくにござそうろう)

(十) 得御意候(ぎょいをえそうろう)

(十一)御座候得者(ござそうらえば)

(十二)其旨可被相心得候(そのむねあいこころえらるべくそうろう)

(十三)何共申兼候得共(なんとももうしかねそうらえども)

(十四)相成兼候(あいなりかねそうろう)

(十五)一向存不申候(いっこうぞんじもうさずそうろう)

 

雑作(ぞうさ)

(一)手間がかかること。

(二)時間がかかること

(三)費用がかかること。

用例

・何とも、ご雑作をお掛け致す。なんの、雑作もないことよ。

・これは、ご新造様、ご雑作お掛け申す。

 

奏者番(そうしゃばん)

(一)江戸幕府の職名のひとつ、将軍の下につく職。

(二)将軍との取次役。

(三)年始・五節句・朔望などの節目の時に、大名や僧侶などが将軍に

謁見・拝謁する時、名前と献上する太刀や進物と目録を披露し、将軍の下賜品を伝達した者。

(四)大名が任じられた。

(五)二十名~三十名の者が任命された。

(六)江戸城奥詰めの職位。

 

添状・副状(そえじょう)

(一)将軍家・天皇家・大名などがした文書に対してえられた書状。

(二)各々の側近や家来が作成した。

(三)内容は発行された書状の補足・経緯・詳細などが記されていた。

(四)副状があることによって、本物の書状であることが証明できた。

 

素懐(そかい)

(一)普段からの願い。

(二)かねてからの願い。

(三)以前からの希望。

用例

・仇討ちを遂げて、やっと素懐を達し終えたり。

・無事に仕官が叶い、我は素懐を叶い終えり。

・これがわしの素懐じゃ。あ~そうかい。

 

息災(そくさい)

(一)無事である事。

(二)健康である事。

(三)達者である事。

(四)災難がない事。

(五)もともとは仏教用語。仏法の法力で災難を止(や)ませる事。

用例

・おお、母者、お懐かしゅう御座る。息災で御座ったか?

・おぉ、お前も息災で何よりじゃ。母御は達者じゃ。

 

其処な(そこな)

(一)そこにいる。

(二)そこの。

(三)そこなるの略。

(四)相手を蔑んで呼ぶ言葉。

(五)其処な者→そこにいる者

用例

・其処な町人、ちと聞きたきことがある。

・其処な者、何を致しておる。 

 

其許・其処許(そこもと)

(一)そなた・そのもと

(二)そのところ・そこ

用例

・拙者は会津藩徒目付加地と申す、そこもとは何と申されるか?

・誰かと思えば、そこもとか。懐かしいのぉ。

 

其方(そち)

(一)目上の者が、目下の相手を指す言葉。

(二)それ・そっち・そちら・其方(そなた)・汝(なんじ)・おまえ。

用例

・「そちは、この頃先代の父にまた似てきおったのう」

・「良きに計らえ、そちに任せたぞ」

 

素首・外頸(そっくび・そくび)

人の首を卑しめて馬鹿にして言う言葉。

用例・下郎っ!ここへお前の素っ首を出せ、今ここでたたっ斬ってや

るわ!

・これがあやつの素っ頸か…この獄門台がお似合いじゃ。

 

率爾ながら(そつじながら)

(一)突然で失礼ではあるが。

(二)にわかな様。軽率な様

用例

・卒爾ながら、藤堂藩の蒼月殿ではござらぬか?

・明日の殿のご出立も、あまりに卒爾に存ずる。

 

袖の下(そでのした)

(一)内緒で物や金品をもらい、または贈る事。

(二)袖の下部袖の下から密かに贈る事。

(三)賄賂・贈り物。

(四)心付けの金品の事。

用例

・あの下っ端侍には、袖の下を効かせれば万事うまく行く。

・ご家老様にはいつもの袖の下を・な。

・袖の下って?生憎俺の袖の下もからっけつ!ない袖はふれないってやつさ。

 

素読吟味(そどくぎんみ)学問吟味(がくもんぎんみ)

(一)江戸時代の江戸の侍は、十二歳になると湯島聖堂附属の学問所で試験を受けなければならなかった。

(二)素読とは、漢文の文字を声を出して読む事。侍の子供は、大体七歳から十歳までには素読を終えた。

(三)素読の内容は「四書五経」と「小学」だった。

(四)毎年、一年に一回実施された。

(五)国家試験同等「学問吟味」にも合格しなければならなかった

(六)「学問吟味」は三年に一度にあった。

(七)この二つに合格すると「番入り」として一人前の侍としての資格が許されたのである。 

(八)「番入り」とは武士のエリートコース「小姓組」「書院番」「新番」「大番」「勘定方」「右筆」「納戸方」などの武官としての番方すなわち番士になることである。

(九) この二つに合格しなければ、家柄がいかに良くても家督相続が出来なかった。

(十)この二つに合格して、十六歳位で元服すれば、やっと世間的に侍として一人前とみなされる

 

其方(そなた・そのほう)

(一)目下の相手に対して、やや丁寧に指す言葉。

(二)「それ」と指せる方向そちらの側。

用例

・そなた、名を何と言う。

・そのほうもご苦労であった。

武士が、目下の者に対して、やや丁寧に言う言葉。 

 

側衆・御側衆(そばしゅう・おそばしゅう)

(一)江戸幕府の職名のひとつ、将軍側近の重職。

(二)将軍の次室に宿直勤務し、老中に代って夜間の諸務を決済し、上

申した。

(三)将軍と老中以下、諸役人との取次役を行った。

(四)小姓・小納戸の進退や、中奥経費の事なども監督した。

(五)五名~八名の者が任命された。

(六)役高は五千石。

(七)老中に次ぐ・または同等の職位。

 

側用人・御側用人・御側御用人

(そばようにん・おそばようにん・おそばごようにん)

(一)江戸幕府の職名の一つ。

(二)譜代の大名で一名のみが任命された。近習出頭人より選ばれる。

(三)職位は老中に準じるが、職権は老中よりも上。

(四)幕府の裁判所、評定所にも関わり、その影響力は大きかった。

(五)五代将軍徳川綱吉が初めて幕内に設置した。

(六)側衆(五~八名)の監督、老中・若年寄の伺候を、将軍に取り次いだり下達したりした。

(七)将軍の一番近くに近侍するので、将軍の信頼・愛顧も厚い。それを背景に絶大な権力をふるった。

用例

・打ちたて・湯でたて蕎麦よりも、わたしゃあなたの側(そば)いい。 

 

空言・虚言(そらごと)

(一)真実でない言葉

(二)うそ

用例

・あやつは、空言ばかり言いおるわい。

・そのような空言は聞く耳もたぬわ。

 

空騒(そらさわぎ)

(一)そらぞらしく騒ぐ事。

(二)から騒ぎの事。

用例

・拙者の意見で、評定所では回りの者がざわざわと空騒ぎじゃ。

・各々方、空騒ぎは止(よ)していただこう。

 

空証文(そらしょうもん)

うその証文

用例

・あやつは千に三つしか本当の事を言わぬ「千三つ」と言われている嘘つきが作った証文よ、空証文に間違いないわ。

・実際の取引の事実がないにも関わらず、このような証文があるという事は、これは空証文という事じゃ。

 

空言人・虚言人(そらびと)

(一)うそを言う人。

(二)うそつき

用例

・あやつは空言人(そらびと)じゃ、誰も相手にせぬわ。

・あやつの言うことは千にひとつも本当がない虚言人じゃ。

 

(それがし)

(一)私を指して言う言葉。

(二)名の知れぬ人・物事を指す。

(三)自分の名を上げずに自分を指す場合に用いる。

用例

・某(それがし)は、念流の剣術をば少々使いおる者でござる。

・其れがしは、ただの浪人じゃ。名乗る程の者ではござらん。

武士社会で中流階級から下の武士が使った言葉。

 

存ずる(ぞんずる)

(一)「思う」の謙譲語。

(二)「考える」の謙譲語。

(三)「知る」の謙譲語。

用例

・拙者は故(ゆえ)あって、旅に出ようと存ずる。

・今は評定所の沙汰を待つがよいと存ずる。

・そのことならば、すでに存じておる。 

 

存念(ぞんねん)

(一)執心。

(二)恨み・怨み。

(三)心に在して忘れぬ事。

(四)思っている事。

(五)存じより。

(六)考え

用例

・あやつは、かねてからの存念により、このわしを襲撃したのじゃ。

・人の存念とは恐ろしいものよのう。

代官(だいかん)

(一)幕府の職制のひとつ。

(二)江戸幕府の役人。

(三)幕府直轄地(天領)を支配し、年貢の徴収や土地の民政を行った。

(四)大名などの主君に代わりに、支配地に赴き、年貢の取り立てや政

を司った。

用例

・拙者、日置藩代官、錦軍大夫(にしきぐんだゆう)で御座る。 

・あれが泣く子も黙るお代官様じゃ

 

大儀(たいぎ)

(一)疲れる事。しんどい事

(二)面倒くさい事。

(三)骨の折れる事。

(四)他人の働きや苦労を慰労する言葉。

用例

・此度(こたび)の江戸表への役儀、大儀であった。

・此度の役目は大儀な事よのう、えらい難儀な事じゃ。

 

大名屋敷(だいみょうやしき)

(一)大名屋敷は以下の五つに分類される。

 上屋敷・中屋敷・下屋敷・抱屋敷・拝領屋敷。

(二)上屋敷(かみやしき)

・藩主(殿様)が江戸城への登城に便利なように、西の丸下や丸の内に建てられた。

・上屋敷には、大名やその正妻、その子女などが住んでいた。

・他には、参勤交代などで共をした藩士の長屋が周囲に巡らされていた。

(三)中屋敷(なかやしき)

・江戸城の外堀の内側に建てられた屋敷。

・上屋敷が火事などで、機能しなくなった時に、替わりに使うためにあった。

・中屋敷には、上屋敷の補助的な役割があった。

・ここには跡継ぎの長男や隠居した前藩主や未亡人が住んでいた。

(四)下屋敷(しもやしき)

・主に郊外に建てられた屋敷。

・主に別荘として使われた。

・江戸の大火などで上屋敷・中屋敷が燃えてしまい大名屋敷として機能しなくなった場合の避難場所でもあった。

・物資の倉庫、国元の特産物などを備蓄する役目もあった。

・隅田川や海沿いに建てられた下屋敷は別名「蔵屋敷」とも言われ、国元から送られた米・特産品・荷揚げ・貯蔵・売買取引のための物流拠点とされた。

(五)抱屋敷(かかえやしき)

・郊外の土地を百姓から買い取り下屋敷と同等の扱いをした。蔵屋敷でもあり、隣接した土地には広大な農地があり、食糧生産もしていた。

・大名屋敷には中間などが長屋に住んでいて、夜は博打場となっていた。

(六)拝領屋敷(はいりょうやしき)

・幕府から大名に与えられた屋敷地で、売買は出来ないが大名同士の交換ができた。

 

大老(たいろう)

(一)将軍の補佐と幕政全般を統括する。

(二)幕府最上位の職。

(三)幕政の非常時において老中の上位に一人置かれた。

(四)豊臣時代にも五奉行の上に一人置かれた。

(五)世間から尊敬をもって呼ばれた老賢者の呼称。

 

襷掛(たすきがけ)

(一)着物の袖をたくし上げ、紐・縄・長い布などで、背中に斜め十字に掛け、前横胸で結び固定する結び方の事。

(二)輪の布や縄・紐などを肩から脇腹に掛ける事。

(三)侍が仕事や剣術の稽古・試合などに、着物の袖が邪魔にならぬように襷掛けをした。

 

踏鞴を踏む(たたらをふむ)

(一)製鉄の炉に空気を送る鞴(ふいご)の事。

(二)踏鞴を踏んで空気を送る事。

(三)和製の製鉄所の事を踏鞴(たたら)と呼ぶ。

(四)敵に勢い込んで斬り込んだが、勢い余って空足(からあし)を踏む事。

用例

・昨日の御前試合では、勢い余って踏鞴をふんでしもうての、振り返ったとたんに袈裟で打たれてしもうたわ。

 

達者(たっしゃ)

(一)身体が丈夫な事。

(二)身体が健康な事。

(三)その道に熟達している事。

(四)物事に熟達した達人の事。

(五)歩くことに熟達した人。

(六)抜け目のないしたたか者。

用例

・おぉ兄者、久しく会わぬ間、達者で御座ったか。

・刀の拵えの修繕なら、修繕に達者なあやつに任せればよいわ。

 

頼もう(たのもう)

(一)他の家を訪問した時に言う言葉。

(二)他家の訪問時に案内を乞う時の言葉。

用例

・頼もう!どなたか御座らぬか?

・頼もう!拙者、柳生兵庫之介で御座る。頼もう!

・頼もう!上泉秀綱(かみいずみひでつな)が参った、頼もう!

・「頼みましょう!沢庵宗彭禅師(たくあんそうほうぜんじ)はおいでになられましょうや」

どうれ、拙僧が沢庵じゃ。そなたは雲水じゃの。どなたか存ぜぬが、如何なる用件で参られたか」

「弟子にして頂とう存じまする、禅師の御高名を聞き遠州よりはるばる参りました」 

 

謀事(たばかりごと・はかりごと)

(一)謀(はかりごと)

(二)謀略。

(三)計略。

用例

・御屋形様、騙されてはなりませぬ、これは黒田官兵衛の謀事ですぞ!

 

謀状(たばかりじょう / はかりじょう)

(一)敵を騙すために作られた偽の書状。

(二)敵を陥れるための偽の書状。

用例

・御屋形様、これは筑前羽柴殿の軍師、竹中半兵衛の手による謀状ですぞ!

 

謀勢(たばかりぜい)

敵の軍勢を欺くために、おびき出す事が目的の軍勢の事。

用例

・うぬっ、抜かったわ、あの軍勢は我らをおびき出すための謀勢であったか。

・しまった!あの軍勢を追って来たが、本陣の兵を分断させられてしもうたわ!あれは謀勢であったか!

 

謀る(たばかる・はかる)

(一)謀って騙す事。

(二)考える事。思案する事。

(三)謀計の事。

用例

・我が軍がいつの間にか敵に囲まれておる、ううむ謀られたか!

・目付の奴、このわしを謀りおって、許せぬ!

 

段平・段平物・段平広(だびら・だんびら・だんびらもの・だびらひろ)

(一)刀身の幅の広い刀の事。

(二)大きい物・太い物・幅の広い物を斬るのに適している。

用例 

・あやつのでかい体で振り回す段平は恐ろしいの何のって…鬼人もひしぐってぇ有様よぉ。

 

偶・適(たまさか)

(一)思いがけない事・様子。

(二)たまたま・偶然に。

(三)滅多にない事・稀(まれ)な事。

用例

・先度、そこの供応橋のたもとで、郷里の幼馴染に偶さか出会うてのう。橋のたもとの茶店で語り会うてきたところじゃ。

・竹藪でこのような大金を拾うとは、まったく偶さかな事じゃ。

 

誰かある(たれかある)

用事や危急の時に、配下の者を呼びつける言葉

用例

・「たれかある、曲者じゃ。出会え、出会え!」

・「たれかある、平九郎はおらぬか。急ぎ平九郎を呼べ」

 

戯け(たわけ)

(一)ふざける事。

(二)おどける事。

(三)戯(たわむ)れる事。

(四)馬鹿をする事。

(五)愚かな事をする事。

(六)この「戯け」は百姓の「田分け」からきていると言う説もある。田の領地の争いからきているそうだ。

用例

・戯けっ!何をしておるか。

・戯けっ、武士の法度を知らぬのか!愚か者めが。

 

戯者(たわけもの)

(一)愚か者。

(二)馬鹿者。

(三)痴者(しれもの)

(四)戯けた者。

用例

・この戯者っ!ご家老の御前で何を戯けた事を申すか!

 

戯れ(たわむれ)

(一)遊びに興ずること。

(二)遊戯

(三)おどけること。

(四)浮気をすること。

(五)いたずらをすること。

(六)戯口(たわむれくち)→冗談や戯言のこと。戯れて言う言葉。

用例

・あれ、お殿様何をなされます。お戯れを‥‥。

 

箪食(たんし)

(一)竹製の器に入れた飯のこと。

(二)竹製の弁当箱のこと。

 

短筒(たんづつ)

(一)ピストルの事。

(二)戦国時代の真田幸村も馬上からの短筒で、家康を絶命間際まで追い詰めた。

(三)幕末に至っては欧米から輸入された短銃(ピストル)が使われていた。龍馬も寺田屋で幕吏(ばくり)に急襲された時、懐にあった短筒(ピストル)で難を逃れている。

知行(ちぎょう)

(一)土地を支配する事、またはその土地。

(二)領地の事。

(三)江戸時代、将軍や大名から分け与えられた土地の呼称。

(四)一万石以下の武士が与えられた土地の事。

(五)旗本の領地の事。知行所の事。

用例

・あのお方は知行五千石の旗本、西部近江守様じゃ。

 

知行高(ちぎょうだか)

(一)初めは領有地の面積の事。

(二)江戸時代に入って、領有地の米の生産高の事を言った。

(三)知行米に同じ。

 

逐電(ちくてん・ちくでん)

(一)行方をくらませて逃げる事。

(二)迅速に行動するさま。

(三)稲妻を追いかけるという意味もある。

用例

・あやつ、身の危険を察して、逐電いたしよった!

 

致仕(ちじ・ちし)

(一)官職を辞める事。

(二)退職する事。

(三)辞職する事。

(四)七十歳の別称。

(五)昔の中国で七十歳を過ぎると退官を許された事からきた言葉。

用例

・公卿鷹司様のお屋敷にて長らく勤めて参りましたが、此度お許しを頂き致仕致す事に相成りまして御座います。

 

馳走(ちそう)

(一)走り回る事。

(二)駆け回る事。

(三)あちこち奔走する事。

(四)馬を疾駆させて馳せ参じる事。

(五)御馳走の事。

(六)食事を振る舞う事。

(七)おもてなしをする事。

用例

・此度(こたび)の丹波平定のため、その支度には馳走なされる事、是れ肝要なり。

・上様御入洛にありては各家来衆馳走なされ、ぬかりなく差配なされよ。

 

蟄居(ちっきょ)

(一)家に籠って外出せぬ事。

(二)江戸時代に公家・武士に科した刑罰のひとつ。

(三)虫が地中にこもっていること。

用例

・堀川殿が閉門蟄居を申し渡されたぞ! 

・その方等の罪過は明白じゃ、よって閉門蟄居を申し渡す!

 

些と(ちと)

(一)少しの事。

(二)いささか・ちょっと。

(三)しばらく・暫時。

用例

・うむ、ちと野暮用でな、そこまで参る。

・おお、助左衛門、ちと聞きたき事がある。近こう寄れ。

 

嫡子(ちゃくし)

(一)正室が生んだ男子で、最も年長の長男の事。

(二)嫡男とも呼ぶ。

(三)家督を相続する権利を有する。

用例

・あの若い侍が、片桐家の嫡子昌行殿じゃ。

 

着到(ちゃくとう)

(一)その場に軍勢が到着する事。

(二)戦の出陣の命令に応じて軍勢が到着したことを書き記す事。

(三)着到状の事。

用例

・三河より徳川殿騎馬隊五百騎只今着到致しまして御座います。

・小早川殿軍勢二千着到、(着到状へ)御印宜しく候。

戦国時代の軍事用語。

 

茶の湯(ちゃのゆ)

(一)茶道の事。

(二)茶会の事。茶の会(え)の事。

(三)亭主が客を招いて抹茶をたててもてなす事を言う。

(四)茶の湯は戦国時代より武士の重要な教養であり文化であった。

(五)侍には表芸(武芸十八般等の武芸)と裏芸(茶の湯・生花・画・書・

和歌・連歌等の芸術)があった。

(六)茶の湯は器(陶芸)・道具(工芸)・書・画・生花・庭園・礼法・茶室

の建築など日本文化の総合体・総合芸術でもあった。

(七)茶室は密室であったが故に密談に適していた。そこでは茶人である、博多や堺の豪商達の商談・ビジネスの場であった。また戦国武将達にとっても軍略・謀略の密談場所でもあった。

(八)切支丹伴天連(イエズス会)達も、貿易・布教・ヒューミントの場として、茶の湯に親しんでいた。そのせいか、千利休の弟子(利休七哲=戦国武将)には、切支丹信者が数多くいた。鉄砲の火薬や硝石や鉛などの取引には、切支丹伴天連を通じて行われるので、戦国武将達も切支丹になったほうが都合がよいからである。

(九)茶の湯は室町時代に始まり、茶道の各流派は、戦国時代に村田珠光・能阿弥・武野紹鴎・千利休などが創始者となり各流派を作り上げて現在に至っている。

 

忠義(ちゅうぎ)

(一)国や主君に対して、真をつくして仕える事。

(二)幕府や藩主に対して忠誠を尽くして仕える事。

 

忠義顔(ちゅうぎがお)

(一)忠節・忠誠を尽くしているように見せかけた顔の事。

 

忠義立(ちゅうぎだて)

(一)忠誠を尽くし通す事。

(二)わざと忠節を尽くしているような顔・そぶりを見せる事。

 

中間・仲間(ちゅうげん)

(一)武士に付き従う雑卒

(二)武家の召使

(三)侍(士分)と小者(平民)の中間に位置する者

(四)役目としては、槍持ち・草履取り・挟箱持ち・長持ち運び、馬の口取りなどの雑用係である。

用例

・あの渡り中間なら何か外の事を知っているやも知れぬ。

・たれか中間を呼べ。来栖殿(くるすどの)に文を届けさせよ。

 

中食(ちゅうじき)

(一)昼飯の事。

(二)中食の事。

(三)午餐の事。

用例

・やっと峠を越えたところじゃ、一休みついでに中食と致そう。

 

重畳(ちょうじょう)

(一)幾重にも重なる事

(二)とても好都合な事

(三)この上もなく満足な事

用例

・なるほど、そうか、それは重畳! 

・ご苦労だった、わしは重畳の気分じゃ!

 

手水場(ちょうずば)

(一)便所・はばかり・厠(かわや)の事。

(二)便所の傍らにある、手洗場。

用例

・今から手水場に参るとて、今の話はその後じゃ。

・ううっ、今宵(こよい)は冷えるのぉ、手水場の水も冷たいわ。

 

打擲(ちょうちゃく)

(一)殴る事。

(二)棒・鞭・竹などで打ち叩く事。

(三)足蹴にする事。

(四)殴る・蹴るの事。

用例

・まだ懲りぬと見えるな、おい、この者をさらに打擲致せ。

・上役とはいえ、衆の面前で我が面体(めんてい)を打擲いたしおって、えぇ、腹が立つ。 

 

調略(ちょうりゃく)

(一)策略をめぐらす事。

(二)敵対する城主を説得して味方に寝返らせる事。

(三)城主を説得して、城を明け渡すように仕向ける事。

(四)敵対する城主の家臣を寝返らせて、内側から落城させる事。

(五)敵対する敵の同盟国の城主をたくみに騙して味方に引き入れる事。

(六)策略・調儀の事。

用例

・安国寺恵瓊(あんこくじえけい)よ、調略をもって、あの城を落としてまいれ。

・調略で、城内の家臣と内通しておるゆえ、城内の事は丸分かりじゃ。

戦国時代の軍事用語。

 

勅諚(ちょくじょう)

(一)天皇の命令。

(二)天皇の詔(みことのり)

(三)勅命のこと。

用例

・細川藤孝の居城、田辺城の包囲網を今すぐに解くようにとの天子様の勅諚が下ったとのこと。城の陥落はもうすぐと申すに‥。石田三成治部少補殿、如何なされるや。

 

猪口才な(ちょこざいな)

(一)小生意気な事

(二)差し出がましい事

用例

・なんだこの餓鬼(がき)!ちょこざいな!

・下郎の分際でちょこざいな!

・餓鬼が酒をお猪口(おちょこ)で飲むとは猪口才(ちょこざい)な!

費・幣・潰(ついえ)

(一)費用のこと。

(二)人件費のこと。

(三)疲れ果てて弱ること。

(四)疲れ果てて苦しむこと。

 

通名(つうめい・とおりな)

(一)一般に通じる名前・名称。

(二)仮名(けみょう)の事。

(三)官位は律令制度に基づき朝廷が与えた官位である。近江守・丹波守・長門守・備前守など。

(四)江戸時代は幕府が官名を出し管理した。 

 

使番(つかいばん)

(一)戦国時代(安土桃山時代)

①戦時の戦場での各部隊に伝令を行った。

②戦場の各部隊を巡察した。

③別動隊の支援や攻撃方面の変更、陣立ての変更などを伝えた。

④戦国時代の使番は母衣武者(ほろむしゃ)であることが多かった。

⑤進撃の時は、押太鼓(おしだいこ)を打ち鳴らしたり、ほら貝による押貝(おしがい)を吹いたりした。

⑥退却の時は、退太鼓(のきだいこ)を打ち鳴らしたり、ほら貝による退貝(のきがい)を吹いたりした。これらは、各戦国大名の軍隊によって鳴らし方・吹き方が違っていた。

(二)江戸時代

①江戸幕府の職名の一つ。

②若年寄の配下。

③戦陣では命令や伝令を伝えた。

④通常は諸国を巡察し、遠国役人を監察した。

⑤将軍の代替わりには、諸国大名の状況を視察した。

⑥将軍家の大奥の女中の職名。

⑦使走りの事。

⑧二十八名任命、役高一千石 。

 

仕る(つかまつる)

(一)やります、致しますの丁寧語

(二)ツカエマツルの転語

用例

・委細承知仕った。 

・当方、改めて後日参上仕ります。

武士階級で下のものが、上の武士に対して使う言葉。

 

月の異名(つきのいみょう・江戸時代の月の異名)

 

遣わす・使わす(つかわす)

(一)お使いになる・お召になる。

(二)ご派遣になる。お遣りになる。

(三)お与えになる・賜う。

(四)行かせる・他へ遣る。

(五)尊大な気持ちを込めて相手に言う言葉。

用例

・この伝家の宝刀をそちに遣わす。

・評定所の使いの者を遣わす。

 武士階級で上位の者が下の者に使う言葉。

 

辻斬り(つじぎり)

(一)武士が道端で人を斬る事。

(二)刀剣の切れ味を試すために人を斬る事。

(三)剣術の錬磨・向上のために人を斬る事。

(四)金銭を奪うために人を斬る事。強盗殺人。

(五)待ち伏せて暗殺目的に人を斬る事。

(六)辻とは、四辻(道路が四つに交差している所)・道端・道筋・ちまたの事。

用例

・昨夜、また辻斬りで町人が一人殺されたそうな、江戸の町も物騒になりましたなぁ。

・TVの「水戸黄門」で有名な水戸光圀は、辻斬りで有名な人物。若い頃、新刀を手に入れると夜陰にまぎれて辻斬りをしていたと記録にある。その数はおよそ50人。お抱え医師の証言記録が今に残っている。

 

詰腹(つめばら)

(一)他人から強制されて切腹をさせられる事。

(二)強制的に辞職させられる事。

(三)強制的に解雇させられる事。

用例

・あやつ、この事件の責任を問われて、ご家老より詰腹を切らされおった。

・この事案の収拾を急ぐため、只埜殿は藩から急ぎ詰腹を切らされたのじゃ。

手討ち・手打ち(てうち)

(一)武士が自分の家来や百姓・町人など目下の者を自らの手で斬る事。

(二)素手で相手を撃ち殺す事。

(三)取引・和解が成立したしるしに、双方が揃って両手を打ち鳴らす 事。

(四)手をしめる事。手打ち式。

(五)うどん・そば・麺を機械にかけずに自ら手で打って麺を作る事。

用例

・無礼者!手討ちにしてくれるわ!

・拙者の手製の手打ちうろんじゃ、遠慮なく食べてくれ。

  

手下(てか)

(一)配下

(二)てした

用例

・捕物じゃ、手下の者三十名ほどを差し向け盗賊どもを捕らえ

・手下の若党ども五人を討手に差し向けましょう。

中級より下の武士が使った言葉。盗賊改方・同心・与力など。

 

敵色(てきいろ)

(一)敵の状況。

(二)敵の状態。

(三)敵の様子。

 

手籠め(てごめ)

(一)力づくや暴力で相手の身体の自由を奪う事。

(二)力づくや暴力で女性を犯す事。

(三)ひどい目、痛い目にあわす事。

 

手勢(てぜい)

(一)配下の兵卒。

(二)手下の軍勢。

用例

「立花宗茂殿の軍勢は如何致したか!?」

「我が方の陣立てを無視して、手勢五十騎を引き連れ、敵の軍勢の背後に回り込んで、敵方を斬り崩して御座います!」

 

手練(てだれ・しゅれん)

(一)熟練した腕・技を持つこと。またはその人。

(二)剣術などで相当な腕前をもつ事、またはその人。

用例

・このほとけさんの斬り口、相手は相当な手練じゃ。

・あやつの太刀筋を見ると、相当な手練だ。

 

鉄火(てっか)

(一)戦国時代に罪科の有る無しを問いただすために、真っ赤に焼けた灼熱の鉄棒を握らせる事。

(二)握らせた熱鉄を灼熱に耐えられずに投げ捨てた者を有罪とした。←「甲陽軍鑑にあり」

(三)真っ赤に熱した焼金(やきがね)の事。

(四)刀剣(鉄)と鉄砲(火)の事。

 

鉄火場(てっかば)

(一)博打場の事。

(二)博打打ちが集まる場所の事。

 

手甲(てこう・てっこう)

(一)布や革で作られた、手の甲を覆うもの。

(二)労働用・武具用・旅用などの用途に用いられた。

(三)手甲の先の紐の輪は中指に通して固定する。

用例

・旅装束に手甲脚絆は不可欠じゃ。

・この甲冑の手甲は、特に厚く鍛造して造った誂物(あつらえもの)じゃ。

 

父・父御(てて・ちち・とと・ててご・ちちご)

(一)他人の父親の尊敬語

(二)他人の父親を言う言葉。

用例

・迷子の童(わらはべ)ではないか、この祭りの人込みで、迷子になったと見ゆる。さて、この子の父御(ててご)母御(ははご)は何処じゃいの?

 

伝書(でんしょ)

(一)剣術家が剣術の奥儀や兵法の知識・技術を一子相伝で伝えた文書(もんじょ)。

(二)兵法家が戦術の考え方や技術を伝えた書物・文書(もんじょ)。

(二)その家に代々伝わる書物や文書。

(三)書状を伝える事。

(四)書や文書を伝える人→伝書使。

(五)鳩の帰巣本能を利用した伝書→伝書鳩。

 

天神差し(てんじんざし)

(一)打刀を逆に差す事。

(二)打刀は普通は刃(やいば)を上にして差すが、天神差しはその逆。

(三)乗馬の時、刀の鞘じりが馬に当たり刺激するので、鞘じりが当た

らないように逆にする。

(四)床に刀の鞘の鐺(こじり)が当たらないようにするためにもする。

(五)初太刀を逆袈裟斬りにする時にも、一瞬のうちに鞘を180度回転

させ、天神差しの状態から抜刀する。

用例

・ご同輩、馬上では、刀は天神差しがよう御座るぞ。

馬に乗る侍が使う言葉。

 

天誅(てんちゅう)

(一)天罰の事。

(二)天が下す誅罰の事。

(三)天に代って誅罰する事。

用例

・天子様(天皇)に仇なす、佐幕派の者共に天誅を下す!

・藩の御用金を横領したる家老一派に天誅を下す! 

 

殿中(でんちゅう・てんちゅう)

(一)御殿の中。

(二)将軍が居る場所・城・御殿・屋敷の事。

(三)殿中羽織の略。木綿の袖なし羽織の事。

用例・浅野内匠頭殿、殿中での抜刀は法度で御座る、お止め下され、浅野殿! 殿中で御座るぅ~!

 

転封(てんぽう)

(一)大名の領地を他の土地へ移し替える事。

(二)国替え(くにかえ)の事。

(三)移封(いふう)の事。

用例

・豊臣方の大名は、関ケ原の役のあと領地を召し上げられ、遠方の僻地に転封された。

 

伝馬(てんま)

(一)通信用の馬の事。

(二)各宿駅に五頭ほどの馬を常備しておき、幕府・各大名の公用の為

の通信・公用・輸送などに使用した。

 

伝馬送(てんまおくり)

宿送りから次の宿送りと次々に馬を送る事。宿送り・駅伝。

 

伝馬所(てんましょ・てんまじょ)

宿駅の詰め所・問屋場。幕府や各大名が街道の各宿場に設けていた。

 

伝馬金(てんまきん)

(一)通信費の事。

(二)伝馬所や人員・馬の維持費などの事。

 

伝馬役(てんまやく)

幕府御用(公用)のための旅行をする者のために、人・馬・宿・川越の準備などの仕事をする人の事。役人。

 

伝馬船(てんません・てんまぶね)

荷物を運ぶのを専門とした船。幅広く扁平。艀舟。帆(ほ)はなく櫂(かい)または櫓(ろ)で漕いで進む。

 

典薬(てんやく)

(一)御殿医者の略。

(二)朝廷や幕府で医薬を担当した者の呼称。

(三)薬司の次官の事。

 

天領(てんりょう)

(一)天皇直轄の領地。

(二)幕府直轄の領地。

用例・ここからは天領である。我等も代官所に出向き、代官にお目通り願い、挨拶をして参らねばならぬ。

・拙者、天領地代官、冨樫帯刀(とがし たてわき)で御座る。

同心(どうしん)

(一)江戸時代、与力の下で働いた下級役人の事。

(二)警察業務や庶務の役割を担った。

(三)江戸幕府の所司代・城代・大番頭・書院頭など諸奉行の配下にあって働いた。

(四)鎌倉時代・戦国時代にあっては武家に付き従った歩卒(ほそつ)の事

(五)上司の与力とは違い袴は着用できず、上着に羽織を着用し、下は着流し姿で活動した。突然に幕府上層部や将軍の前に出るような場合にも「御成先御免」(おなりさきごめん)の特権でこの格好が許されていた

(六)二本の刀を差し、捕手用の朱房付きの十手を帯に差していた。

 

痘瘡(とうそう)

(一)天然痘の事。

(二)日本では古くからあった疫病。

(三)病気の後には、菊石=痘痕(あばた)が顔にできる。

(四)痘瘡あとの顔を痘痕面(あばたづら)と言う。

(五)来日した外国人や幕末のペリー提督などが、日本人(侍)にはあばた面した人々が沢山いたことを記録に残している。

(六)今は世界中で感染撲滅に成功した感染症となり、現在、天然痘は過去のものとなっている。

 

道中(どうちゅう)

(一)道の途中・道の半ば。

(二)旅や旅行の事。

(三)吉原遊郭の花魁道中(おいらんどうちゅう)の事。各有名遊郭では毎月定例の日に、花魁・遊女が盛装して郭内を練り歩く事。

 

道中駕籠(どうちゅうかご)

金銭をもらって街道筋で客を乗せる駕籠の事。

 

道中差・道中脇差(どうちゅうさし・どうちゅうわきざし)

(一)庶民が道中(旅行中)の護身用として差した脇差の事。

(二)武士が差す脇差と同等の長さだった。

 

同朋(童坊)・同朋衆(どうほう/どうぼう・どうほうしゅう/どうぼうしゅう)

(一)江戸幕府の職名のひとつ。若年寄の配下に属する。

(二)江戸城で働く坊主集団の事。

(三)同朋頭のもとに、同朋・表坊主・奥坊主などを管理した。

(四)江戸城中での大名の案内・更衣・刀剣の預かり受け渡し・お茶や弁当の配膳の世話などをした。

(五)幕府公文書の関係する諸役人などへの伝達もした。

(六)将軍の外出には長刀(薙刀)をもって付き従った。

(七)法体(ほったい=仏門に入り剃髪・墨衣を着た僧侶の体をした者)で名称は何々阿弥と称した。(道阿弥・光阿弥など)

(八)同朋頭は頭であると同時に同朋衆の一員であった。二百俵高。

(九)坊主衆には、他に「奥坊主」「表坊主」「数寄屋坊主」「紅葉山坊主」などの役職がある。

 

唐丸篭とうまるかご)

(一)長鳴鶏(ながなきどり)の一種で天然記念物)を飼う円筒形の鶏籠の事。

(二)罪人の護送に使われた、竹製の網籠の事。

(三)唐丸(長鳴鶏)の籠に似ているからそう呼ばれる。

(四)役人・徒卒などが付き添って牢屋敷・奉行所まで護送した。

用例

・あれは藩に謀反を働いた下士じゃ、唐丸篭に乗せられて奉行所行きじゃ。

 

唐丸破り(とうまるやぶり)

(一)唐丸破りの罪人が、籠を破って逃げる事、脱走する事。

(二)唐丸籠を破って、罪人を逃がす事。

(三)唐丸籠を破って、罪人を逃がした人。

用例

・おのれっ!唐丸破りじゃ!逃がすな、追えっ追えっ!

 

胴乱(どうらん)

(一)革製・布製の方形型の袋・箱で、小物・薬・煙草・銭などを入れ  た容器の事。腰に提げる

(二)元々は、銃丸を入れる袋・箱であった。

用例

・腹痛じゃ、胴乱の中の薬を出して飲んでみよう。

何?縫針が必要とな?おお、確か胴乱に入れておいた物がある。

 

遠侍(とおさぶらい・とおさむらい)

(一)武家の建物の遠く、端にある中門・玄関などに設けられた武士の詰所の事。

(二)警備や訪問客の取次などの当番をしていた武士の事。

(三)別名、外侍とも言う。

(四)来訪した大名などの控えの間の事。

(五)京都二条城には遠侍一の間・二の間・三の間・若松の間・勅使の間などの遠侍(控えの間)がある。

 

咎・科(とが)

(一)失敗・過失・あやまちの事。

(二)咎めるべき行為・行動の事。

(三)避難されるべき欠点・短所の事。

(四) 罪になる行為。

(五)犯した罪に対する罰・処罰の事。

用例

・これ以上、罪咎を重ねてはならぬ。

 

咎人・科人(とがにん)

(一)罪人

(二)罪を犯した人

(三)とがのある人

用例・咎人は金山の金山衆送りじゃ。死ぬまで地の底からは出られぬ

ぞ。

・腕に一本筋の刺青が・・・お主、咎人じゃな?

 

鬨の声(ときのこえ)

(一)大勢の人間が一度にどっと揚げる声の事。

(二)戦いの始めに全軍で発する声の合図。

(三)味方の全軍の士気を鼓舞するための軍勢の声。

(四)敵に向かって戦の開始の合図を示す声。

(五)鬨を作り出す声。

(六)通例、侍大将が「えい!えい!」と掛け声をし、次にその他大勢の家来が「おぉ~!」と応えるようになっている。

(七)別名「鯨波」とも言う。

 

得心(とくしん)

(一)充分に納得する事。

(二)充分に承知する事。

(三)充分に理解する事。

用例

・これはそう言うことじゃ、どうじゃ得心がいったか?

・ご家老様の申された事、拙者、重ねて得心した次第で御座る

 

得心ずく(とくしんずく)

双方が納得した上でやる事・行う事。

 

土左衛門(どざえもん)

(一)溺死人の遺体

(二)江戸時代の享保の頃、江戸の力士で成瀬川土左衛門(なるせがわ どざ

えもん)体と顔がすこぶる膨れていたので、人々が水死人(水死人は腐ると身体の中にガスが溜まってぱんぱんに身体が膨む) の事を土左衛門のうだと言ったのが広まり、今日までこの言葉が伝わっている。

(三)ドラえもんにあらず、どざえもんなり。

用例

・同心殿、今朝方隅田川で町人の土左衛門があがったそうな。

・また、土左衛門が流れてきおったか。今月に入って三体目じゃのぉ。 

 

刀自(とじ・とうじ)

(一)武家の主婦の事。

(二)年老いた主婦の事。

(三)老女の事。

(四)年召した貴婦人の尊敬語。

(五)他人に仕えて家事をする婦人の事。家刀自(いえとじ・いえとうじ)

 

土壇場(どたんば)

(一)土壇=土で築いた盛土。檀の事。

(二)この土壇(盛土)の上で刑が執行された。

(三)または、この土壇の上に、罪人の死体を置いて、新刀の試し切りを行った。

(四)斬罪の刑場・仕置場。(武士以外の罪人の首を切り落とす四角い穴 の事・あるいはその穴の前に座らせられる場所の事)

(五)転じて、切羽詰まった場面・進退極まった場面。

用例

・とうとう土壇場まで来たか! 

・もはや土壇場じゃ!

 

十津川郷士(とつがわごうし)

奈良県奥地にある、十津川は古代より朝廷に仕え、「壬申の乱」「平治の乱」などに出兵している。南北朝時にも南朝に仕えていた。豊臣時代の太閤検地にも免租され、急峻な山で囲まれて、米が収穫できない地形もあって、江戸時代を通じても免租されている。その代わりに、京都の御所の警備や貴人の護衛などの仕事を請け負っていた。

用例

・「御免下され、我等十津川郷士の者でござる。才谷先生(坂本龍馬)はご在宅か?」(龍馬暗殺の犯人は、十津川郷士を名乗って近江屋へ入り竜馬を暗殺した) 土佐藩上士 谷千城の証言による。龍馬暗殺現場にいち早く駆け付けて、陸援隊の瀕死の中岡慎太郎から聞いた話が記録に残っている。

・我等の土地、奈良十津川は米の取れぬ天領じゃから、年貢は免除されておる。よって毎年、御所の警備やら貴人の護衛やらを年貢の代わりに奉仕しておるのじゃ。これが十津川郷士と呼ばれる我等なのじゃ。

 

 吶喊(とっかん)

(一)大勢が一時に鬨(とき)の声をあげる事。

(二)大勢が敵陣に突入する時に、喚(わめき)き叫ぶ事。

(三)うぉ~!おりゃ~!わぁああ~!突撃じゃ~!など。

用例

・大勢の槍隊・騎馬隊が吶喊の声をあげて、我が軍に突入してきたとの報告が入っております。

者共ぉお、突撃じゃ~、いざ吶喊の声をあげよ~!

戦場で兵士達があげた言葉・叫び声・雄叫び(おたけび)

 

とと・とと様(とと・ととさま)

下級武士の子供(幼児)などが父親を呼ぶ尊敬語。お父様の意

 

殿方(とのがた)

(一)女性の方から男性を呼ぶ尊敬語。

用例

・世の殿方を見やるに、皆、女を一段低く見る様子がありまするの。

 

殿御(とのご)

(一)女性から男性を呼ぶ時の尊敬語。

(二)殿御振(とのごぶり)→女性から見た男振りの事。

 

共先割(ともさきわり)

(一)大名行列や侍の行列の前を横切る事。

(二)武士(侍)の行列に対する無礼行為の事。

(三)「前渡り」と同義語。

(四)大名行列の前を、横切ることを許されていた例外は、産婆と医者だけであった。

 

取詰める(とりつめる)

(一)厳しく攻めつける事。

(二)激しく迫る事。

(三)思い詰める事。

用例

・我が軍勢、佐和山城へ取詰め候間、援軍にて福島正則殿軍勢即ち懸け付け、合力にて城兵を城内へ追い入れて後、一人も洩らさず討取り候。

 

取籠(とりこもり)

(一)人質を取って立て籠(こも)る事。

(二)立て籠りの事。

 

鳥見(とりみ)

(一)江戸幕府の職名のひとつ。

(二)関東一円にあった、将軍のお鷹場(遊猟地)を巡視して、鳥や獲物の狩猟状況などを確認し、江戸城へ報告する役目を担った。

(三)お鷹場での密猟の監視・取り締まりも行った。

(四)若年寄配下の鳥見組頭に属する。

(五)伝馬金(てんまきん=通信費)を年十八両与えられていた。

(六)給金は八十俵五人扶持であった。

(七)また、お鷹場周辺や郊外の取締まりをしたり、その土地の屋敷へ出入りし、情報収集なども行っていた。

 

捕物(とりもの)

犯人・罪人を捕まえる事。

 

捕者(とりもの)

捕まえるべき犯人・罪人の事。

 

捕物帳(とりものちょう)

江戸時代に、岡っ引きや目明しなどが捕物や事件に関して記録したメモ帳の事。 

 

屯食(とんじき・どんしき)

(一)強飯(こわめし・こわいい)の事。

(二)糯米(もちごめ)を蒸籠(せいろう)で蒸した飯の事。

(三)蒸し飯・おこわ・こわいい(強飯)の事。

(四)強飯を握り固めて卵形にした物。

(五)公家では握り飯の事を言う。

(六)作り置きの握り飯・または携帯食。

ロバート・フレデリック・ブルーム作「絵草紙」1891~1893作 アメリカの画家

内儀・内議・内義・御内儀(ないぎ・おないぎ)

(一)身分のある人の妻の事。

(二)他人の妻の事。

(三)町人の妻の尊敬語。

(四)内々の会議。

(五)内々の相談。

(六)内々の事柄。

(七)内密の事柄。

 

内職(ないしょく)

御家人などの底辺の武士の内職には以下の種類がある。

(一)盆栽作り

(二)金魚の飼育・ブリーダー

(三)コオロギ飼育と虫売り

(四)虫籠作り

(五)凧作り

(六)朝顔の栽培と朝顔の新種作り

(七)傘張り

(八)提灯張り

(九)寺子屋の師匠(習字・絵画・往来物(各分野の教科書)の教授)

(十)木工製品の器などの塗師

(十一)その他

 

長脇差(ながわきざし)

(一)一尺三寸以上の脇差のこと。

(二)脇差とは刃渡り二尺(60cm)以下の刀を言う。

(三)博徒、町奴、やくざなどの無頼の徒が差していたことからきた言葉。

(四)その長脇差を差している無頼の輩の異名。

 

投込寺(なげこみてら)

(一)遊郭の女郎などが死んだ時には、その骸(むくろ)は大八車に乗せて定められた寺の中の投込み穴(墓地の穴)に投げ込む。これで死体処理は完了。後は寺の僧侶が始末してくれる事になっていた。

(二)他にも身元不明の行倒れ、餓死者、病死者なども投げ込まれた。

(三)江戸では三ノ輪の浄閑寺(じょうかんじ)が有名。吉原の遊郭近くにあった。

(四)全国各地の遊郭近くには大抵この投込寺があった。

(五)有名な句で「生まれては苦界、死しては浄閑寺」と言う悲惨な句が残っている。

 

撫斬り・撫切り(なでぎり)

(一)撫でるように人を斬る事。

(二)敵の多くの人間を片端からすべて斬り殺す事。

(三)ジェノサイド(集団殺戮)

(四)敵を根絶やしにする事。

(五)根切(ねぎり)の事。

用例

・比叡山の僧兵どもだけにあらず、女子供も根絶やしにせよ!撫切りじゃ!

・信長様は、己を激怒させた敵には撫切りを致すお方じゃ。

戦国時代・江戸初期の島原の乱までよく使われた言葉。 

 

何故(なにゆえ)

(一)どういう理由で?

(二)なぜ?

(三)なんのため?

用例

・何故(なにゆえ)このような戯言(ざれごと)を申すか? 

・何故(なにゆえ)父は自害なさったのですか?

 

何奴(なにやつ)

(一)どういうやつ

(二)どいつ

用例

・何奴じゃ、家老、山形平右衛門と知っての狼藉か?

・うぬ、何奴じゃ。

 

鈍刀(なまくらがたな)

(一)切れ味の悪い刀。

(二)鈍刀(どんとう)

用例

・もうこの刀は刃こぼれが過ぎて鈍刀じゃ。

・長く手入れのなかったこの刀、もはや鈍刀じゃ

 

南無三宝・南無三(なむさんぼう・なむさん)

(一)事の成功を祈って発する言葉

(二)驚いた時や失敗した時。

(三)しまった。さぁ大変だ。なむさん。

(四)仏・法・僧の三宝に帰依する事。

用例

・何とか上手くいってくれ、南無三!

・成仏致せよ、南無三宝!

 

奈良刀(ならがたな)

(一)室町時代以降、奈良周辺で大量に造られた粗悪品の刀の事。

(二)後世、鈍刀の事を言った。

(三)最初は光っていても、使うとすぐに切れなくなる刀の事。

(四)飾りが禿げてしまい、本性が現れる事のたとえ。

用例

・相手と刀刃を合わせて打ち合った途端に曲がりおったわ、こりゃ奈良刀じゃ。

・わしの刀は関和泉守兼定じゃ、お主の刀は奈良刀、試合う前から勝負は決まっておるわ。

 

なれど・なれども

(一)ではあるが

(二)けれども

(三)なれども

(四)そう言うが

用例

・なれども、藩の掟に背く事になるのではないのか?

・お主の言う事はもっともじゃ、なれど、ご家老様がどう評定されかが問題じゃ。

 

縄張り(なわばり)

(一)城郭の設計の事。

(二)築城の時に縄を張って、城や櫓などの建物、堀、土塁の位置や大きさなどを示した事から縄張りと言う。

(三)戦国時代は複雑な防御システムを施した縄張り(城の設計)になっている。しかし、戦国時代後期以降は鉄砲の兵器が導入されたため、鉄砲による迎撃を主眼において設計され、シンプル化された縄張りになっている。

 

縄張師(なわばりし)

(一)城・城郭を設計する専門技術をもつ人の事。

(二)過去の城郭決戦の勝敗を研究し、城郭の地形・土塁・堀・石垣組・応戦方法・井戸水・兵糧庫・兵站線・武器弾薬庫など、現状に応じた最新鋭の城郭設計を施した。

(三)各武将たちには、お抱えの縄張師がおり、城を新築する場合には専門の縄張師達がチームを組んで設計した。

(四)専門の築城技術を持ち、築城工事の差配や監督をした。

 

南蛮人(なんばんじん)

(一)南蛮の人。

(二)主にポルトガル人・スペイン人を指す。

(三)室町末期から江戸時代にかけての呼称。

(四)もともとは、南方の野蛮人と言う意味。

用例

・これが南蛮渡来の金剛石(ダイヤモンド)か、光り輝いておるわ。

・あれが南蛮人よ、皆、切支丹伴天連じゃ。怪しげな術を使って、皆、信者にされるそうな。

女性(にょしょう)

(一)女性(じょせい)の事。

(二)おんなの事。

(三)女人の事。

 

二むらい(にむらい)

(一)似非侍(えせさむらい)の事。

(二)偽(にせ)の侍の事。

(三)三(さ)むらいにはひとつ足りない、すなわち二(に)むらいと言う意

 味。

用例

・あやつ、殿の妾(めかけ)である姉が男児を生んだが故、徒に取り立てられよった。ふん、だが所詮(しょせん)奴は二むらいよ

 

俄武士(にわかぶし)

(一)町人から俄(にわか)に武士に取り立てられた人の事。

(二)殿様の、町人出身の側室の身内などが、武士に取り立てられる

事。

(三)俄(にわか)の武士ゆえに嘲笑の対象になった。

用例

・徒(かち)に取り立てられたあの男、俄武士ゆえ所作がぶざまじゃ。

・殿の側室が男児を生んだゆえ、褒美に弟が武士に取り立てられよった。俄(にわか)武士じゃ。

中級より下の武士が使った言葉。

 

刃傷(にんじょう)

(一)刀を抜き放って相手を斬りつけ怪我をさせる事。

(二)刃物をもって争う事。

(三)刃傷沙汰の事。

用例

短気で血気にはやっておったあやつ、我慢しきれず、とうとう刃傷沙汰を起こしよったそうじゃ。相手はご家老の次男坊じゃ。これでは切腹は免れまい。

 

人体(にんてい・にんたい)

(一)人の姿・形。

(二)その人の人柄。

(三)人としての品格。

(四)外見の事。

用例

・かの者、その人体、人品(じんぴん)気高く、周囲の者共に慕われており申す。

・人体卑しからず、品格ある御仁で御座る。

抜かる(ぬかる)

(一)気づかずに失敗している事。

(二)油断をしてしまい仕損ねる事。

(三)時期を失う事。

用例

・ううむ、抜かったわ、謀(たばか)られた。

・調略に乗せられて裏をかかれてしもうた……抜かったわ。

 

抜打(ぬきうち)

(一)鞘から刀を抜くと同時に相手を斬る事。

(二)居合術・抜刀術などに見られる刀法の一つ。

(三)刀を抜くと同時に、相手の顔面・首・肩口などを袈裟斬り、または真向で斬る。また水平斬りや逆袈裟もある。

 

抜荷(ぬけに)

(一)法度(はっと=法律)を犯して密貿易をする事。

(二)密貿易の荷物の事。

(三)抜買(ぬけがい)の事。

(四)抜売(ぬけうり)の事。

佞奸(ねいかん)

(一)表面は従順にみせかけて、内心はねじけてよこしまなこと。

(二)口先が巧みで、心の正しくない事、又はその人。

用例

・この佞奸!天に代わって成敗してくれる!

・藩に仇(あだ)なす、あの佞奸共助さん・角さん懲らしめてやりなさい!

 

根切(ねきり・ねぎり)

(一)木や草の根を断つ事。

(二)敵の一族郎党・血縁関係の者一切を殺害する事。

(三)戦国時代にはよく行われた。

(四)源頼朝が「平治の乱」で父親が殺された時、戦犯として捕らえら

れ斬罪されるところを、清盛の義母が、亡くなった子供に似ていると言って助命嘆願をした。その結果、後年頼朝は源氏の強大な兵を率いて反乱を起こし、平氏を完膚なきまでに滅ぼしてしまった。信長は、この歴史の故事を繰り返してはならじと、の激しい敵に対してはこの「根切」を行った。豊臣秀吉も甥御関白秀次に対して一族郎党をすべて根切にした。

 

(ねんごろ)

(一)男女が密かに情を通じる事。

(二)情交のある関係。

(三)お互いに親しみ合うさま。懇意。

(四)念入りにするさま。

(五)親切な事。まごころでするさま。

用例

・あの二人はねんごろの仲じゃ。

・ねんごろに弔ってやってくれ。

 

念者・念人(ねんじゃ・ねんにん)

(一)侍の男色関係において兄者にあたる若い男性の事。

(二)念人・念友の事。

(三)若衆(わかしゅ)の事。

用例

・壮介殿は、あの若衆の念者じゃそうじゃ。

・あのお方は、わたくしの念者でございます。

熨斗・火熨・火熨斗(のし・ひのし)

(一)江戸時代の着物・袴・裃の衣類などの皺伸ばしをする道具の事。

(二)現代のアイロンに相当する物。

(三)柄杓の形状をしていて、中に発火させた炭を入れて熱を持たす。口で吹く霧吹きで着物を湿らし、その上を熨斗で当てて、衣類の皺を伸ばした。

(四)武家では、家人(嫁や女性、下僕など)が熨斗かけを行った。

(五)奈良時代(8世紀)の正倉院宝物の中にも、千年以上伝えられた熨斗が残っている。

 

野伏・野臥(のぶせり・のぶし・のぶせ)

(一)山・森・野原などに潜んでいる強盗の事。

(二)山賊

(三)野武士

(四)山野に野宿する事。またはその人。

用例

・そこから先は野伏が潜んで居るぞ。これ以上先へ足を踏み入れてはならぬ。

・百姓の村を狙った野伏りの襲撃じゃ、逃げろぉ逃げるんじゃ!焼き討ちにされるぞ!

 

野放図(のほうず)

(一)傍若無人(ぼうじゃくぶじん)にふるまうさま・人の事。

(二)図々しいさま・人の事。

(三)横柄なさま・人の事。

(四)しまりがない様子。

(五)際限のない様子。

用例

・なんじゃあの偉そうに振る舞う侍は、野放図な奴じゃ。

・人を見下しおって、あの野放図野郎、そのうち闇に葬ってやるわ。

ロバート・フレデリック・ブルーム作「飴屋」1893年作 アメリカの画家

配符(はいふ)

(一)犯人捜索のための手配書。

(二)おたずね者の手配書。

(三)江戸当時の手配書には似顔絵はなく、文章で構成された手配書であった。

用例

・いよいよ配符が回って来たか、あやつもとうとうお尋ね者となり果ておったか。

・おい、あやつは配符書にあったお尋ね者にそっくりでは御座らぬか?

 

配流(はいる)

(一)流す事。

(二)島流しの事。

(三)流罪に処する事。

(四)流刑(るけい)の事。

(五)遠流(おんる)の事。

(六)流罪(るざい)の事。

用例

・汝(なんじ)闇の五郎、群盗の頭領にして、数十の商家で強盗を働き、死罪に値するものなれど、盗み働きの間には、何人(なんぴと)たりとも殺害はしてはおらぬ。よって、罪一等を減じ、伊豆七島へ配流を申しつくるもの也(なり)

 

拝領(はいりょう)

(一)主君や公家などの貴人から物をいただく事。

(二)恩賜(おんし)の事。天皇や主君から賜る事。

(三)頂戴(ちょうだい)する事。

用例

・この備前長船の宝刀は、先代城主の殿より拝領したものじゃ。

 

(はかま)

起源は弥生時代にまで遡ると言われます。袴は神道や宮廷でも古くからある衣装のひとつです。江戸時代には、武士の礼装として定着しました。

袴は武士だけに許された衣装です。下級武士は袴の着用は許されませんでした。袴の形状の袴の前の五つの襞(ひだ)は、「仁・智・礼・義・信」の五つの徳「五常」を表しています。後ろの二つの襞は「忠・孝」の二文字を表しています。袴裁きとしては、座る時に身をかがめた時に、足の間に右手を入れて左右に裾を捌く。片膝・または両膝をつく前、あるいはついてから、膝の後ろへ扇子、または両手でぽん、と袴に折り目を入れて座ります。

 

佩初(はきぞめ)

(一)はじめて太刀を帯びる事。

(二)はじめて太刀を佩(は)く事。

用例

・若様の初めての佩初ですな、めでたい事でござる。

・新しく新調した太刀じゃ、今日初めての佩初じゃ。

 

破却(はきゃく)

(一)破(やぶ)る事。

(二)壊(こわ)す事。

用例

・幕府より評定が下った印南藩は、お家断絶となり、豪壮を誇った城も破却された。

・秀吉はあらぬ謀反の疑いを秀次にかけ、切腹を命じ、屋敷の聚楽第も跡形もなく破却した。 

 

帯刀(はきだち・たいとう)

(一)腰に帯びている刀の事。

(二)佩刀(はいとう)の事。

用例

・その帯刀の刀の拵は見事なもので御座るな。

・馬上に於いては、佩刀で刀を帯びるのがよい。

 

博労・馬喰・伯楽(ばくろう)

(一)馬を売買する職業の人。

(二)馬を斡旋する職業の人。

(三)馬の品質・良し悪しを鑑定する人。

(四)物と物を交易する人。

 

婆娑羅(ばさら)跋折羅・時勢粧

(一)派手に見栄をはること。

(二)伊達(だて)

(三)遠慮なく振舞うこと。

(四)しどけないこと。

(五)狼藉。

(六)室町時代の流行語または風俗。

用例

・けっ、また町奴達(まちやっこたち)が婆娑羅を気取って、乱暴狼藉をやりやがる。

・俺達こそ、婆娑羅よ!俺達の行先には血煙があがるぜぇ!

江戸時代には一般的には使われなくなった言葉のようだが、一部で婆娑羅を気取って乱暴狼藉をした一団もあった。

 

端女(はしため)

(一)召使(めしつかい)の女性の事。

(二)下女(げじょ)の事。

(三)年若い下女→端女童(はしためわらわ)

 

破邪顕正(はじゃけんしょう)

(一)誤った見解・思想・信念を打ち破り、正しい見解・思想・信念を

打ち出す事。

(二)元々は仏教用語

用例

・我が剣は、破邪顕正の剣なり。

・邪剣に惑わされてはならぬ、先師より賜ったこの剣で、破邪顕正の剣法を打ち立てねばならぬ。

 

端城(はじょう・はじろ出城でじろ)

(一)本丸の本城から離れた場所にある支城のこと。

(二)本城の出丸のこと。

用例

・徳川軍の最前線を迎え撃つこの端城真田丸。この幸村が徳川方の軍勢を木っ端微塵にしてくれるわ!

 

生城・裸城(はだかしろ・はだかじろ)

(一)攻撃する敵城の廻りをすべて焼き払う事。

(二)城の兵站・武器・弾薬・食料の調達・外部との連絡網を断たたれた城の事。

(三)完全に孤立させられた城の事。

(四)戦国時代によく用いられた敵城の攻略法。

 

旗本奴(はたもとやっこ)

(一)江戸幕府直轄の武士で、家禄が一万石以下で、5百石以上のお目

見え以上の格式をもった家柄の事。

(二)旗本の不平・不満を持つ無頼の徒で、男伊達を気取った人々。

(三)旗本の家を継げない次男・三男坊もいた。

(四)江戸市中を横行した、有名な旗本奴としては「白柄組」「六法

組」「大小神祇組」などがいた。

(五)旗本奴⇔町奴。町奴との衝突・喧嘩もあった。

(六)江戸時代、幕府は何度も旗本奴や町奴を弾圧し、弾圧毎に数百人を処刑している。

用例

・あれが旗本奴の白柄組よ、逆らうと怖いぜぇ。

・旗本奴大小神祇組の組頭は水野十郎左衛門てぇ名前だぜ。

 

鉢金・鉢鉄(はちがね)

(一)侍が戦う時に使う、額に鉄・鋼で出来た板を布に縫い付けた鉢巻

の事。

(二)頭部への刀の攻撃を防ぐ為に付ける。兜の鉢の俗称。兜の形をし

たもの。

用例

・この鉢金で命拾い致したわ。

 

法度・御法度(はっと・ごはっと)

(一)掟・法律

(二)禁令・禁制

(三)特に、幕府が旗本・御家人・庶民の支配のために発したもの

用例

・それは御法度じゃ、罷り成らぬ。

・此度(こたび)の御法度は厳しいお達しじゃ。 

・咎めをうけるぞ、それは御法度じゃ。

・これが法度という事を今、はっと気づいたわい。

 

母御・母御前(ははご・ははごぜ・ははごぜん)

母親の尊敬語。

 

早打(はやうち)

(一)馬を急がせて危急の事などを書状・口頭などで知らせる事。

(二)馬を急がせて危急の事などを書状・口頭などで知らせる人の事。

(三)江戸幕府から京都所司代へ急用の書状を届ける時の馬の便の事。

(四)馬を急ぎ早駆けさせる事。

用例

・一大事である!早急に早打を仕立てて国元へ知らせよ!

・どけ退けぃ、早打ちの馬じゃ!幕府御用じゃ、退けぇぃ!

 

早馬(はやうま)

(一)早く走る馬の事。

(二)早打の乗る馬の事。

(三)急使の馬の事。

 

早駕籠(はやかご)早打駕籠(はやうちかご)権門駕籠(けんもんかご)

(一)前後に紐のついた駕籠を駕籠かき(雲助)8人~10人ほどで担ぎ、紐でも引っ張って走った。

(二)町駕籠・道中駕籠・山駕籠の体裁をしている。

(三)長距離の場合には、宿場宿場で交代して走った。

(四)川を避けて山道をあえて走った。

 

払切(はらいぎり・はらいきり)

(一)横一文字に払うように斬る事。

(二)刀を横に斬り払いながら、こめかみ・首・胴・腕・手・足などを斬る事。

(三)払切には左右がある。

 

腹切金(はらきりがね)

(一)自分が自腹を切って出すお金の事。

(二)自分で負担しないでも良いのに出すお金の事。

用例

・梶之介、今日もお主の腹切金で馳走になって…すまぬ、忝(かたじけな)い。

・あやつまた上役の飲み代を自分の腹切金で払うておる。見え透いたごますりじゃ。

 

張文・貼文(はりふみ・はりぶみ)

(一)連絡事項・禁止・注意・命令などを書いて壁や板塀などに張って掲げる事。

(二)張り紙の事。

 

蟠踞・盤踞(ばんきょ)

(一)蟠踞→広大な領地を有し、その領地で権力・権勢をふるう事。

(二)盤踞→わだかまってうずくまる事。

用例

・朝倉義景は広大な越前に蟠踞し、その権勢を振るった。

・甲斐の国には、あの武田一族が蟠踞しておる。生中な事では攻略は出来ぬ。如何にしたものか。

 

藩校(はんこう)

(一)藩校が各藩に設立されたのは、江戸中期から。それ以前の武士の勉学は、武士の各家庭で行っていた。それまでは家庭での自主的な勉学が普通だった。読み書きを教えるのは父親か、叔父・親戚などだった。

(二)藩校の設立目的は、武士の「文武両道」を目指すため。武術と学問を習得し、優れた武士を育成するのが目的だった。

(三)身分制度が強い藩校では、下級武士などは藩校に通えなかった。

(四)公的中等・高等教育機関であったが、義務教育ではなく、よって通学・勉学を拒否する武士がことのほか多かった。ボンビー(貧乏)で学問が出来ない・通えない武士もあり、よって無学文盲で字が全く読めない武士が、江戸時代には多くいた。

(五)藩校・学問所は各藩校によって学問分野に独自性があり、天文学・数学・化学に強い藩校もあれば、医学・歴史などに特化した藩校もあった。

(六)江戸時代を通じて、武士の間では学問の知的格差が大きかった。

 

藩札(はんさつ)

(一)藩札は各藩や豪商がその信用を後ろ盾にして、独自に発行した紙  

幣で、その藩の領内でしか使用きない物であった。一般的には借金札(債権)の要素が強かった。藩が取り潰しになったり、財なかったりした時には、全くの紙切れになってしまうものもあった。

(二)発行には幕府の許可が必要であった。

(三)福井藩での寛文元年(1661年)に初めての藩札発行が行われ、明治初めまでに224藩で1700種類以上発行された。

(四)明治になって、新札と交換するのに7年かかった。総額は当時の金額で2500万円にものぼった。

用例

・では、この代金は藩札でお買い上げさせていただきますよ。

・藩札で支払いだとぉ?けっ、こんな紙切れに金に代わる価値などありはせぬわ!お断りじゃ!

 

番衆(ばんしゅ・ばんしゅう)

(一)殿中に宿直して、雑務・警備をする武士の事。

(二)本陣に宿直して、雑務・警備をする武士の事。

(三)営中に宿直して、雑務・警備をする武士の事。

(四)番をする人。

(五)番方・番士・番人などとも呼ぶ。

(六)番頭(ばんがしら)配下のもとに働いた。

 

半時(はんとき)

一時(いっとき)の半分、今の一時間。少しの時間の事。

用例

・もう半時じゃ、もう約束の刻限(こくげん)を過ぎておるぞ。

・この仕事ならば、半時もあれば十分じゃ。

 

判物(はんもつ・はんもの)

(一)室町~江戸時代、将軍や大名などが、部下・または幕府外の下位の者に宛てた、書判・花押のある文書の総称。

(二)御判・御判物の事。

後鞘(ひきはだ)

(一)刀の鞘に被せる皮の事。

(二)細長い形の皮の袋。

(三)道中・駕籠に乗る時・乗馬の時などに、刀の鞘に傷が付くのを防ぐために付けた。

 

ビードロ

(一)ガラスの異名。

(二)室町時代末期にオランダ人が製法を伝えた。

(三)ポルトガル語(vidro) 

 

直切(ひたぎり)

(一)ひたすらに斬る事。

(二)一途に斬る事。

用例

・乱戦じゃ、直切で敵を斬りまくれ!

・斬れ斬れっ!直切にこそ斬り廻るのじゃ!

戦場などで武士が使った言葉.

 

非太刀(ひだち)

(一)相手が油断している一瞬をとらえて、刀で相手に一撃を加える事。

(二)相手を非難する事。(由来は武田信玄の甲陽軍艦から)

用例

・居合の抜き打ちの一撃で、相手に非太刀を加えてやったわい。

・あの者は合議の席で非太刀を申す奴じゃ、まことにけしからん。

 

必定(ひつじょう)

(一)必ずそうなると決まっている事。必至。

(二)たしかに

(三)きっと

(四)必ず

用例

・殿より叱責を受けることは必定じゃ。

・このままでは、負け戦は必定じゃ。

 

匹夫・匹夫下郎(ひっぷ・ひっぷげろう)

(一)一人の男の事。

(二)道理に暗い男の事。

(三)身分の卑しい男の事。

(四)思慮分別の無い男の事。

(五)血気にはやる単細胞な男の事。

用例

・下がりおれっ!匹夫下郎!

・愚か者、早まるな!それを「匹夫の勇」と言うのじゃ。

 

冷飯喰(ひやめしくい)

(一)江戸時代、家督相続権のない次男・三男のことを言った言葉。

(二)武家の次男以下の者を卑しめて言う言葉。

(三)武家の次男・三男は家では冷遇されるので、冷たい飯を喰わされるという意味。

(四)居候の事。食客の事。

(五)能力がなく、冷遇される立場の人。

 

評定所(ひょうじょうしょ)

(一)江戸幕府最高の裁判所。

(二) 老中・大目付・目付・三奉行などが事件を合議した所。

用例

・評定所より下知致す。各々方よっく賜れい!

・評定所の結果次第では、藩がお取潰しとなるぞ。 

 

兵法(ひょうほう)

(一)剣術などの武術・武略。へいほう。

(二)兵学・軍法・軍略。

用例

・拙者は中条流兵法を修めた者に御座る。

・これが柳生新陰流兵法のひとつ「無刀取り」の神技か!

・生兵法(なまびょうほう)は怪我のもと。

 

平侍(ひらさぶらい・ひらざむらい)

(一)普通の身分の侍。

(二)身分・官位が低い侍。

 

尾籠(びろう)

(一)汚くて穢らわしくて、他人の前では失礼にあたること。

(二)無作法・無礼・不敬のこと。

用例

・なんと尾籠な話じゃのう。

・やめんか、そのような尾籠なことは。汚いぞ。

・尾籠な話で、申し訳ないが・・・、腹を下しておるのじゃ。尻がぴ~ひゃら・ぴ~ひゃらと笛を吹いておる。むむ…苦しい…。

撫育(ぶいく)

(一)愛して育てる事。

(二)慈しんで育てる事。

(三)撫育金→藩の一般会計とは違う特別会計の資金の事。

用例

・この男(おのこ)は我が殿のご落胤(ごらくいん=おとしだね)ゃ、初代ご城主様より仕える我家で秘密裏に撫育せねばならぬ。

 

無音(ぶいん)

(一)長くご無沙汰すること。

(二)するべき挨拶がないこと。

(三)久しく相手の所に訪れ(訪問)がないこと。

(四)しばらく音沙汰のないこと。

用例

・「成行殿、お久しゅうござる」

「おお、これは渡辺殿、江戸にはまた勤番で参られたか」

「成行殿には久方無音のままにて、申し訳も御座らん」

 

風体(ふうてい)

(一)みなり・なりかたち・ふうたい。

(二)歌道でその風、体。歌風。

用例

・その下手人はどのような風体であったか?

・あのお方は、剣術一筋にて、みなり風体をかまわぬお人じゃ。

 

風流(ふうりゅう)

(一)俗世間を離れて、和歌や俳句、連歌、茶の湯などの文化・芸術を愉しむ事。

(二)風雅な事。

(三)雅やかな事。

(四)昔のよき文化の遺風の事。

用例

・この雪の日に、椿の一輪をみて和歌を詠むとは風流なものよのぉ。

・わしの問答に、茶の湯の所作で応えるとは…なかなかに風流なやつじゃ。

・桜の花びらが表に裏と返しながら、川面をさすらうは風流じゃ。

 

風儀(ふうぎ)

(一)時・場所・状況に応じた姿、なり、形、服装。

(二)習わし・風習の事。

(三)その時、場所に応じた行儀・作法。

用例

あの下屋敷は中間共の博打場になっており、集まる輩の風儀は良くないものと噂で聞いておる。

 

武運(ぶうん)

(一)武士であることの運命。

(二)戦いの勝敗の運命

用例

・武運つたなく、戦場で討死致したのでござる。

・武運長久をお祈り致しまする。

 

不覚(ふかく)

(一)精神状態が正常ではない事。

(二)思慮・分別がしっかりしていない事。

(三)思わず知らずに行う事。

(四)不注意・油断・うっかりと失敗する事

(五)覚悟のできていない事。

(六)卑怯な事・臆病な事。

用例

先度の御前試合の負けは、まことにもって拙者の不覚であった。

・相手の誘いに乗ってしまい負けてしまった、拙者の不覚であった。

 

武鑑(ぶかん)

(一)江戸時代、大名・旗本の氏名・系譜・居城・知行高・屋敷・官

位・家紋・旗指物などがひと目で分かるようにした書物。

(二)現在の紳士録名鑑のような書物。または大名カタログ年鑑のよう

な書物。

(三)江戸時代には普通大名屋敷には表札がなかった。どのお屋敷にど

の大名が住んでいるのかを知るは、断片的な情報からでも武鑑を見れば分かるようになっていた。

(四)同じ武士同士でも、江戸の武家社会で関わりのある相手(特に江戸幕府の要職につく家々)の氏素性を知っておくは交際上必須だった。自分の殿様と相手の殿様との身分の上下などを知り、城で失礼とならないように、その参考書として使ったのがこのである。

(五)最初の武鑑は「正保武鑑」形式の整った武鑑は「江戸鑑」が初め、「本朝武鑑」はそのコピー。「正徳武鑑」以後は年号で逐次刊行された。

(六)毎年改訂版が刊行された。

(七)武士によってはいつも持ち歩いていた。

 

不義(ふぎ)

(一)道に外れた事。

(二)道義に背く事。

(三)悪辣・悪逆な事。

(四)男女の道徳に外れた関係の事。

用例

・侍たるもの、不義を働いてはならぬ。

 

不義密通(ふぎみっつう)

(一)男女の道徳に外れた関係の事。

(二)男女の間の道徳に外れた姦通の事。

(三)世間に隠れてする、不倫の事。

用例

・幕法によると、不義密通は男女によらず死罪じゃ。

・寝取られた夫は、妻と間男を斬り殺してもよいことになっておる。追って斬り殺してしまえ。

・不義を三度も働きおって、これが本当の不義みっつうじゃ。

 

武芸十八般(ぶげいじゅうはっぱん)

諸説あるが、おおむね次の種類が一般的「剣術・抜刀術・槍術・弓術・馬術・短刀術・砲術・柔術・捕手術・棒術・鎖鎌術・水練術・薙刀術・手裏剣術・忍術・含針術・錑(もじり)術・十手術」を総称して言う。

用例

・あの者は、武芸に秀でた若武者よ。幼き頃より武芸十八般を嗜んでおる。

・ワシの自慢は武芸十八般、前科五犯。 

 

(ふくべ)

(一)瓢箪(ひょうたん)の事。

(二)ウリ科の一年草。

(三)果肉から干瓢(かんぴょう)が作られる。

(四)瓢箪で作った水筒の事を言う。

 

武家伝奏(ぶけてんそう)

(一)武家の要請・奏請を天皇に取次ぐ職名の事。またはその人。

(二)天子(=天皇)に奏上して裁可を仰ぐ事・請う事。

(三)室町時代から江戸時代にかけて置かれた職。

(四)天皇を支える納言・参議の中から選ばれた。

(五)常時二人置くので、両伝奏とも云われた。

用例

・幕府から伝奏された暦の変更は、要職にある公家達の間では物議を醸したが、半年の後無事に裁可された。

宮中・公家・幕府要職の者が使った言葉。

 

武家奉公(ぶけぼうこう・ぶけほうこう)

(一)武家の屋敷に奉公する事。

(二)町人の娘などが行儀見習いと嫁入りの箔付けのために武家屋敷に奉公する事。

(三)中間や草履取り・奴(やっこ)などが武家屋敷に奉公する事。

用例

・これ、お里や。お前の評判を聞きつけた向かいのお武家の奥様が、屋敷に奉公にきてほしいとおっしゃってな。どうだい、お前行ってみないかい?

 

武功(ぶこう)

(一)戦場での手柄の事。

(二)武勲(ぶくん)の事。

(三)軍事上の功績の事。

 

武左(ぶさ)

(一)武左衛門の略語。

(二)田舎侍を嘲って言う言葉。

(三)田舎侍を馬鹿にして言う言葉。

(四)廓言葉のひとつ。

(五)頑固(がんこ)・頑(かたく)なで偏った考えをする侍の事。

(六)野暮ったい垢ぬけない侍の事。

用例

・やだよぉ、またあの武左が来た。あちき(遊郭で女郎が言う私の事=廓言葉)はお相手するのはいやでありんすよぉ。あんな武左。お願い、断っておくんなまし。

・ふん、金を持っているのを良いことに、鼻持ちならないね、あの武左。 

 

臥所(ふしど・ふしどころ)

(一)寝床(ねどこ)

(二)寝屋(ねや)

(三)寝室(しんしつ)

(四)寝所(しんじょ)

用例

・病を得て長らく臥所に伏せっておったが、此度(こたび)漸く病気平癒となり、今は然の心持(こころもち)じゃ。

 

普請奉行(ふしんぶぎょう)

(一)室町幕府・江戸幕府の職名のひとつ。

(二)石垣・堀・橋・道・土木基礎工事・上水道管理などを担当した。

(三)老中配下の役職。

(四)担当者は二名。役高は二千石。

 

普請方(ふしんかた)

(一)江戸幕府の職名のひとつ。

(二)普請奉行の部下・下役。

(三)勘定奉行の部下・下役。

(四)灌漑用水路や橋の堤の修繕・修築の請願を受けて費用の検査などを行う。 

 

無粋・不粋(ぶすい)

(一)粋(いき)でない事。

(二)通でない事

(三)野暮臭い事。

(四)無骨な事。

用例

・茶の湯も嗜(たしな)まぬとは、無粋なやつよのう。

・夜中に、上役の寝間に突如報告に来るとは、不粋極まりない奴じゃ。明日にせんか!

 

扶桑(ふそう)

(一)中国の東方にある国、日本国の異称・別称。

(二)中国で東海の日の出る場所にあるという神木。またはその地の事。

(三)ブッソウゲの別称。

用例

・扶桑の国こそ我が日の本の国、我が日本国じゃ。

・このような強い剣術は見た事が御座らぬ。貴方様こそ扶桑一(ふそういち)の剣客で御座る。

 

札差(ふださし)

(一)江戸の蔵米取りであった、武家(旗本・御家人)の収入であった蔵米を代理人として代わりに受け取り、その米を売り払い、米を現金化する取次業務を担った人々(商人)の事。

(二)この取次業務の手数料が札差の収入となる。

(三)札差の場所は、江戸の本所と浅草の二か所に集中していた。

(四)札差はこの蔵米を担保に、武士に金を貸し付ける金貸し(金融業)もしていた。

(五)札は蔵米の受取手形となっており、これを割り竹に挟んで目印に

米俵に差したことからこの名前が付いている。

(六)札差は別名「蔵宿(くらやど)」とも言われ、札差の店も「蔵宿(くらやど)」または「納宿(おさめやど)」と言った。

(七)蔵宿の人々は、江戸浅草の蔵前に多く住んでいた。

 

扶持(ふち)

(一)俸禄(給料)を給付して家臣にしておくこと。

(二)たすける事。

(三)一般的には扶持米で支給された。

 

不調法(ぶちょうほう)

(一)行き届かない事。至らない事。

(二)考え違い。しくじり。

(三)酒・たばこを嗜まない事。

(四)芸事が出来ないことを謙遜して言う事。

用例

・これは不調法でござる。

・生憎(あいにく)、茶の湯は不調法でござってな、失礼仕る(しつれいつかまつ る)

・不調法な点前(茶道の)で失礼致す。 

・拙者、酒は不調法でござる。

侍が謙遜して言う言葉。中位から下の武士が使う言葉。 

 

打裂羽織(ぶっさきばおり)

(一)武士の騎乗(乗馬)の邪魔にならぬように後ろを二つ割れにした羽織。

(二)羽織の真後ろが二つに割れている羽織(刀の鞘じりが出せるようになっている)

(三)与力の羽織

用例

・打裂羽織で、羽織が刀の邪魔にならぬで、具合良いわ。

・貴殿の打裂羽織の御紋は桔梗紋でござるな。惟任(これとうさま明智光秀公(ゆかり)ござるか?

 

不如意(ふにょい)

(一)思いのままにならない事

(二)生計の困難な事。貧乏な事。文無し。ボンビー。

用例

・生憎、手元不如意でな、払えぬものは払えぬ。

・不如意で支払いもままならぬ。

殿様以外の武士が一般的に用いた言葉

 

不念・無念(ぶねん)

(一)念が入っていない事。

(二)うっかりしたミスの事。

(三)行き届かない事。

(四)不注意。

(五)落ち度の事。

用例

・この度のおぬしの失態は、おぬしのその不念が原因じゃ。

・報告に漏れが有ったのは、おぬしの無念のせいじゃ。しっかりと致せ!

 

不行届(ふゆきとどき)

(一)行き届かない事。

(二)気がつかない事。

(三)注意を怠っていた事。

(四)指導・監督が怠慢である事。

用例

・部下の職務違反は、上役のお主の不行届きがもとである。此度の一件は追って沙汰するがゆえ、心して待つがよい。

 

文箱・文筥(ふばこ)

(一)ふみはこの略語

(二)書状などを収納しておく手箱の事。

(三)形状は細長く箱本体と蓋で出来ている。紐の付いた物もある。

(四)こちらとあちらの書状の遣り取りに使用する

(五)書物・巻物・書状などを入れて荷って運ぶ箱の事。

 

武辺者(ぶへんもの・ぶへんしゃ)

(一)武事にすぐれた人。

(二)武勇の人。武人。

(三)一郡一城を領する侍大将の事。

用例

・あのお方は、世に聞こえた武辺者じゃ。

・腰抜けだらけじゃ、この藩には武辺者はおらぬのか?

 

武門(ぶもん)

(一)武家の家筋の事。

(二)武家の事。

用例

・これこそ武門の誉(ほまれ)じゃ!

・武門の家に生まれて、誇りに思うておる。 

 

不埒(ふらち)

(一)法に外れている事。道に背いている事。不届きな事。

(二)埒(らち)のあかないこと。物事の決着がつかない事。

(三)要領を得ない事。

用例

・不埒を働く。

・なんと不埒な奴。

・なんとも不埒な説明にて、今一度要領を得ぬのぉ。

 

無聊(ぶりょう)

(一)退屈な事。

(二)気になる事、心配事などがあって楽しめない事。

(三)する事もなく退屈な様。

用例

・あのお侍さんは浪人故(ゆえ)毎日する事がなく、無聊をかこってござる。

・あぁ、余は退屈じゃ。毎日こうして無聊を重ねるのも却って苦痛よのぉ。

 

振分(ふりわけ)

(一)江戸時代、主に町人などが、旅で使った、竹などで編んだ二つの

四角い箱の事。一本の紐で二つの箱が繋がっている。

(二)二つに振り分けた荷物の事。

用例

・明日はいよいよ上方へ出発じゃ。細かい荷物は振分にまとめておくがよい。

 

忿怒・憤怒(ふんぬ・ふんど)

(一)憤(いきどおって)って怒(いか)る事。

(二)怒(いか)り怒(おこ)る事。

用例

・御屋形様も此度の戦の敗北が悔しかったとみゆる。見やれ、忿(ふんぬ)の形相じゃ。

・我、荒木村重の謀反に憤り、この忿怒は治まらぬ。必ずや討取って見せようぞ!

陪従(べいじゅう・ばいじゅう)

(一)身分の高い人に付き従う従者のこと。

(二)供奉の人。

(三)行幸や大名行列に加わること。

(四)身分の高い人に奉仕する人々(家来)のこと。

用例

・此度の上様のお供には、陪従の者共の何と多きことよ。

 

平伏(へいふく)

(一)坐礼のひとつ。

(二)ひれ伏す事。

(三)両手・両肘を床(畳)に付け、頭を床(畳)につけて礼拝する事。

(四)神や高貴な貴人に対して行う作法。

 

閉門(へいもん)

(一)門を閉じる事。門を閉める事。

(二)幕府・藩・藩主に対して謹慎の意思を表すために、家の門を閉じて家に閉じこもる事。

(三)江戸時代の閏刑の事。

(四)武士・僧侶・婦女・身体障碍者などに科す刑罰。正刑に比べて比較的軽い刑罰。

 

別式女(べっしきめ)

(一)女性の武芸者の事。

(二)武家の女性に武芸を教えるために召抱えられた女性の武芸者の

事。

用例

・我が藩に新たに別式女を召抱えねばならぬの。

・なかなかに腕の立つ別式女じゃ。

 

へろへろ侍(へろへろざむらい)

(一)弱っちい侍の事。

(二)威圧感や威厳のまったく無い、脱力系の侍の事。

(三)町人などが、弱い侍を見て、馬鹿にする言葉。

特に町人などが侍を見てよく使った言葉。

 

偏諱(へんき)

(一) 自分の嫡子の元服の時に、公家など高貴な人の名前から一文字いただいて名前を付ける事。

(二)「一字拝領」とも言う。

(三)将軍や大大名などが功ある家臣や元服する者に、自分の名前の一文字を与える事。

(四)大名と家来の結びつきを堅固にするための手段のひとつでもある。

(五)戦国時代の一例としては、四国の長曾我部元親の嫡男の元服の時、信長から「信」の一字をもらって、長男に信親(のぶちか)と名付けた。この信長と長曾我部元親の偏諱を取り持ったのが、二人の取次役、明智光秀であった。

(六)偏諱を与えた事を示す文書は「一字書出」(いちじかきだし)と言う。

用例

・「此度のそちの惣領、豪太郎の元服、誠に目出度き事じゃ。されば余の信長の名を一文字とって、今より信豪(のぶたけ)と名乗るがよい」「ははぁ、我と倅にとり有難き幸せ、我が一族末代までの誉れに御座いまする」

 

辺伝(へんでん)返し伝(かえしでん)

(一)剣術家にとっては、宗家より伝えられた秘技、自分が作り上げた秘術は、原則として、自分の息子に一子相伝によって伝えられるのが普通だった。

(二)剣術家本人が早世し、亡くなった場合、秘技は断絶してしまう。

(三)その一子(息子)が幼き場合には、予め師の高弟数人に秘技を伝授し、息子が成長した後にその秘技が伝えられるようにした。これを辺伝・返し伝と言った。

報謝・御報謝(ほうしゃ・ほうじゃ / ごほうしゃ・ごほうじゃ)

(一)恩に報い徳に感謝する事。

(二)人の恩や神仏のご加護に報いる事。

(三)仏教の修行僧や巡礼の人々へお布施をする事。

(四)神仏への報恩のため、人々へ為す慈善の事。

用例

・白い襤褸服(ぼろふく)をまとった、目の見えぬ老婆と孫娘の巡礼者がとぼとぼと道中を歩いていた。老婆は片足を引きずり、杖にすがりながら歩いている。それを見てあわれんだ左馬之助は「報謝っ!」と一声かけて、幾ばくかの金子を二人に与えた。そして名も告げずに足早に去っていった。

 

報謝宿(ほうしゃやど・ほうじゃやど)

その土地の篤志家(とくしか)が作った簡易宿泊所の事。巡礼の人々・旅の僧・修験者・行倒れ(ゆきだおれ)・一時的な病気の人・旅の宿に宿泊できない貧しい人々に無料で宿を提供した。

用例

「あっ、お武家様、どうなさっただ」

「ううっ、腹が痛むのじゃ」

「それはいけねぇだ。この先に、おらが村の庄屋様が建てた報謝宿があるだ、そこで薬を飲まれて少し休むがいいだよ、おらが案内するだ」

「旅の難儀に遭い、困っておったところじゃ。忝い(かたじけない)、礼を言うぞムーミン」

「ムーミンじゃねぇだ、おら農民(ノーミン)だ」

 

坊主合羽(ぼうずかっぱ)

(一)武士が羽織る合羽の事。

(二)ポルトガル語の「capa」が由来。

(三)始めは紙を繋ぎ合わせて表面に桐油(きりあぶら)を塗ったもので、羽織るとその形が坊主に見えることから付いた名称。

(四)紙製の後に木綿製の合羽が出来たが、これはかなりの贅沢品で、千石持ちの旗本でも家老や用人クラスのものでなければ羽織れないものだった。それ以外の従者などは紙製の雨合羽だった。

(五)坊主合羽は慶長年間に江戸に渡来したイスパニア人の袖なしの裾広がりのガウンを見て真似て作られた雨具である。

(六)他にも袖付きで腕を通すことの出来る「長合羽」と言うのもある。

 

朋(傍)輩(ほうばい・ともがら)

(一)仲間

(二)友達

(三)同じ主人や師に仕える同僚

用例

・こちらは同じ無外流の師、辻月丹先生門下の朋輩、飛騨殿じゃ。

・朋輩、遠方より来る、また楽しからずや。

 

忘八(ぼうはち)

(一)武士(人間)の道義、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の八つの道  徳を失った事。

(二)武士(人間)の道義、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の八つの道7徳を失った人。

(三)遊女・夜鷹を買う事。またその人。

(四)恐ろしい廓(くるわ)遊郭(ゆうかく)の主人(経営者)の事。

(五)遊女屋・廓の過酷で残酷な経営者(主人)の事。

(六)人の道を外れた、えげつない人でなしの事。

用例

・おう、この廓(くるわ)から逃げ出したこの女、逆さに吊るして見せしめの折檻だ!「人でなしぃ!この忘八ども!」やかましい!忘八のわしらを舐め腐って、このあまぁ!二度と逃げる気が出ねぇように一晩かけて折檻してやるぜぇ!

 

俸禄(ほうろく)

(一)武士の職務に対する報酬(給料)の米、または銭(ぜに)の事。

(二)扶持(扶持米・扶持の銭)の事

 

朴念仁・朴念人(ぼくねんじん)

(一)わからずやの事。

(二)無口で不愛想な人。

(三)道理・理屈・常識の分らない人。

用例

・ありゃ朴念仁だから話すだけ無駄じゃ、やめとけやめとけ。

・この朴念仁、これだけ言っても分らぬのか。

 

母衣・母衣武者(ほろ・ほろむしゃ)

(一)騎馬武者の鎧の背中に取り付ける布の飾りの名称。

(二)背中に付ける布は、マント状の布、或は袋状の布であった。

(三)室町時代から母衣串(ほろぐし)と言われる木や竹で作った駕籠状の骨組みに布を包んで母衣とした。その形状は風船のように膨らんで見える物であった。

(四)母衣串は、熊手状・半球状・蝸牛の殻状のものなどがあった。

(五)背中に矢が当たっても身体には当たらないようにできていた。

(六)母衣武者はある程度の位の武士がなったため、母衣武者とは大変名誉な役柄であった。

(七)母衣武者は戦場で討取られた場合には、その首と母衣が戦功として持ち帰られた。

(八)主に「使番」の武者がこの母衣武者の役を担った

 

本懐(ほんかい)

(一)かねてからの念願。

(二)本望。

(三)本意

用例

・これぞ男子の本懐じゃ。

・大義によって死ぬ、これぞ武士の本懐じゃ。

 

本貫(ほんかん・ほんがん)

(一)武士の本籍地。

(二)武士の出身地。

(三)武士の出自。

(四)一族の出身地。

用例

・惟任日向守(これとうひゅうがのかみ=明智光秀)様の本貫は、美濃源氏土岐氏であると承っておりまする。

・近衛信尹(このえのぶただ)様のご本貫は藤原北家の御嫡流にあらせれまする。

 

本陣(ほんじん)

(一)戦場で軍の大将がいる陣処の事。

(二)本営の事。

(三)江戸時代の宿駅ごとにあった幕府公認の宿舎の事。

(四)大名・幕府要人・勅使・門跡寺院(皇族の高僧)が宿泊した。

(五)地元の大旅籠屋が担当した。

(六)地元の有力者(大旅籠屋)には、苗字・帯刀が許されていた。

(七)脇本陣→大名などの共の者が多い場合、本陣には宿泊出来ないので、本陣の予備に当てた宿泊所。

ロバート・フレデリック・ブルーム作「花売り」1891~1892作 アメリカの画家

(まいない)

(一)利益を得る為に要路の者にひそかに財物を贈る事。賄賂(わいろ) 事。

(二)礼として物を贈ること。またその物。贈り物。

用例

・ご家老様には、毎年欠かさず、賄を贈るのじゃ。

・越後屋め、今回の賄は奮発しおったわ。あやつも悪よのぉ。

武士が一般的に使う言葉

 

参る(まいる)

(一)身分の高い人のところへ(人・場所・建物等)行く事。

(二)参上する事。

(三)宮中などへ参内(さんだい)する事。

(四)行き先を敬う気持ちで言う言葉。

(五)物などが身分の高い人のところに来る事。到来する事。

(六)相手に敗ける事。降参する事。

(七)心が奪われる事。

(八)身分の高い人に物を差し上げる事。

(九)神社仏閣にお参りする事。

用例

・では参る…。いざ勝負!

・過日、冷泉家の御当主に呼ばれ、蹴鞠のお相手に参りましての、御当主為景様より、このようにたんと褒美をいたきまして御座います。

・これより庄内藩上屋敷への用事のついでに近くの神社に参る所存じゃ。

・ま・ま・参った!この勝負わしの敗けじゃ。

・あの美しい町娘に懸想してしもうてのう…すっかり心が奪われてしもうてのぉ、参ってしもうたわ♡。…うふっ♡。

 

前渡り(まえわたり)

(一)武士の前を横切る事。

(二)駕籠や乗り物の前を横切る事。

(三)大名行列・参勤交代の前を横切る事。

(四)駕籠や行列の前を横切る事は大変忌み嫌われた。大名行列での刃傷沙汰が絶えなかった。

(五)前渡りは別名「共先割」(ともさきわり)とも言う。

(六)大名行列の前を横切るのを許されていたのは産婆と医者のみ。

 

罷り越す(まかりこす)

(一)参上する事。

(二)参る事。

用例

・明智十兵衛光秀、お屋形様のお召しにより、ここに罷り越して御座います。

 

罷かり成らぬ(まかりならぬ)

(一)してはならない。

(二)してはいけない。

(三)許されない。

(四)許さない。

用例

・そのような事は罷り成らぬ! 

・殿の御前であるぞ、それは罷り成らぬ

 

紛者(まぎれもの)

(一)怪しい者。

(二)曲者(くせもの)の事。

(三)人をごまかす者。

(四)偽者。

(五)不純物。

用例

・各々方、我が藩の徒(かち)に紛者がおりますぞ!おいお前、我が藩の徒衆では見かけぬ顔だがどこの何奴じゃ!貴様は幕府の犬か? うぅぅ…わんわん。犬の真似をしても無駄じゃ、紛者。

 

又者(またもの)

(一)家来の、そのまた家来の事。

(二)又家来の事。

(三)陪臣の事。

(四)武家の身分の低い人の事。

(五)又者駕籠→又者が乗る駕籠の事。

用例

・わしをお主の家来にしてくれ、何なら又者でもよい、わしはお主について参るぞ。

・何とも騒がしいのぉ。何でも羽柴殿の又者が町衆と悶着起こして騒いでおるそうな。

 

町奉行(まちぶぎょう)

(一)江戸町方を支配し、司法・行政を担当した。

(二)南町奉行所と北町奉行所と二つに分かれて月番交代で勤務した。

(三)北町奉行所・南町奉行所に各一名、二名で担当。

(四)役高は三千石であった。

(五)老中配下の役職。

(六)江戸・京都・大坂・駿府などに置かれた。町奉行と言えば、一般的には江戸の町奉行の事を言う。

(七)与力・同心を配下に警察業務も行った。

 

町奴(まちやっこ)

(一)江戸初期の頃に始まった街中の侠客

(二)町人の口入れ屋(職業斡旋所)を通じて、牢人などがなった。

 (町奴)←敵対関係→(旗本奴)

(三)親分・子分の関係で成り立つ。

(四)多くは喧嘩・賭博の渡世で事をなした。

(五)収入は、ゆすり・たかり・ショバ代・上納金などで賄った。

用例

・ちっ、また町奴のやつらが来やがった。

・ごめんなすって、手前品川宿の町奴で、長次郎と申しやす。

 

瞞着(まんちゃく)

(一)騙す事。

(二)誤魔化す事。

(三)人の目をくらます事。

用例

・さすがは佐々成政(さっさなりまさ)殿じゃ、戦(いくさ)知らずの若殿を見事に瞞着し、己が軍略通りに戦を進めておるわ。

御台・御台所・御台様(みだい・みだいどころ・みだいさま)

(一)徳川幕府、将軍の正室の呼称。

(二)大臣・大将・将軍の正妻の呼称。

(三)天皇や貴人の食べ物を載せる台の事。またその食べ物の事。

用例

・この方をどなたと心得る、将軍の御台様じゃ。

・篤姫様は、この度、将軍の御台所におなりあそばすお方じゃ。

 

密書(みっしょ)

(一)秘密の文書。

(二)秘密の手紙。

用例

・とうとう見つけたわ、幕府目付への密書…草が奥襟に縫い付けておったわ。

・江戸表へこの密書を届けるのが我がミッションじゃ。

 

身共(みども)

(一)我・我ら

(二)おもに、武士階級、殿様より以下の武士が、同輩・同輩以下に対して用いた。

用例

・その事なら、身共にお任せあれ。

・身共には、全く身に覚えがございませぬ。

武士階級の同輩・同輩以下の者に対して使われた言葉。

 

三所物(みところもの)

(一)武士の刀剣の三つの装飾品の事。

(二)目貫(めぬき)・笄(こうがい)・小柄(こづか)を言う。

(三)「目貫」は刀剣の柄にある装飾品の事。もともとは柄の目釘の上に被せるように細工がしてあったが、今は「目貫」は目釘とは別の個所に施すようにしてある。柄の表と裏にそれぞれ一ヵ所づつ取り付けてある。意匠は龍であったり、花であったり様々なデザインがある。また、刀剣を持つ人にとっては、目貫の取付場所によって「手の内」、すなわち柄の握り具合がぜんぜん違ってくる。握り具合ひとつで刃筋が狂ってしまうので、目貫の場所は重要である。自分の「手の内」の好みによって、取付場所を真ん中にしたり端に寄せて握りの中に包むようにしたりした。いずれにせよ取付場所は金細工師に指示して制作させた。

(四)「笄」は髪の乱れを直したり、頭を掻いたり、身だしなみを整えるための刀剣に付属する小道具。形は小柄に似ていて柄側には耳かき状のものが付いている。材質は銅や銀で作られていて、装飾は美術品のような細工が施してある。打刀の鞘の差し表側の、鯉口近くに収納する笄櫃(こうがいびつ)というところに収納する。鍔の上からでも取り出せるようになっている。

(五)「小柄」は小刀のような手裏剣のような形をしている。木を削ったり、紐を切ったりなどに使う実用品の小刀の事。これも刀剣の鞘の鯉口辺りの差し裏側の小柄櫃(こづかびつ)というところに収納した。これも鍔の上からでも取り出せるようになっている。

 

密事(みそかごと)

(一)秘密の事。

(二)男女の密通・私通。

用例

・武士の我が娘が町人の男と密事を致すとは・・・許せぬ!

・密事を身に潜めて、日々を過ごす勘三郎であった。

 

 峰打・棟打・刀背打(みねうち・むねうち・みねうち)

(一)斬り合う相手を刀の背中(峰・棟・刀背)で打つ事。

(二)相手を殺傷せずに、闘争能力を奪う事を目的とする。

(三)峰打をする場合、あらかじめ相手に刀の背中を見せてから打つ場合、敵はここぞとばかりに峰をめがけて刀を折 (切断)り にかかる。刀の峰(棟)は柔らかく折れやすいので刀刃で簡単に折れる。

(四)であるから、TVや映画の時代劇で、相手に刀の峰を見せて、「峰打じゃ」と、わざわざ断って峰打するのは間違いである。どうぞ刀を折って下さいと言っているようなものだからだ。

 

身罷る(みまかる)

(一)死ぬこと。

(二)この世からあの世に罷り去ること。

用例

・先日、家人(けにん)の田山の母上が身罷ったそうじゃ。

・母上がたった今、身罷れた・・・。

 

冥加(みょうが)

(一)冥加金の略

(二)知らず知らずのうちに神仏の加護をこうむる事。

(三)目に見えぬ神仏の助力を受ける事。

(四)お礼・報恩の事。

用例

・助かって良かったのう・・・、これも冥加なことじゃ。

・今日は良いことづくめの冥加な日じゃ。

 

冥加金・冥加銭 (みょうがきん・みょうがせん)

(一)幕府への財政補給のため各分野の営業者に対して率を定めて課税し、上納させた金銭。

(二)上納金。

(四)江戸時代の工・商・漁業その他の営業者が藩主や幕府の許可・加 護に対する献金。

用例

・商人(あきんど)達からの冥加金が滞っておる、期限が迫っておるゆえ早く徴収致せ。

・果し合いに勝利したは、神仏のご加護の陰、冥加金をはずまねばなるまい。

骸・躯(むくろ)

(一)首を斬られた胴体の事。

(二)死骸の事。

(三)亡骸(なきがら)の事。

 

無腰(むこし)

(一)刀剣を腰に差さない事。

(二)丸腰の事。

(三)太刀を佩(は)かない事。

(四)無防備な事。

用例

・無腰の者を太刀で脅すとは、侍の風上にもおけぬ痴れ者とはお主の事よ。

・侍は外へ出るときは無腰にあらず、必ず二刀を差しておるものぞ。

・差し当たりて、無腰なれば外へでるのは危なし候へば、今一度お屋敷に留まるが善きかと存じまする。

 

武者押(むしゃおし)

(一)武者や兵が編隊を組んで、前に前進してゆく事。

用例・おぉ、猛き武者押じゃ。さすがは甲斐の武田軍、勇壮たる進軍じゃ。

 

武者屯・武者溜(むしゃだまり)

(一)城の城郭の外に沿った広い場所の事。

(二)沢山の武者が結集する場所。

(三)武者の集合・兵卒・騎馬兵等の勢揃いに当てた 

  

無宿人(むしゅくにん)

(一)住む家がない人(ホームレス)

(二)罪を犯して戸籍を抜かれて無籍になった者。

(三)浮浪人の事。

(四)本籍地を離れた者。

(五)江戸時代当時、幕府による大名家の取り潰しを狙った、改易・お家断絶などで、大量の浪人が出た。この浪人が各地を流浪し、食い詰めて盗賊や無宿人になる者が出た。

用例

・何、無宿人とな?ならばすぐに捕縛致せ。お上からのお達しで、捕縛し吟味の上、金山送りじゃ。そうなれば、死ぬまで地の中、もはや娑婆(しゃば=世間)には二度と出られぬわ。

 

無体(むたい)

(一)無理・無法

(二)ないがしろにする事・あなどる事。

(三)無駄にする事。

(四)形体のない事。反対語:有体(うたい)

用例

・あれ、何をなさいます、ご無体な!(女性殿身包みはがされなど)

・殿、ご無体が過ぎますぞ。

・そのご無体なる所存、我ら承服致しかねますぞ!

 

無刀取り(むとうどり)

(一) 柳生新陰流創始者、柳生 宗厳(やぎゅう むねよし・むねとし・そうごん、号→石舟斎が編み出した無手(素手)による、相手の刀剣を奪い取る技の事。

(二)新陰流の上泉伊勢守信綱より伝えられた技。

(三)徳川家康に請われて、本人の前でこの無刀取りを披露し、爾来徳川家の御家流剣法となる。

(四)現在では、合気道などには、数十種類の「無刀取り・太刀取り・短刀取り」の技が残されている。

 

無念(むねん)

(一)正念を失って、口惜しく思う事。

(二)不本意。残念。

(三)妄念の無いこと。

(四)無心である事。

(五)正念。

用例

・あやつに敗れて、無念じゃ! 

・残念無念! 

・む・む・無念! 

・無念無想!

 

無念腹(むねんばら)

(一)口惜しさのあまり腹を切る事。

(二)無念のあまりに腹を切る事。

(三)納得できぬ思いを抱きながら腹を切る事。

用例

・上役の罪を着せられて、我は腹を切るなり、無念じゃ、無念の無念腹じゃ。

 

宣・諾なるかな(むべなるかな・うべなるかな)

(一)もっとも。

(二)なるほど。

(三)本当に。

用例

・平右衛門は、追い詰められて、自害して果てたか、あぁ、宣なるかな。

・やはり評定所より、お家断絶が申し渡されたか。お家騒動の果てに、次々と嫡子が暗殺されてははや宣なるかな。

 

謀反・謀叛(むほん)

(一)幕府・朝廷に叛く事。

(二)密かにはかって事を挙げる事。

(三)支配者に向かって叛旗を翻す事。

用例

・足利氏が朝廷に謀反をおこしたそうじゃ。

・謀反を企てて国家転覆をはかっておるぞ。

鳴弦(めいげん)

(一)弓の弦を手で引き鳴らして妖魔・邪気を払う呪(まじな)いの事。

(二)他に弦打(つるうち)・弓弦打(ゆみづるうち)・弓鳴(ゆみならし)とも言う。

(三)天皇が湯殿で入浴の際には、蔵人(くらうど・くらんど)が戸外で控えて、この鳴弦を行う。平安時代から行われていた。

(五)湯殿での、天皇や貴人・武家の男子の跡継ぎが誕生した時の、産湯の儀の時の鳴弦は盛大である。

(六)公家だけではなく、武家もこれを行った。

(七)他に、出産・深夜の警護の時、不吉な事がある時などにも、魔障退散を願って、この鳴弦を行った。

(八)弦打(つるうち)の儀として、現在も皇居、または由緒ある各地の神社でも鳴弦は行われている。

 

明察(めいさつ)

(一)物事・状況・事態を明らかにする事。

(二)分からなかった事に答えを出す事。

(三)物事を見抜く事。

(四)察しがいい事。

(五)答えを出した人に対する尊敬語。

用例

・この難しい算術の答えはその通り、御明察じゃ。

・お目付殿の企みと分かったは御明察じゃ。その通りじゃ。

・如何様(いかさま)あやつも盗賊の一味であろう。さすがは火付盗賊改めの長谷川殿、御明察で御座る。 

 

瞑目(めいもく)

(一)死ぬこと。

(二)安らかに死ぬこと。

(三)目を閉じること。

用例

・拙者も助左衛門の死を聞いて瞑目致した。

・庄左衛門が瞑目致した事は先ほど聞き及んでおる

 

召放(めしはなち)

(一)武士の刑罰の一つ。

(二)殿様、または藩から解雇される事。

(三)家と碌の取り潰しの事。

用例

・あやつ、殿の怒りをかって召放となりおった。家は取潰しじゃ。

・あまりに出過ぎた事を云うと、召放を食らうぞ。

 

女敵・妻敵・女敵討ち(めがたき・めがたきうち)

(一)他人の妻女を強姦して犯したり、寝取ったり、密通して奪った男の事。また、女性が夫以外の男と「懐抱」「密懐」「密通」をする、不道徳行為の事。

(二)鎌倉時代→不道徳な行為に及んだ男は、処罰され社会的制裁を受けるが、殺害・死刑にされるほどのものではなかった。

(三)戦国時代→妻の不倫相手や自分の妻を殺害する事が許されていた。これを「女敵討ち」と言われ奨励されていた。女性(妻)は男の持ち物であり、それを盗まれては男の恥とされた。その恥辱をすすぐため、この「女敵討ち」をした。

(四)江戸時代→「女敵討ち」は完全に合法化され、姦通(不倫)相手も自分の妻も殺しても罪に問われる事はなかった。

用例

・何?、自分の妻が俺に飽きて浮気したので「女敵討ち」じゃとぉ?ふん、ツマるところ、妻にツマはじきにされるとは、ツマらぬ話じゃ。

 

滅却(めっきゃく)

(一)滅びる事。

(二)滅ぼす事。

(三)つぶす事。

(四)つぶれる事。

(五)無くす事。

(六)気にしない事。

用例

・「心頭滅却すれば火もまた自ずから涼し」(織田信忠に焼き討ちにされた、恵林寺の快川禅師が燃えさかる山門の上で言った言葉) 武田軍の武将佐々木次郎(承禎)を匿った罪で信長の息子信忠寺内の老若男女を山門の楼上に集め、下に藁を敷き詰めて、五十人あまりを燻し焼きにし、焼き殺した。

・武士の修行は迷いと煩悩を滅却することじゃ。

・わしのボーナスが滅却されとるぞ!

 

馬手・右手(めて)

(一)右手の事。

(二)馬の手綱(たずな)をもつ手という意味。

(三)右の方・右の方面・右の方向の事。

(四)馬手の反対語→弓手(ゆんで)左手の事。

(五)乗馬して弓を射る時、右手方向にいる獲物を射る事。

(六)馬手差(めてざし)の略語。

用例

殿、勢子どもが林から追い出した獲物の鹿は馬手に出ましたぞ!

 

滅相もない(めっそうもない)

(一)とんでもありません。

(二)そんなことありえません。

(三)そんな心外なことを言わないで下さい。

(四)そんな法外なこと言わないで下さい。

用例

・「おのれら、藩の財政が逼迫(ひっぱく)しておるのを存じておりながら、経費を水増ししておるのではない!?」「お目付殿、め・滅相も御座いませぬ!そのような事、我らは致しませぬ」

 

女童(めわらわ)

子供の女の子

用例

・あそこに捕らえし女童は、北条氏が家来の権田原の娘よ。言うなれば人質じゃ。 

 

免許皆伝(めんきょかいでん)

(一)師匠から技の全てを学び取り伝授が終了した事。

(二)禅宗の「印可」とも言い、師匠から免許状が出る事。

(三)師から弟子へ、芸道や武道などの知識・技術・奥義などがことご

      とく伝授される事。

(四)免許状の事。

用例

・わしは辻月丹先生より無外流の免許皆伝を賜った者じゃ、覚悟を持ってかかって参れ。

・お主のその太刀筋は、無外流の免許皆伝と見た。

 

面体(めんてい)

(一)顔・かたち

(二)顔つき

(三)面相

用例

・武士の面体に泥をかけおって、許せぬ、斬り捨ててやる!

・これは武士の面体に関わる事じゃ。

・お主は面白き面体をしておるの。

 

面目ない(めんぼくない)

(一)人に合わせる顔・世間に対する名誉。

(二)恥ずかしくて人に顔向け出来ない事。

用例

・これはわしの失態じゃ、面目ない!

・いやはやまったくもって面目ござらん。

 

面妖な(めんような)

(一)不思議な事。

(二)奇妙な事。

用例

・あの女は柳の下で何をしておる。はて、面妖な。

・あやつ、面妖なつらをしとるのぉ。

益田 孝  三井財閥出身の実業家 総合商社三井物産の創業者(1848~1938)男爵位 

大茶人 益田鈍翁としても著名

虎落(もがり)

(一)戦場(いくさば)にて竹や木を用いて、先端を斜めにそぎ落とし尖ら

せたものを互い違いに紐で結わえて、組み合わせた柵の事。

(二)防護柵の事。

(三)中国では虎を防ぐ柵の事を言う。

 

目録(もくろく)

(一)武術・芸道を伝授し終わった事を記して、授与する文書(もんじょ) または巻物の事。

(二)所蔵・出品された品目を整理して並べ記した物。

(三)進物の品々の名を記した物。

(四)書物の中の目次。

用例

・こちらは、剣術の師より目録を賜った師範代じゃ。

・道場破りに、目録を頂いた先輩方までもやられてしまうとは・・・。 

 

(もとどり)

(一)侍の髪を頭頂でまとめたところ。

(二)たぶさの事。

(三)髻を切る→出家する事。

(四)髻を切る→髻を切って、ざんばら髪にして武士として恥をかかせる事。

用例

・鷹狩用のこの笠も髻が邪魔で被りにくいのう。

・死んでお詫びが出来ぬなら、この髻を切って出家を致そう。

・遠き戦場(いくさば)で死んだ、この者の髻を切って遺髪としようぞ。 

拙者の髻(もとどり)が斬られた~元通り(もとどうり)にしてくれ

 

者共(ものども)

(一)身分の低い者。

(二)身分の低い従者・家来などを呼ぶ時に言う言葉。

用例

・決戦じゃ!者共、いざかかれぃ。

・者共、我に続け! 

 

武士(もののふ)

(一)武勇をもって仕え、戦陣に立つ武人の事。

(二)強者(つわもの)・武士(ぶし)

(三)古い上代より侍の勇者を言った言葉

用例・やぁやぁ、我こそは源の朝臣(あそみ・あそん)音に聞こえた武士(もののふ)なり。

・古(いにしえ)の武士(もののふ)もかくありたもうや。

 

物見(ものみ)

(一)敵の様子を見張る事。偵察する事。

(二)敵の様子を見張る人。偵察する人。

(三)戦闘する場所の地形・軍陣の配置・敵の戦闘員数・士気・城の形状や構造等々多岐にわたる様々な情報を集めた。

(四)斥候(せっこう)とも言う。

(五)別名「うかみ」とも言う。←うかがい見るの略語らしい。

 

物見櫓(ものみやぐら)

(一)城郭などで、四方を遠望・展望するために設けた高楼。

(二)敵方の敵状を物見するための建物。

(三)鉄砲で櫓下の敵に鉄砲を射かけるための高楼の事。

(四)敵の偵察や応戦するために材木を組み合わせて建造した高さのある構築物の事。

(五)建築現場の足場として組上げた建築物の事。←櫓(やぐら)

 

物見遊山(ものみゆさん)

(一)行き先で、景色や物を見物して、遊んで過ごす事。

(二)観光旅行の事。

(三)物見と遊山。

用例

・馬鹿を申せ、此度(こたび)江戸表へ参るのは、藩の重要な任務のため、物見遊山で参るのではないわ。

 

股立・高股立ち・高股(ももだち・たかももだち・たかまた)

(一)袴の左右の腰の側面にあたる空きの縫い止めのところ。

(二)股立を取る→袴の左右の股立をとって袴の帯に挟む事。

(三)戦いや走る時、雨の日、または雑役をする時に袴の裾をあげて股立をした。

用例

・ご同輩、走るには股立がようござるぞ。

・試合う前に、股立を致す。

織田信福 <1860~1926>土佐宿毛出身 土佐高知初の歯医者 伊賀家家臣の家系

役儀(やくぎ)

(一)やくめ・勤め

(二)租税・課役

用例

・江戸表の参勤は役儀ながら、辛(つろ)御座(ござ)る。

・これも役儀にて、失礼仕る。

・その方は、己(おのれ)の役儀を何と心得る!

・お主ら百姓は年貢の納(おさめ)が役儀であろう!

 

約定(やくじょう)

(一)人と人が物事を約束して定める事。

(二)約束の事。

(三)契約の事。

(四)約定書=約束した項目を書面に書き記して取り交わす書面の事。証書の事。 

 

益体(やくたい)

(一)役に立つ事。

(二)きちんと整っている事

用例

・益体もない者よのう、そちは。

・お主は、益体なしじゃ!

・全く、益体もない。

 

矢立(やたて)

(一)墨壷に筆の入る筒が付いた携帯型筆記具。帯に挟んで携帯する。

(二)矢を収めて立てておく道具。

(三)矢立の硯(すずり)の略。武将が戦の陣中で携帯した小さい硯箱。

用例

・戦場ではいつ命果てるやも知れぬ、時世の句を読みたい、矢立をもて。

・おおそうじゃ、先に文を届けねばならぬ。この矢立と懐紙で文(ふみ=手紙)を書くとすか。 

 

槍場(やりば)

(一)戦場(いくさば)の事。

(二)槍を合わせて戦う所。

用例

・武士の男子の本懐は、槍場(戦場)で首級を挙げる事よ!

・武芸の稽古なら、槍場にて行えばよい、拙者も後から参るぞ。

 

止事無(やんごとなし)

(一)身分・地位などが極めて尊い事・人。

(二)高貴である。重々しい。

(三)一通りでない、特別である。

(四)よんどころない。捨てておけない。

用例

・あのお方は、やんごとなきお人にて高貴なお方である。

・やんごとなき方々には、我ら衆のことなどは、ご理解も出来すまい。

 

やんぬるかな

(一)もうおしまいだ。

(二)今となってはどうしようもない。

用例

・やんぬるかな、もはや手遅れじゃ。 

・それは真(まこと)か?あぁ、やんぬるかな!

猶子(ゆうし)

(一)養子の事。

(二)兄弟の子等の事。甥・姪の事。

(三)兄弟・親族・他人の子供を養い育てて自分の子としたもの。

(四)名義だけの猶子と跡継ぎとする猶子の場合と二つの猶子があった

(五)戦国時代、信長は正親町天皇(おおぎまちてんのう)の第五皇子の誠仁親王(さねひとしんのう)を自分の猶子とし、京都に二条御所を普請し、ここに住まわせた。←(幽閉・軟禁していたとの説もあり) 信長は、次世代の天皇に自分の猶子、誠仁親王を立てて皇位を簒奪し、朝廷を後ろから操ろうとしていた。

*二条御所は今の烏丸御池交差点の所、京都国際漫画ミュージアムの建っている場所にあった。本能寺の変で、この二条御所に逃げ込んだ信長の長男信忠も光秀の軍勢に滅ぼされた。

 

遊女と売女(ゆうじょとばいた)

(一)幕府公認の吉原などで働く公娼を遊女という。

(二)それ以外の私娼(夜鷹など)は売女(ばいた)いう。

(三)女性を蔑(さげす)み貶(おとし)めるために言う言葉

用例

・この売女、この俺に近づくんじゃねぇ!しばいたろうか!

・この俺を裏切りやがったな。許さねぇぞ、この売女!

 

有職故実(ゆうそくこじつ)

朝廷や武家の典例・礼式・官職・法令・典故などに関する古来よりの決まり事。

用例

・此度(こたび)の五摂家への供応は、有職故実に長けた諸角氏(もろかどうじ)に馳走なさっていただこうかの。

・朝廷とのやり取りは有職故実に秀でた惟任様(明智光秀)に、との信長様のご用命で御座る。

 

右筆・祐筆(ゆうひつ)

(一)武家の職名。

(二)武家や貴人に仕えて公文書記録や日記・手紙の代筆を司った人。

(三)筆を取って文を書く事。

(四)奥向きは「御祐筆」と呼ばれた。特に幕府や藩の機密文書を扱っっているため、祐筆としての地位は高かった。

用例

伊達家へ依頼の文を届けたい、たれか祐筆を呼べ。

・見事なお家流の筆運びじゃ、流石は我が藩の祐筆じゃ。

 

遊郭・遊廓(ゆうかく)

(一)多くの遊女屋が集まっている地域の事。

(二)色里(いろさと)

(三)色町(いろまち)

(四)廓(くるわ)

用例

・ここの遊廓はつぶ揃いの遊女がいるので有名じゃ。

・どうじゃ精進落としで、ひとつ今夜は遊廓で楽しもうではないか。

 

宥免(ゆうめん)

(一)罪を許す事。

用例・番所より、未だ宥免のお沙汰が無い故、お前を無罪放免と云うわけには参らぬ。

 

尿(ゆばり・いばり・ばり・しと)

(一)小便の事。

(二)ばりは、ゆばり・いばりの略語。

(三)ばりはもともと動物の尿の事を言ったが、人の小便を下賤なものに見立ててばりと言った。

(四)品の良い上級武士は小便の事を「しと」と言った。

用例

・どれ、ゆばりでも致してから本殿へ参り申そう。

・年のせいか、ばりが近くてのう、これから登城というに、まったくかなわんて。

・しとがしとしとと出おるわい。年のせいかきれが悪くなったのう。わしゃ悲しいぞ(泣)。

・(^^♪~しとしとぴっちゃん、しとぴっちゃん、しぃとぉぴっちゃん。帰らぬちゃん(父)を待っている。ちゃん(父)の仕事は刺客ぞぉなぁ~♪。ご存知「子連れ狼」の題歌。

 

弓手(ゆんで)

(一)弓を持つ方の事。

(二)左手の事。

(三)左の方角の事。

(四)犬追物をしている時に、左の方角の犬を受けて犬の左を射る事。

(五)弓手横→左の側面の事。犬追物では的の犬の左横の事。

(六)弓手の反対語→馬手(めて)右側の事。

明智光秀像 (本徳寺蔵) 戦国武将 安土桃山時代1516 ? or 1528 ? ~1582年

(よ)

(一)我・おのれ

(二)餘余る事。あまり。それ以上である事。

(三)その他・それ以外。

用例

・それは余の儀ではない。

・余は満足じゃ。

・余に意見があれば、苦しゅうない、遠慮なく申

殿様クラスが使う、自分を示す言葉。

 

宣候・良候(ようそろ)

(一)船の舵を司る(つかさどる)役目の人がいう言葉。

(二)宜しく候(よろしくそうろう)の略語。

(三)そのまま、真直ぐに進んで下され、という意味。

用例

・面舵(おもかじ=右側への転舵)いっぱ~い、ようそろぉ~。

・取舵(とりかじ=左側への転舵)いっぱ~い、ようそろぉ~。

・天気晴朗なれども浪高し、帆を揚げぃ前進じゃ!ようそろ~。

 

用人(ようにん)

(一)江戸時代、幕府や・大名・旗本などの家で、庶務・会計の任務に当たった人。

(二)働きのある人・有能な人。

用例

・御用人にあるまじき振る舞い、見過ごすわけにはゆきませぬぞ!

・あの方は、飛騨守様のお側用人じゃ。

 

余儀ない(よぎない)

(一)やむおえない事。

(二)他にとるべき方法がない事。

(三)へだて心がない事。

(四)他事ない事。

用例

・これも仕方がない、余儀ない事じゃ。

・関所に通ずる道が、土砂に埋もれておる。山道を行こう、これも余儀なき事よ

・あのお方は誰に対しても、余儀ないお言葉をお掛け下さる方じゃ。

武士一般が使った言葉。 

 

横目(よこめ)

(一)監視をする事。またはその人。

(二)悪者・違反者・謀叛・怪しい者を見つけて密告する役の者の事

(三)横目付の略。

用例

・あやつ、徒目付手配の横目じゃ、気をつけろ。

・見よ、横目の顔を。また流し目(横目)で女を見ておる。いやらしい横目じゃ。 

 

夜鷹(よたか)

(一)江戸時代、夜中に道端で客を引く、下賎な売春婦の事。

(二)ござを持って橋の下、草むら、船上、家の陰などで、男性に春を

売った女性の事。

(三)夜中に夜歩きをする者のたとえ。

(四)夜鷹と言う名前の鷹(鳥)の事。

(五)夜中まで蕎麦を売っている蕎麦屋の事。またその蕎麦の事。

用例

・兄さん、ちょっと遊んでいかないかい?お安くしとくよ。

・柳の下に、女の幽霊がいると思ったら、何でぇ夜鷹じゃねぇか、脅かすない。

・お主、昨夜、夜鷹の所に寄ったか? 

 

よしなに(よしなに)

(一)良いように。

(二)よろしく。

用例

・坂田殿にはよしなにお伝え下され。

・そこのところは、何卒(なにとぞ)よしなに・・・。

武士一般が使った言葉。 

 

誼・好(よしみ)

(一)親しく交わる事。

(二)親しい交友関係。

(三)交誼(こうぎ)の事。

(四)縁(ゆかり)・因縁(いんねん)など。

用例

・先代の父上からの誼(よしみ)での、両家は姻戚を結び、長らく交誼が続いておる次第じゃ。

・あやつとは誼を通じておる。

・何を言うか水臭い、昔からの誼(よしみ)ではないか。

 

世迷言(よまいごと)

(一)独り言で、不平・不満・愚痴を言う事。またはその言葉。

(二)訳のわからぬ、繰り言。

用例

・何の世迷言を申しておる、口にしてもどうなるものでもあるまい。

・お主の世迷言は聞き飽きたわ。

 

よもや

(一)まさか。

(二)どう間違っても。

(三)きっと。

用例

・よもや、これが間違いと言う事はあるまいな。

・よもや、こんなありえぬところから、敵が攻めて来るとは!

 

よんどころない

(一)やむを得ない。

(二)余儀ない。

用例

・よんどころない理由をもって遅れ申した。

・これも、よんどころなき事じゃ

来駕・御来駕(らいか・らいが / ごらいか・ごらいが)

(一)他人の訪問・来訪の尊敬語。

(二)上司・主君などの来訪を言う尊敬語。

 

落着(らくちゃく)

(一)解決する事。

(二)片付く事。

(三)落ち着く事。

(四)決まりがつく事。決定。

用例

・これにて一件落着!

・連続火付けの下手人が捕まって、これで落着じゃ。

 

埒もない(らちもない)

(一)順序がばらばらの事。

(二)乱雑である事。

(三)つまらない事。

(四)しまりがない事。

(五)無茶苦茶な事。

(六)くだらない事。

(七)もともとの言葉は「﨟次(らっし=物事の区切りの事)もない」

用例

・埒もないこと甚(はなは)だしいわい。

・なんと埒もない仕事ぶりよ、お前の能力が判るというものじゃ。

 

乱行(らんぎょう)

(一)行いが収まらないこと。

(二)妄りな行為・不行跡(ふぎょうせき)

用例

・近頃の殿のご乱行は如何にしたものか。

・お主のその乱行が治まらねば、今ここで斬る!

 

乱心(らんしん)

(一)心が狂い乱れる事。

(二)気の狂う事。

用例

・殿がご乱心なされたぞ! 

・お主、何をする!乱心致したか!

慮外者(りょがいもの)

(一)無礼者・不躾者。

(二)思いの他である事・者。思いがけない事・者。

用例

・この慮外者!手打ちにしてくれるわ!

・この慮外者は何奴!

流・流罪(る・るざい)

(一)刑罰として僻地・辺地へ人を流す事。

(二)律令では五刑の一つ。

(三)刑罰の重さによって近流(こんる)・中流(ちゅうる)・遠流(おんる)と三種類があった。

(四)近流は越前・安芸など。中流は信濃・伊予など。遠流は伊豆・佐渡・隠岐・土佐など。

(五)江戸時代にはこれに遠島(えんとう)=御蔵島・八丈島などへの島流しの制度が加わった。

(六)流罪の期間は赦免が出るまでの無期限とした。

(七)流人の監視は各国司が行った。

 

留守居役(るすいやく)

()江戸詰で妻子と暮らしている定府(じょうふ)の武士のこと。

()中級武士の中から藩より拝命されて江戸定府となる。

()役目は幕府・諸藩との連絡・調整・情報収集など。

()藩主の江戸城登城に同行した。

()殿中にては役人や同朋衆などと接触し情報収集や調整を行った。

()他藩の留守居役と組合を作って頻繁に会合をもっていた。

(七)高級茶屋での会合が多く豪奢で金遣いが荒く、世間や幕府の批判の的になっていた。

 

流人(るにん)

(一)流罪で島流しに処せられた人。

用例

・こやつが五年の島送りの年期を勤め上げ、江戸に帰って参った流人の権八郎じゃ。みんなで権ちゃんと呼んで仲良くしてやってくれ。

例繰方(れいくりかた)

(一)犯罪の内容や犯罪の判例などを記録し整理し保存する係。

(二)犯罪や判例の書記官。犯罪資料の保管係。

(三)与力が二人、同心四人でもって記録・資料の保管・活用を行った。

 

簾中・御簾中(れんちゅう・ごれんちゅう・ごれんじゅう)

(一)徳川幕府の御三家・御三卿の当主の妻の呼称。

(二)簾中(すだれの中)の人という意味。

(三)貴い婦人(貴婦人)の事を言う。

 

連歌(れんが)

(一)和歌(短歌)の五・七・五・七・七の形式を上句の長句(五・七・五)と下句の短句(七・七)に分けて、お互いに和歌を詠み合う形式歌会の事を言う。

(二)第一句を発句(ほっく)、次句を脇(わき)、第三句を第三(だいさん)、最終句を挙句(あげく)と言った。「挙句果て」と言う言葉はここから来ている。

(三)万葉集の大伴家持(おおともの・やかもち)の和歌の唱和が始まりとされている。

(四)戦国時代から武士の重要な教養であった。

(五)連歌は百句を読み継いで行く「百韻連歌」、または三十六歌仙に

なぞらえて、三十六に継いで行く「歌仙連歌」などがある。

(六)連歌では、言葉をもって同じような世界観・発想・イメージで歌を詠まなければならない。これを「輪廻」(りんね)と言う。

(七)武士・町人・公家などが、階級を越えて、寄り集まって連歌会が催されることもあった。

(八)連歌会は職業を越えての集まりであるが故に、情報交換の場、人間関係の繋がり(ヒューミント)を作る場でもあった。

 

連歌合(れんがあわせ)

歌合わせのように、作者を左右二つに分けて、詠んだ句を判定者が批評し、連歌の和歌の優劣と勝負を競う会の事。

 

連判・連判状(れんぱん・れんぱんじょう)

(一)二人以上の複数の者が文書に署名・印判・花押などを書き連ねる事。

(二)複数の二人以上の者が連署した書状の事。

(三)連判状=連印状

用例

・これが彼奴ら(きゃつら)天誅党の連判状か? これで謀反人の共の名が明らかになったわ。

労咳(ろうがい)

(一)肺結核の事。

(二)肺結核の漢方名

用例

・あの娘も労咳じゃ、もはや長くあるまいて。   

・ごほっごほっ、は、早く労咳の薬をわしにくれ。ごほんと言えば龍角散。

 

籠居(ろうきょ)

(一)武士の刑罰のひとつ。

(二)閉居の事。

(三)自宅謹慎をして、家に閉じこもっている事。

用例

・高柳殿は只今籠居の身の上にて、外出はかないませぬ。

・藩としてその方に籠居を言い渡す。

 

老中(ろうじゅう)

(一)江戸幕府の最高職。

(二)幕政を統括し、大名の支配、朝廷の事を扱い、遠国の役人などを直轄した。

(三)定員は四~五名、月番での交代勤務であった。

(四)二万五千石以上の譜代大名から補任された。

(五)他に執政・宿老・奉書連判・加判・年寄とも言われた。

 

狼藉(ろうぜきもの)

(一)理不尽に他人を犯すこと。犯す者。

(二)乱暴・暴行の事。暴行する者。

(三)乱雑した様・散乱した様。

用例

・老中、酒井雅樂守(さかいうたのかみ)と知っての狼藉か!?   

・狼藉の限りを尽くした、お主に免罪はないと思へ。

・この狼藉者は何奴じゃ!?

・狼藉者じゃ、出会え出会え!

 

郎党・郎等(ろうどう・ろうとう)

(一)所領を持たない家来。

(二)所領を持たない従者。

(三)武士ではあるが、仕える主人とは血縁関係のない従者。

用例

・それ、戦じゃ。一族郎党総出で軍備にかかれ!

・一族郎党皆殺しじゃ!

 

浪人(ろうにん)

(一)主家を辞め・去り、俸禄を失った武士の事。

(二)職を失った武士の事。職を失う事・失った者の事。

(三)浪人は武家屋敷に逗留してはならない、寺院に寄宿してはならないという不文律があった。

(四)ゆえに、店借りして町屋に住むことになる。

(五)家持の人に身元保証人になってもらい、武家屋敷に足軽や中間として雇いいれてもらう。そしてあちこちの武家で、一年毎の年季奉公で必死に食らいついて働いた。武家に一年以上奉公できない場合には、そのまま江戸に居ることが出来ないことになっていた。

用例

・我が主君は改易となり、我等も今日から浪人の身分じゃ。

・念願叶って、新しい主家に雇入れが決まった。これで浪人ともおさらばじゃ。

 

牢人(ろうにん)

(一)牢に入れられている者。

(二)囚人の事。

(三)牢籠人(ろうろうにん)の略。

(四)中世・近世の時代に主家を去り封禄を失った武士の事。

(五)浪士の事。

(六)浪人の事。

用例

・あの汚いお侍じゃが、信濃の出の牢人らしい。

 

(ろく)

(一)士官する者に下付される給与。

(二)当座の賞与・かずけもの。

(三)天から与えられるさいわい。

用例

・今の当主から禄を頂いておる。

・我等も禄を食(は)んでおる。

・あやつら、ろくな仕事もせずに無駄に碌を窃(ぬす)んでおる。誠けしからぬじゃ。

武士が一般的に使う言葉 

 

路銀(ろぎん)

(一)旅用の金。

(二)旅費の事。

用例

・江戸表まであと少し、路銀も少々心細くなっておったわい。

・わしらは、山賊じゃ、お前の路銀の有り金すべ出しやがれ!

 

陸尺・六尺(ろくしゃく)

(一)武家に直接雇われた六尺(身長180㎝)の身の丈のある駕籠担ぎの人。

(二)力者(りきしゃ・りょくしゃ)の訛った言葉。

(三)担ぐ駕籠を平行に保つため、同じ身長の者が選ばれた。

(四)武家に雇われているため、武家屋敷で待機していた。

(五)陸尺袢纏(ろくしゃくばんてん)という袢纏を着込んでいた。

(六)六尺という言葉の表現だと、一般の駕籠かきのことまでを含んだ言葉となる。

若党(わかとう)

(一)若い武士・侍。

(二)若い郎党。

(三)武士の従者。

(四)馬には乗れない若侍。

用例

・鷹狩りを致すゆえ、殿の馬廻りに若党数人をつけよ。

・我らは若党じゃ、命を惜しまず働くのが我らの務めぞ!

 

若年寄(わかとしより)

(一)老中支配以外の旗本・御家人を統括・支配した。

(二)譜代小藩の大名が任命された。

(三)三~五名が任務にあたった。

(四)将軍家の家中・家来を統括・指揮した。

 

脇差(わきざし)

(一)刃を上向きにした打刀(うちがたな)の形式と同様の刀で短い方を指す。

(二)大刀の方を「本差(ほんざし)」と呼び、予備としての短刀を「差副(さしぞえ)」と呼んだ。戦国時代にこの「差副」が「脇差」と呼ばれるようになった。

(三)戦国時代からあり、江戸時代には、大刀(太刀)と小刀(脇差)を同時に帯に差す形式が定着した。江戸時代の武士は、外出するときには、必ず二本差でなければならないと決められていた。

(四)江戸時代には、脇差の長さは刃渡り二尺(約60㎝)以内と決められていた。

(五)城へ登城する時や他人の家に入る時にも、本差し(大刀)は預けるが、この脇差だけは差して登城し入室した。理由は刀は武士の誇りということ。そしてもうひとつは、護身用のためであろう。また、いつでも切腹出来るようにと差していたと思われる。

 

業前(わざまえ)

(一)その人の技術の事。

(二)その人の腕前の事。

(三)手並み・技量の事。

用例

・そちに、我が天真正伝香取神道流の業前を披露致そう。

・あの業前は、並々ならぬものと見た。

 

業物(わざもの)

(一)名工が鍛え、造り上げた、切れ味の優れた刀剣の事。

(二)名剣・名刀の事。

(三)なすべきわざの多い能の曲の事。

用例

・これが古刀の名工、鎌倉一文字の大業物の刀剣よ。

・この刀剣は無銘だが、室町に遡る名工の業物に違いない。

 

渡り中間(わたりちゅうげん)

(一)中間は平民と武士の間の人間と云う意味。

(二)脇差一本のみ差すことを許されていた。

(三)渡りと云う名の通り、一時雇い・臨時雇いで雇われ、あちこちの旗本・大名を渡り歩いた。

(四)口入れ屋(くちいれや=職業斡旋所)などから、年季奉公のような形で雇入れるのが普通。

(五)大名行列の奴(やっこ)や槍持ち・草履取り・挟箱持ち・長持ち運び、馬の口取りなどの雑用係である。

(六)部屋住まいなので、そこで賭場を開いて博打を打っていた。そこには、町人・やくざ・浪人・底辺の人間などが出入りしていた。

 

渡り用人・旗本渡り用人(わたりようにん・はたもとわたりようにん)

(一)旗本に臨時に雇われる用人。

(二)武士でも町人でもない身分で、雇われた時だけ武士となり、刀も 二本差しとなる。

(三)貧乏旗本は恒常的に用人の家来を雇う事ができない。必要な時だけ、このような渡り用人を雇っていた。

(四)貧乏な旗本屋敷を次から次へと渡り歩いて働いた。

(五)渡り用人には苗字はなく、その雇われ先に合わせて、その都度苗字を名乗ったそうである。

(六)江戸末期に、実在した渡り用人の片岡直次郎(通称:直侍なおざむらい)の事件が有名。河竹黙阿弥がこれを取り上げて歌舞伎の演目にした。今でも有名な歌舞伎の演目になっている。直侍は、ゆすり・たかり・詐欺の常習犯で悪党・無頼の徒であり、のちに幕府に捕縛されて刑死した。

 

和睦(わぼく)

(一)敵対する者と講和をする事。

(二)敵対する者と一時停戦する事。

(三)和解する事。

(四)仲直りする事。

(五)和合する事。

(六)和らぎ睦む事。

用例

・信長公、洛中本能寺に於いて弑逆との報を聞き候へて、筑前秀吉公毛利方と和睦を相結び、すぐさま中国大返しを決行なされ候。

 

童衆(わらし)

(一)子供・少年の事。

(二)童衆(わらししゅう)の訛った言葉。

(三)子供達の事。

 

(わらはべ・わらべ・わらし)

(一)子供・子供等(ら)の事。

(二)子供の召使・下僕の事。

(三)自分の妻を卑下して言う言葉。

用例

・昨夜、妖怪枕返しに会うたわ。それとも座敷童(ざしきわらし)であったか?

・お前は、この度元服を果たした。もはや童(わらはべ)のようであってはならぬ。

武士・他の階層の人間も使った言葉。

 

妾・私(わらわ)

(一)女性の自分の事を言う。わたし。

(二)自分をへりくだって言う言葉

用例

・わらわは、そのような事は存じおらぬわえ。

・わらわを誰と心得る。将軍の御台じゃ。

上級武士の妻女が使った言葉。

この「侍の言葉」単語集は、時代劇映画・時代劇小説・古語辞典・古文書などにみられる、侍が日常に使っていたであろう、言葉を集めて記載してあります。なるべく江戸時代に使われていたであろう言葉を中心に集めました。鎌倉・室町・戦国時代・江戸時代と、時代によって、武士の言葉とその使われ方にも違いがあります。よってこの単語集には、時代を越えて混ざり合っている場合もありますのでご注意下さい。厳格な国語学・言語学に基づいての単語集ではありませんので、時代考証によっては間違った言葉や使い方をしているものもあるかもしれません。もし、単語、または使い方に間違いがありましたら、ご容赦下さいませ。この単語集はあくまで参考程度にご覧下さい。            (侍道-殺陣塾ホームページより)


徳川家康社務廻式判物

安土桃山時代  慶長五年(1600)五月二十五日付 

石清水八幡宮蔵 京都八幡田中家宛 紙本墨書 家康花押


織田信長領地朱印状

安土桃山時代  天正三年(1575)十月十八日付 

石清水八幡宮蔵 京都八幡田中家宛 紙本墨書 信長朱印(天下布武)

領地安堵と直接支配の許可状


織田弾正忠信秀判物

おだだんじょうのちゅうのぶひではんもつ

安土桃山時代  天文十二年(1543)二月廿一日付 

名古屋市博物館蔵 加藤図書助・加藤隼人・加藤又八宛 紙本墨書

買得領地所有権保護と陸海往来の保証の許可状 信秀は信長の実父


豊臣秀吉領知朱印状

安土桃山時代  天正十七年(1589)十一月廿日付 

石清水八幡宮蔵 京都八幡田中家宛 紙本墨書 秀吉朱印

検地指出帳に基づく領地安堵状



以後、不定期に加筆します。